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072:待ち人来たる 迎えるは十三夜

「るーな、のくたー、なんだって?」

「ルーナ・ノクターナス・イドゥス・セプテムブリス。皆様の言語にあわせて説明いたしますと9月13日の夜の月、という言葉になります。本当は十三夜と付けたかったそうなのですが女性の名前としてどうなのか、呼びにくいだろうということで考えて考えて、考えすぎてこうなったと聞いております」

自分の名前のいわれを説明し、誇らしげに胸を張った。気に入っているのだろう。

「じゅうさんやというのは分からないけれど、名前で考えすぎるっていうのはちょっと分かるわね。私の名前はおばあちゃんのそのまたおばあちゃんの名前からもらったのだけれど、候補を山ほど用意して悩みすぎて決められなかったところへおばあちゃんが自分のおばあちゃんの名前だからこれがいいって言って決まったって言っていたものね。やっぱり悩むものなのよ」

誰しも思い当たりことはある。家族の名前、知人の名前、猟犬や番犬の名前、誰しも悩むものなのだ。

「あー、とにかくだ、ルーナね、分かった、よろしく頼む。それで、まあ聞いちまうんだが、ここからは動けないのか?」

カウンターの向こうにいる彼女の腰から下は見えていないがどうも動けるような気配がない。上半身、腕や頭は良く動くのだが、足が動いているようには思えなかった。

「そうですね。私は皆様のような足を持ちません。私の下半身は特殊な形状をしておりまして、立ち上がりますと皆様よりもだいぶ背が高くなってしまいます。それに歩くことに適した構造もしておりませんし。この部屋の中でしたら座席のまま移動が可能ですのでそれで十分なのです。塔の中を動けないその代わりにこちらの、モノドロンというのですが、これが私の目となって塔の中を移動しております」

やはりそうだったのだ。足の構造が違うというのがどの程度を言うのかは分からないが、カウンター越しに見える部屋の床には線のようなものがあちらこちらと走っていて、それが棚の前に集中している。これが移動範囲ということなのだろうと想像された。

そしてそういう仕組みになっているとなると分かると次は見た目が気になってくる。動かず黙っていると、どうしても陶器製の人形のように見えるのだ。

「それじゃルーナ、あなたは人なの? えと、人形なの? 機械なの?」

「私の見た目のことですね。人形にお見えになっていることでしょう。こう見えても私はヒトに分類されておりますよ。ヒト科ドール属アルケイン・ドール種。アルケイン・ドールは私が唯一の個体となります」

人形に見えるが人。この時点でよく分からない。

「えっと、分かんないな。ドールっていうのは人形のことじゃないの?」

「ドール属は一見すると人形のように見える生物の総称だと考えていただければ。これでも生物ではありますので、人型ということも踏まえヒト科に分類されております」

説明を聞いていてもよく分からないのだが、とにかく彼女からすると自分は人だという主張はなされているようだった。

「分かった、よく分からないがとにかく人ってことでいいんだな。で、この世界ではそのドール? ってのが主流なのか?」

「いえ、ドール属そのものは現在4種のみですね。ヒト科ということでしたら現在は6属72種が存在しております」

「72種? 人の種類がそれだけいるっていうこと? エルフとかドワーフとかも含まれるのかな」

「含まれます。エルフ、ドワーフは独立した属となっていてそれぞれ数種類の種を持ちますよ。皆様と同じ姿形ということでしたらヒト科ヒト属、以下現在は10種が存在しております。最大勢力はブレトン、そのほかノルド、エンシス、ターレンシス、クルソワなど」

「わー、さらに分かんない。えっと、私たちは何になるの?」

説明を聞いていても分からない。ずっとそんな雰囲気が満ちているのだが、説明する彼女は楽しげだった。とにかく全部で72種類の人種がいるということでいいのだろうか。

「それも踏まえまして改めて登録をお願いしたく。それによって初踏破者の称号もおつけいたしますし、ステータスの詳細も分かりますが、いかがでしょうか」

「あー、そうだったそうだった。言っていたな。どうやるんだ?」

「少々お待ちください――お待たせいたしました。こちらの枠の中に手を置いていただければそれで。結果を出力いたします」

「‥‥やってみるか。このガラスっぽいところに置けばいいんだな。よし」

カウンター上に表面がガラスでできているような板を取り出すと、そこへ手を置くようにうながした。冒険者ギルドや教会でのステータス鑑定も似たような形でやるので抵抗はない。まずはということでクリストが手を置いた。

「‥‥‥‥はい、結果が出ました。出力いたします。結果はお持ちいただいても返却していただいてもかまいません。どうぞ、こちらを」

しばらく待つと文字が書かれた紙を取り出してこちらに差し出してくる。それを受け取って内容を確認した。

「どれ、俺はどうなっているんだ? クレスト・アルドロー、ナヴァーラ・ウルクル・トレセ出身、クラスはファイター‥‥サブクラスはバトルマスター‥‥レベルは10‥‥ステータスは筋力じゅう‥‥待て待て待て、何だ? 何だこの数字は、こんなもん見たこともないんだが‥‥」

筋力、敏捷力、耐久力、知力、判断力、魅力。そしてヒットポイント、アーマークラス、あれもこれもと数字が躍る。教えたはずもないのに出て来る名前や出身地、クラスが分かるのはまだいい。他のステータス調査でも似たような形にはなる。だがこの数字はなんだ。筋力だ敏捷力だという言葉自体は分かる。分かるがそれを数値化できるものなのか。

「本来ステータスとはこのようなものなのです。もっとも現在ここまで詳細なデータを記録できる鑑定システムはここにしかありませんが。他の場所では数値化まではしないのではないでしょうか。それと、裏面もご覧ください。種族、属性、身長、体重、主な経歴、所持スキル、所持称号、そして現在の装備などとなります。こちらをご覧いただくと、ヒト科ヒト属ヘルト種、いかがでしょう」

次から次へと情報があふれてくる。そんなものが分かるものなのかという情報がとにかくこれでもかと並んでいる。

「筋力や敏捷力といったものが能力値ですね。ヒットポイントは体力、こちらの数字が最大でこちらが現在。現在の値が0になりますと気絶、マイナスとなりますと死亡判定となります。気絶状態でもその後の状況次第では死亡となる場合がございますのでご注意ください。アーマークラスはそのまま防御力ですね。その他、分からない項目はございますでしょうか」

「‥‥これは駄目だろう‥‥にぎりつぶしていいか? いいよな? 少なくともこの数字は駄目だろうよ」

自分の能力が数値化されているということは、他の誰かと比べてみれば勝っているところ劣っているところが分かってしまうということだ。そしてヒットポイント、現在の自分の体力値だというそれを削りきって0になると意識を失い倒れるのだという。そして装備欄にはどの武器でどの程度のダメージが出せるかが記載されていて、これが分かるということは、どの攻撃をどう加えれば倒せるかが明確になるということで。他人に見せていいものではないように思えた。

「‥‥ねえ、私もやっていい? 数字はどうでもいいけれど、知りたいのは魔法がどこまで使えるかなのよ。そういうのも出るのかしら」

「ではこちらに手を。はい記録いたします‥‥こちらを‥‥ああよろしいですね。知力、魅力は申し分ない。敏捷力や判断力がもう少し、ヒットポイントが少々低いといったところでしょうか。現在のレベルは9、おや、5レベルの呪文スロットが空いていますね」

「やっぱり分かるのね。そしていつの間にか私も5レベルが使えるようになったのね」

「恐らくと前置きさせていただきますが、塔を下りてこられるまでの間にレベルが上がったのでしょう。それによって5レベルのスロットが開放されたのではないかと」

「こうして見てもらわないとそれに気づけないわよね‥‥数字はちょっと怖いし出してほしくないけれど、このレベルを知るっていうのは重要なんじゃないの?」

自分の能力を把握するという点においては確かにこの結果は非常に大きなものだった。知らなければ使いようがないスキルや魔法がこうして明らかにされるのだ。そして得意なものも苦手なものも把握できる。これは他人には見せられないが自分では必要な情報が詰まっていた。

「そうだね、これは僕も知りたい。いいかな」

「みんなやっておいた方がいいね。それで結果はそれぞれ持っているか捨てるかしようよ」

「では皆様もどうぞ。‥‥はい、こちらを。‥‥はい、こちら結果となります。どうぞ」

「ありがとう、ああ、僕も5レベルが使えるようになっている」

「初めてのお客様におまけのサービスとして私のクラスもお教えしておきましょう。この世界には基本クラスが11種類とサブクラスが140以上、それ以外にも一般クラスに上級クラス、私のような特殊クラスと非常に多くのものが存在します。恐らく皆様がご存じではないクラスもあるのではないでしょうか。そして私のクラスはプリムス、これはこの世界では私が唯一として設定された特殊クラスに該当いたします。このプリムスがどのようなものかは、ものの本に記載がございますのでいつかどこかで見つけることができるでしょう」

またしても少し自慢するように胸を張って言う。確かにプリムスというクラスは知らないが、その細かいことは自分たちで見つけろということのようだった。

姿勢を戻したルーナが考えるそぶりをして口を開いた。

「ところで一つ気になることがございます。特に魔法のことなのですが、お二人ともかなりのかたよりが見られます。これはなぜなのでしょう。この世界の魔法は9系列93系統が存在いたしします。私から見ますと魔法の種類が少なすぎるのです」

フェリクスやカリーナからすればそれは圧倒的な数字だった。フェリクスが知っている系統などウィザード、ソーサラー、クレリックでせいぜい9種類だ。カリーナも知っている系統は13だった。その程度の認識だったのだ。いったいどれだけの魔法がこの世界にはあるのだろうか。

「やっぱりそうなのね‥‥聞きたいことがたくさんあるわ。ね、いいのよね、聞いても」

「何なりと。私に答えられる限りのご案内を申し上げます」

とてつもない情報の宝庫だった。これまでにダンジョンで散々見せられたドルイドというクラス、そのドルイドのものや空間を操作するものなど見たことも聞いたこともない魔法の数々。そして魔法のことだけではない。知りたいことは山ほどあった。

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