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宇宙猫は今日も宇宙(そら)に向かってアンテナを伸ばす  作者: 深川我無@書籍発売中
電波少女と宇宙猫

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20/91

File20 アーケードと行き着く先

 結論から言うと、お化け公園で女子生徒が殺されたり失踪したという事件は一件も無かった。

 

 映像や髪型からして二十年か三十年ほど前だろうとあたりをつけるも全滅。

 

 それ以前に範囲を広げてもそれらしい事件は何一つ出てこない。

 

 それどころか、あの公園での怪奇現象につながりそうな事故すら一つも見当たらなかった。

 

「これだけ探して一件もヒットなしかよ……」

「おそらく情報統制。影の政府はあの公園にある秘密を隠蔽しようとしている」

「そんなわけないだろ……仮にそんなことしたら遺族や周囲の人間が黙ってない」

 

 星崎はそんな僕を白い目で見ながら、小さなため息をついた。

 

 はい。これからムカつくこと言う顔。

 

「空野は巨人の存在を知ってる?」

「当たり前だろ……」

「それは空想上の巨人を知っているという意味。以前、地方の土砂崩れの現場映像で巨人の骨の全体像が映ったことがある」

「見間違いだろ。そんなの」

「見間違いじゃない。多くの人が目撃している上に、番組は慌てて画面を切り替えてCMに移った。番組スタッフは誰もそのことに触れない。あれはおそらく、生放送で起きた予期せぬアクシデント。でもキャスターやアナウンサーは顔色一つ変えず番組を進行している。情報統制にメディアの存在は不可欠で彼らはグルという証拠」

「仮にそうだとしても、今回の件とは無関係だろ?」

「何かしらの隠したい秘密があるんだと思う……」

 

 無言の僕らを土曜の図書館の微妙な静寂が包んだ。

 

 どちらからともなく僕らは立ち上がり、図書館を後にする。

 

 すべきことは決まっていた。

 

 もう一度あの場所に行き何か手がかりを探すしかない。

 

 高く昇った太陽が白々しく輝いているうちに。

 

 夕闇が来る前に。

 

 商店街を抜けてあの踏切を越えると、やはり空気が一変する。

 

 寂しい、寂しい、寂しい……

 

 誰かがずっと啜り泣く声が、背筋に纏わりついて離れないような、そんな空気の灰色の街。

 

 一体何のためにこんなことを?

 

 そんな疑問が湧きだして溢れそうになったその時、見覚えのある影が僕らの前を横切った。

 

「なーん……」

 

「ドラリオン⁉ どうしてここに?」

「僕が知るわけないだろ?」

 

 こちらを見てそう言った星崎に僕は思わず言い返す。

 

 キジトラはこちらをじっと見つめたままで、その姿はまるで「付いてこい」と言わんばかりだった。

  

「付いてこいと言ってる……」

「まさか……」

 

 しかし星崎がキジトラに歩み寄ると、それを確認したかのように猫はこちらに背を向けて音もたてずに進み始めた。

 

 キジトラは公園の正面口を迂回するように、ぐるりと弧を描いて僕らを公園の裏手へと導いていく。

 

 やがて公園の裏手に着くと、そこは死んだ街路樹が立ち並ぶ古いアーケードになっていた。

 

「どこに続いてる?」

 

 星崎に尋ねられ、僕はスマホの地図を起動した。

 

 デフォルトの地図ではよくわからない。

 

 衛星写真に切り替えた僕は、そこがかつて小さな商店街だったことに気が付き、なぜだか小さく息を呑んだ。

 

「昔はここに、商店街があったみたいだ……」

「この先には何がある?」

 

 僕は地図を指でなぞって商店街の行き着く先を確認した。

 

 アーケードのちょうど行き止まりには、今はもう経営していないであろう『大塔(だいとう)総合病院』の文字が浮かんでいた。

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