34 決意
次の日、再び朝からガラムの捜索を行った私たちは一枚の張り紙を見つけたのだった。
その内容はここ王都でかなり名の知れた貴族が婚約を行うと言うもの。
それだけならば今は必要のない情報だった。
……けど、問題はその相手だよ。
婚約相手の女性の特徴は緑髪のエルフ。
この世界においてエルフは珍しい存在であることも考えると、この女性がガラムである可能性は物凄く高かった。
そして貴族が裏で糸を引いていたのであれば、あれだけ徹底した痕跡の排除も納得できる。
それだけの力が、貴族にはあるのだから。
ただ、もしこの女性がガラムであるのなら……もう彼女を取り返すのは不可能に近いと言えた。
貴族はこの世界において絶対的な権力の持ち主。
その婚約相手となってしまったらもう、外から干渉することは出来ない。
例えそれが誘拐された女性だとしても、貴族との婚約はそれ以上の力と意味を持つのだ。
「クソ貴族が……! 待ってろガラム、今助けに……」
「だ、駄目ですよ! そんなことをしたらビスカさんが指名手配されてしまいます……!」
ギルドを出ようとするビスカをローリエは強引に止める。
でも力の差は歴然だった。
ずるずるとローリエは引きずられていく。
「じゃあどうしろってんだ! このまま指を咥えてガラムがクソ貴族のモンになるのを見てろってのか!?」
「それは……嫌ですよ私だって……! けど……ビスカさんが犯罪者として国を追われるのも、一緒に冒険者として活動できなくなるのも、嫌なんです……!」
「ぐっ……それじゃあ、どうすりゃいいんだよ……」
ローリエの感情のこもった叫びが効いたのか、ビスカは歩みを止める。
同時にローリエは力なくその場に崩れ落ち、ぐすぐすと泣き始めてしまった。
……こうなったら、もう私がやるしかない。
幸い、この世界において私は彼女たちと会ってからまだ日が浅い。
彼女たち同士の絆に比べれば、幾分かマシのはず。
それに私一人が指名手配されるだけなら、それはそれで王都から離れて生きて行けばいいだけ。
そのための力も、お金も、私にはある。
勇者の血筋に泥を塗ってしまうのはちょっと申し訳ないけど……。
「貴方、変なことを考えてないかしら」
「うわ、いつの間に」
昨日は所用があるとかでどこかへ行っていたミラだけど、今日は捜索に加わってもらっていた。
そんな彼女がいつの間にかギルドに戻ってきていたみたいだ。
「変なことなんてそんな……」
さっきまで考えていたことは皆には伝えられない。
それは勿論、ミラでさえも。
きっと無用な心配をかけてしまうし、何より彼女たちも一緒にガラムの救出に来てしまいそうだから。
罪を背負うのは、私だけで良いんだ。
彼女たちは今まで通り、魔王を倒すために修行の旅を続けてくれればいい。
きっと彼女たちなら私抜きでもいつか魔王を倒せるようになる。
「貴方がその気なら、私も同行するわよ?」
「けどそれじゃミラが……」
「何を今さら。私はとっくに人間に排斥された伝説の黒龍なの。それに、貴方は最後まで私の隣にいてくれるのでしょう?」
「……ッ!」
そうだ。そうだったよ。
あの時の約束。
永遠とも言える命を持つ黒龍と添い遂げる存在に、私はなろうとしたんだ。
もう絶対に、彼女を孤独にしないために。
「分かった。それじゃあ……」
私はソニアたちに聞こえないように、ミラに耳打ちをする。
そして今後の作戦について、彼女に伝えたのだった。
◆◆◆
その日の夜。
王都の皆が寝静まった真夜中に、私とミラは件の貴族の屋敷へと訪れていた。
今日は満月で夜中でも明るい。
だから見やすくはあるものの、それは向こうも同じ。
慎重に行動しないとね。
だって、これから私は屋敷内に忍び込むのだから。
「……ん? あれって……ソニア?」
屋敷から少し離れた所に、何やら人影が見えた。
それは見間違えるはずも無く、ソニアだった。
どうしてここに……って、多分ガラムを助けるためだよね。
けどコソコソと動いてはいるものの、何と言うか致命的にバレバレだよ。
「ねえ、ソニア」
「きゃっ!?」
ソニアに声をかけると、可愛らしい声が飛び出てきた。
「……って、アルカ!? どうしてここに」
「ソニアこそどうして……って、聞くまでも無いよね」
「勿論、ガラムを助けるためだよ」
そう言うソニアの目は本気だった。
この分だと恐らくビスカとローリエには伝えて無さそう。
あくまで自分だけの単独行動であり、彼女たちには疑いがかからないようにしたんだろうねきっと。
けど……
「どうやって? 今のソニア、向こうから見ても目立ちすぎてたよ」
今のソニアじゃ絶対にガラムを助け出すのは無理だった。
何と言うか、彼女は致命的に潜入に向いていない。
魔術師だからどうしようもないのかもしれないけど、流石に今はそんなことを言っている場合でも無いよ。
「それは……」
「何も考えてないでしょ」
「うぐっ」
図星だったみたい。
ソニアは露骨に目を反らした。
「……ガラムは私が助け出すからさ。ソニアはその後のことを頼んでいいかな」
「でもそれじゃアルカが……!」
「いいの。元々私は部外者みたいなものだから。ソニアたちは4人で、今まで通り修行の旅を続けて。きっと貴方たちならいつか魔王を倒せる。だから……」
「だ、駄目だよそんなの! だってアルカももう私たちの仲間なんだから……!」
そう言ってくれるのは嬉しかった。
けどだからと言って、私の決意は揺るがない。
短い間ではあったけど、ガラムもまた今の私には大切な仲間だった。
だから何としてでも彼女は救わないといけないし、その後の彼女たちにソニアが欠けるのも絶対に避けたいんだよ。
「ありがとう、ソニア。短い間だったけど、楽しかったよ。皆にもそう伝えておいてくれると嬉しいな」
「えっ……? ぐぁっ」
ソニアの首元に素早く一撃を入れて気絶させた。
「ミラ……まだいる?」
「ええ、ここにいるわ。貴方も中々薄情よね。こんな強引な方法を取るなんて」
「彼女たちのためだよ」
そう言いつつ、私は闇夜から現れたミラにソニアを宿屋に届けるようにお願いした。
きっと目覚めた時には全部解決しているからさ。
お休み、ソニア……そしてごめんね、皆。
「すぅ……はぁ……。ふぅ……」
屋敷内に忍び込む前に、深呼吸をして心を落ち着ける。
そうでもしないと、躊躇ってしまいそうだったから。
まだソニアたちと一緒にいたい……そう思っているのは本心だもん。
例え戦死エンドの危険があっても、それでも私は彼女たちと一緒にいたかった。
だからこそ、それだけ大事なソニアたちだからこそ、私は……ガラムを救わないといけないんだ。
例え私が、王都から追われる身になったとしても。
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