18 まさかの出会い
町を出てからしばらく。
流石に町に近いからか凶暴な魔獣が出てくることもなく、私とエルドの二人は平和な馬車旅を送っていた。
「そういや嬢ちゃん。見たところ随分若いみたいだが……本気で王都で冒険者活動をする気なのか? 相当な自信があるみたいだが……もう少し経験を積んでからでも良いんじゃないか。まだ成人したばかりだろう」
すると彼がいきなりそんなことを言ってくる。
確かに私は成人したばかりで、冒険者としても活動歴がそれほど長い訳じゃない。
心配してくれるのもわかる。
けどそう言った心配をされたのはお父さんたちを除くとかなり久しぶりのことだった。
ここらで私にそんなことを言って来る人はいないって程に、私の実力は知れ渡っているからね。
そう考えると、彼が行商人として少し前にこの辺りに来たって言うのはどうやら本当みたい。
「はい、王都の方が受けられる依頼も多いですからね」
「……そうか」
エルドはどこか遠い目をしたままそう言う。
と同時に、そこで会話は終わった。
それからまたしばらく経った頃。
町から離れて人の気配が無くなったかと思えば早速魔獣が現れた。
「魔獣か。頼んだよ嬢ちゃん、君の力を見せてくれ」
「お任せください! ちゃっちゃと終わらせますからね」
馬車から飛び降りるなり、馬車を守るように魔獣の前に立ちふさがる。
「グゲゲ……!」
「ニンゲン! クイモノ、ヨコセ!」
見たところゴブリンが二体だけ。
これなら全然問題ないね。
「はぁっ!!」
剣を抜き、速攻でゴブリンの首を刎ねる。
びちゃりと緑色の血しぶきが舞い、直後にゴブリンの体は消失して魔石だけがその場に残った。
「ふぅ、終わりましたよエルドさん」
「……驚いたな。凄まじい速さだ」
「エルドさん……?」
「ああ、すまない。そのようだね、感謝する。それじゃ、行こうか」
「はい! あ、そうそう魔石を……っと」
地面に落ちた魔石をしっかりと回収してから馬車に乗る。
その後、馬車は再び王都を目指して動き始めた。
そんな流れを何度も繰り返しながら町から町へと移動していく日々。
特別何か起こる訳でも無く、私たちは問題なく王都へと近づいていた。
そうして何事もなく王都まで着けば良いな……と思っていた矢先のこと。
「嬢ちゃん、あれを見てくれ!!」
柄にもなくエルドが焦った様子でそう叫ぶ。
その視線の先には一人の少女がいた。
……それも、魔物に襲われている。
「すみません、私ちょっと行ってきます!」
彼の護衛依頼を受けた身ではあるが、それでも見て見ぬフリは出来なかった。
幸いにも馬車からはそれなりに距離があるからこっちに被害は出ないはず。
「ああ、行ってこい。そんで二人共、無事に戻ってこい!」
「ありがとうございます! では!」
馬車から降りて、強く地面を蹴る。
「ッ!? 危ない!!」
けどその瞬間にはもう魔獣は少女に向かって腕を振り下ろしていた。
駄目だ、もう間に合わない……。
「うふふ、随分と手荒な真似をするのね。格の違いと言う物が分かっていないのかしら」
「グギャッ!?」
「……えっ!?」
このまま魔獣に八つ裂きにされてしまうかと思われた少女の方が、どういう訳か魔獣を八つ裂きにしている。
もうこれ間に合わないどころか彼女の方が魔獣を圧倒しているじゃんか。
いや、それもとんでもないことなんだけど、重要なのはそれだけじゃない。
攻撃の瞬間、確かに彼女の腕が龍のソレになっていた。
それによく見れば頭から角も生えている。
正直なところ、彼女のその特徴には見覚えがあった。
いやでも、そんはなずは無い。
だって彼女がこんなところにいるはずが無いんだから。
とにもかくにも、少女と話すために急ブレーキをかけて止まる。
「あら……? 貴方は?」
地面を抉りながら少女の前に止まった私を、彼女は不思議そうな目で見ている。
いやそうなるよね。後ろからいきなり超スピードで吹っ飛んできた奴なんて怪し過ぎるもん。
「あ、あはは……。えっと、私はアルカ。冒険者だよ。助けは……いらなかったみたいだね」
ぎこちない感じになってしまったが、とりあえず自己紹介などしてみる。
「そうね。私にとってはあの程度の魔獣、大したことないもの」
「そ、そうだよね……」
彼女にとってあの魔獣は大した敵ではない。それは紛れもない事実。
何故ならあの角は間違いなく、黒龍のそれだから。
それどころか彼女の黒い髪も、紅い瞳も、あのあどけなさの残る可愛らしい顔も、何もかもが見覚えのある愛しのミラそのものだった。
そう、彼女は……黒龍の少女ミラ本人だ。間違いない。
「……貴方、やっぱり見えているのね」
「ふぇっ?」
いきなりそう言われ、みょうちくりんな声が出てしまった。
「さっきから私の角ばかり見てるでしょう?」
「えっとそれは……ごめんなさい」
不味い、ジロジロと見られるのは嫌だったかも。
「別に良いのよ。それよりも、見えていること自体に意味があるのだから」
「……?」
「あら、気付いていなかったのね。私の角、幻惑魔法で隠しているのよ。これが見えているのはそれこそ凄腕の魔術師くらいのものじゃないかしら」
「そう……なんだね?」
よくわからないけど、どうやら今の私は幻惑系魔法を看破出来るらしい。
使ってくる相手もいなかったから全然気づかなかった。
でもそれって、見られたくないから隠しているってことなんだよね?
結局それが見えちゃうって言うのはあまり良く思われないんじゃ……。
「私に嫌われるんじゃないか……って、思ってるのよね?」
「うわっなんでわかったの」
「ふふっ。貴方、随分と表情豊かだもの。それじゃあ顔に書いてあるようなものよ。でも心配しないで。私も貴方に会いに来たの。アルカ……いえ、里奈にね」
「え……? どうして……私の名前……」
どういう訳か彼女は私の名前を知っていた。
こちらの世界での名前である「アルカ」ではなく、向こうでの名前を。
それどころか、私に会いに来たとすら言った。
……一体、どういうこと?
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