23 悪徳奴隷商のアジト②
「聖剣……?」
ミラは目を丸くしながらこっちを見ている。
そうもなるよね。だって聖剣なんて、結局は逸話に語られるだけの存在に過ぎないんだもん。
「……確かにそれなら勇者の寿命を実質的に永遠のものに出来るわ。でも、聖剣は逸話に登場する武器よね? 存在しているかどうかすら判明していないのに、あてはあるのかしら」
「あるよ。私なら聖剣を手に入れられる」
そう断言する。
勿論、ミラが言ったことが間違っている訳じゃない。
この世界に語られる逸話としての聖剣に、存在証明など無いのだから。
公の場で聖剣の実在について語れば変な目で見られるし、ただの御伽話に過ぎないものを追い続ける者への風当たりは強い。
そんな存在が聖剣だ。
けど、私は違う。
何故なら、私にはプレイヤーとしての記憶があるから。
世界の外側から来た私が最初この世界の事を知らなかったように、この世界の住人では知り得ない情報でも私には丸わかりなこともあるってこと。
「聖域を踏破出来れば、聖剣が手に入るの」
「聖域? ……聞いたことが無いわね」
この世界で長いこと生きてきたミラでも聞いたことが無い聖域と言う存在。
それはアルストにおける裏ダンジョンの名だった。
魔王ディアスを倒すまでがメインのストーリーだとするならば、この聖域は言わばエンドコンテンツ。
その難易度はミラの元に向かうための高難易度ダンジョンをも超える。
当然、それだけの難易度ともなると生きて帰ること自体が超絶困難な訳で。
と言うかそれ以前にそもそも発見すること自体が物凄く難しい。
アルストはかなりの本数が発売されたのに、聖域が発見されたのは数か月後だった。
発見すること自体が相当に難しいんだよここ。
けど、その最奥にまで進めればご褒美として聖剣が手に入る。
この聖剣は性能が物凄いのもそうだけど、今回はフレーバーとして設定されている方が目的。
勇者と魔王の戦いのために作られたこの聖剣は、なんと勇者に永遠の命を与えるのだ!
これにて万事解決!
―――と言う事をミラに伝えたところ、彼女は少し悩んだ後、私の案を受け入れてくれた。
何を悩む必要があるのかと思って聞いてみたら、もしミラが寿命で死んだら私はどうするのかって。
と言うのも黒龍は永遠に等しい寿命を持っているだけで本当に永遠な訳じゃないっぽい。
そうなると今度は私が永遠に寂しい思いをすることになってしまう。
それをミラは心配してくれた訳だ。
確かにそれは嫌だけど、だとしてもこのままミラを放り出して一人で寿命を迎えるのは絶対に違うと思う。
それに、その時になったら考えればいいしね。
滅茶苦茶長い時を過ごしたならきっと何か思いついているよきっと。うん、きっとね。
ただ、方法は分かっても問題はまだある。
いくら私とミラが強いと言えどこのままだと全然まだまだ実力が足りないんだよね。
だから私たちはもっと強くならないといけない。
そうとくれば、今後の目的はとにかく強くなること!
そしてミラと一緒に聖域を攻略する!!
「う……ん?」
と、今度の方針を立てたところで男が目を覚ました。
「俺は何を……はっ、そうだ! ええい、こうなれば奥の手を出すしかあるまい!」
「ッ! 気を付けなさい、何かするつもりよ」
ミラにそう言われ、男の行動に警戒する。
「ふふっ、はははっ! ここまでよくやったと褒めてやりたいところだが、コイツを召喚すればいくらお前らでもただでは済まんぞ!!」
男はそう叫びながら指にはめている指輪を光らせた。
すると魔法陣が展開されて、その真ん中には何やら大きな狼のような影が……あ、これヤバそう。
「来い、クアトベロス!!」
「グルルゥ……」
なんと、魔法陣の中に四つの頭を持つ狼の魔獣が現れたのだった!
デカい! 説明不要!
そのせいで天井に頭がぶつかってるし、下手に暴れさせたらアジトが崩れそう!
……流石にこの状況で攻撃させたりしないよね?
クアトベロス自体は別にそこまで危険じゃないけど、アジトの崩落に巻き込まれるのは中々に厄介だよ?
「どうだ? 我が切り札、クアトベロスを前にした気分は。おっと、今更後悔してももう遅いぞ? もはやお前らに残されているのは『死』のみなのだからなぁ。こんなに面白い殺戮ショーは地獄に行っても見られんなぁ……ふーっふっふ。あーはぁーはぁーはーっ! はっふぁっはっはっはっはぁーっ!! ……やってしまえ! クアトベロス!」
あぁもう!
駄目だこの男、何も考えていない!
自分が巻き込まれるとかも想定していないの!?
「行くわよ、アルカ」
「そ、そうだね。このままじゃ不味そう」
こうなった以上、もうここが崩落するのも時間の問題。
なのですぐに外を目指してミラと一緒に走り出した。
「待て! クアトベロスから逃げられるとでも思っているのか!?」
「グルルォォッッ!!」
後ろからクアトベロスが追ってくる。
壁や天井を破壊しながら。
「なっ、これは……!!」
それがどれだけヤバイことなのかが分かったのか、男が慌てた様子で走り出す。
が、時既に時間切れ。
「おっぉぉ……自分のアジトに潰されて死ぬとは……これも頭の定め……か」
崩れ始めた瓦礫に巻き込まれ、男の姿はすぐに見えなくなった。
その後、急いでアジトから出た私たちが振り返ると、そこにはクアトベロスだけが立っていた。
流石は危険度Aランクの魔獣だね。このくらいじゃびくともしないか。
だとしてもまぁ、私なら問題なく倒せるけど。
「フランメ!!」
中級炎魔法を放ち、クアトベロスを焼く。
瞬く間に肉の焼ける良い匂いが香って来たものの、魔獣は倒されると魔石になってしまうから食べることは出来ない。
そんなことを考えている間にクアトベロスだったものは真っ黒な炭になっていて、その後すぐに魔石となった。
「終わったようね」
「そうだね」
こうして呆気なく悪徳奴隷商のアジトは壊滅した。
けど、ミラの表情はどこかスッキリしたようなそれになっている。
過去を乗り越えた……って言うと大げさかもしれないけど、それでも何か一歩前に進めたのは確かなのかもしれない。
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