4.魔王の運命の出会い
老人の家を後にしたアークトゥルスは、泥だらけの自分を軽くはたきながら歩いていた。畑での収穫、屋根の修理――どちらも一筋縄ではいかなかったが、なぜか心の中に感じる高揚感は消えていない。
「くそ…あれほど失敗したのに、なぜだ?何だこの楽しさは?」
実際には畑の茄子に敗れ、屋根をぶっ壊すという大失態をやらかしたというのに、むしろ心が躍っていた。
彼は自分でも気づかぬうちに、冒険者としての新しい「クエスト」に夢中になっていた。
次の日も、また意気揚々とギルドに足を運んだアークトゥルス。これまでの失敗を忘れたかのように、胸を張ってクエストボードへと向かう。
「さて、今日は何をするか…あっ!」
目に飛び込んできたのは「屋敷掃除」というクエストだ。掃除?危険もないし、何かを壊す心配もない。何より、簡単そうに見える!しかも楽しそうだ!
「掃除か…これは絶対に楽しいやつだ!しかも、前みたいに畑の雑草とか硬い茄子相手じゃないし、屋根から落ちる心配もない!これで間違いないな!」
彼はすぐさまクエスト用紙を引き抜き、受付に向かった。受付嬢も彼のテンションに若干圧倒されながら、クエストを受理した。
アークトゥルスは屋敷へ向かい、意気揚々と掃除を開始した。普通の冒険者なら「ただの掃除」と思うかもしれないが、彼にとってはこれも立派なクエストであり、大冒険なのだ。ほうきを持った瞬間、なぜか胸が高鳴る。
「ふっふっふ、掃除もまたクエストの一環。俺の手でこの屋敷を完璧にするぞ!」
アークトゥルスは、勇者と戦うかのような気合いでほうきを振り回し始めた。床を掃くだけでも「さあ、ここを制圧するぞ!」と心の中で大号令をかけ、ほこりを敵のように見立てて戦う。
「くっ、こいつら強敵だ…!だが、この俺のほうきの特効効果を舐めるなよ!一掃だー!」
ほうきを振るうたび、ほこりが舞い上がり、彼はそれを魔法を使わずに処理しようと必死だ。しかしその姿は、まるで戦場で剣を振るうかのような気合いとテンション。
途中、古びた掃除道具の中から見つけたのは、なんと「手動式掃除機」。アークトゥルスはそれを手に取り、目を輝かせた。
「なんだこの機械は…?【特効効果:極】…だと…こいつでさらに強力な掃除ができるというのか!?」
彼はすぐにその掃除機を使い始めた。手動でゴロゴロと動かすたび、機械はほこりを吸い込み、床がみるみるうちに綺麗になっていく。
「これだ…これが冒険だ!ふっふっふ、こいつさえいれば、どんな強敵も倒せる!」
掃除機を持つ彼の姿は、まるで伝説の武器を手に入れた勇者のようだ。床の隅々まで掃除機でブォーブォーしながら、【特効効果:極】の威力に感動していた。
「これ…楽しいじゃないかー!なんだこの充実感はー!」
掃除という大冒険に夢中になりすぎたアークトゥルスは、気づけば屋敷の隅から隅まで掃除をしていた。窓から入る光が床に反射し、部屋全体が輝いて見える。
「ふぅ…これが、掃除の極みか…」
その頃にはもう、魔王としてのプライドも何もかも吹き飛んでいた。彼はただ純粋に、「掃除」というクエストの楽しさに浸っていたのだ。
クエストを終え、屋敷の主人が戻ってきたとき、彼は自分の家の変貌ぶりに目を見張った。
「お、おお…なんということだ!?屋敷がこんなにも綺麗になっているとは…!?」
主人は感動し、アークトゥルスに感謝の言葉を述べた。
「あなたはただの冒険者ではありませんね!掃除の達人ですか!?本当にありがとうございます!」
その言葉を聞いたアークトゥルスは、内心で「いや、俺は魔王だ」と思いつつも、笑顔で応えた。
「い、いや…これは普通のことです。次のクエストも、ぜひ俺に任せてください!」
ギルドに戻ったアークトゥルスは、再び泥だらけの過去の自分を振り返りながら、新たな楽しさを発見した気分だった。
魔王としての恐怖政治に飽き飽きしていた彼にとって、掃除のクエストはまるで新しい冒険の始まりだった。次なるクエストへの期待が、アークトゥルスの胸にふつふつと湧き上がる。
「次は…次は…何をやろうか!?もっと面白いクエストを見つけてやるぞ!」
こうして、ますます冒険者クエストにのめり込んでいくアークトゥルス。次のクエストも、さらなる楽しさを巻き起こすことになるのは、言うまでもなかった…。