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3.魔王と日曜大工

 次の日、2回目のクエストに向けてアークトゥルスは、再びクエストボードを見つめていた。次にどのクエストを選ぶかを考えているが、昨日のスライム討伐の一件が頭をよぎり、慎重にならざるを得ない。


「次はもう少し目立たない、平和なクエストがいいな…。あ、これだ!『村の老人の手伝い』か…」


 そう言って彼は、新たなクエストを手に取った。「村の老人の手伝い」ならば、スライムのような厄介なモンスターに遭遇することはないだろうし、普通の冒険者としての生活を体験できそう!


「よし、これなら問題ない!!」

「村の老人の手伝い」を手に取ると、胸の中で密かにガッツポーズを決めた。


 魔王として恐怖を撒き散らし、無敵の力で戦ってきた彼にとって、このような穏やかな家事の手伝いは、まさに理想的な冒険者生活の一環。薬草を集めたり、モンスターを討伐するような危険は一切ない。これなら完璧にこなせるはずだと、自信満々だった。


「ふむ、これは簡単だ。老人の家事を手伝えばいいだけ。戦う相手もいないし、誰かにバレる心配もない!今日は余裕で勝ちだな!」


 アークトゥルスは心の中で勝利宣言しながら、意気揚々と村の外れにある小さな家へ向かった。


 アークトゥルスは、老朽化した木製のドアの前に立つと、拳で軽くノックをした。木がきしむ音が聞こえると、ゆっくりとドアが開き、杖をついた背の曲がった老人が顔を出した。


「おや、お前さんが今回の手伝いをしてくれる冒険者かい?ありがたいねぇ、腰が痛くて何もできんのじゃ…」


 アークトゥルスは、魔王としての堂々たる態度を封印し、笑顔で応えた。


「お任せください!ナツキと申します。今日は全力でお手伝いさせていただきます!」


 内心では、「よし、完璧な挨拶だ!」と自画自賛していた。老人は嬉しそうに杖をつきながら、アークトゥルスを中に招き入れる。


「そうじゃな…まずは庭の畑で野菜を収穫してもらえんかの。それと、屋根に穴が開いておってのう、修理も頼むぞい」


「了解しました!では、畑の作業から始めましょう!」


 アークトゥルスはキビキビと動き出した。畑で野菜を収穫するなんて、魔王としては一度も経験したことがないが、簡単そうで面白そうだ!だが、彼が初めて畑に足を踏み入れた瞬間――


「なんだ、この雑草は!?引っ張っても抜けない?!」


彼は必死に雑草を引き抜こうとするが、その根は地中に深く張り巡らされ、予想以上の強敵だった。戦場での敵よりも手ごわく感じられ、冷や汗が流れる。


「魔法で燃やしてしまえば楽なのだが…いや、ここは普通の冒険者として…!我慢だ…我慢!」


彼は魔法の誘惑を抑えながら、全力で雑草を引き抜こうとした。だが、力を込めすぎたせいで、バランスを崩して後ろに転び、泥まみれになってしまう。


「ぐぬぬ…」


何とか雑草を退治し終えたアークトゥルス。次の敵は茄子!「野菜なんて簡単に引き抜けるだろう…」そう思い、手近な茄子に手をかけて力いっぱい引っ張った――しかし、次の瞬間。


「ぐぬぬぬぬぬぬ…なんだこの茄子は!?抜けない?抜けないぞ!?」


 アークトゥルスは全力で茄子を引き抜こうとするが、茄子はビクともしない。彼の頭の中では、「俺は魔王だぞ、こんなものに屈するわけにはいかん!」というプライドと、「魔法を使えばすぐに済むんだが…」という誘惑がせめぎ合っていた。


「いや、待て。野菜を抜くごときで、魔法を使うわけにはいかんのだーー!…」


 そう自分に言い聞かせ、必死に茄子を引っ張り続ける。しかし、力を入れすぎたせいでバランスを崩し、アークトゥルスは後ろに倒れ込んだ。


「うわぁっ!」


 ドサッと再度泥の中に突っ込むアークトゥルス。彼は泥まみれの顔を上げ、無念の声を漏らした。


「まさか、俺が茄子に負けるとは…」


 何とか時間をかけて、茄子も引き抜くことに成功したものの、すでに彼の体力は限界に近づいていた。


「次は屋根の修理だな…」


 屋根に向かうアークトゥルスは、梯子をかけて慎重に登り始めた。だが、ここで再び彼の「冒険者としての未熟さ」が露呈する。魔王としての戦闘技術には自信があったが、「手先の細かい作業」など一度もやったことがなかったのだ。


「ふむ、ここが問題の穴か…木材を打ち付ければ簡単だな。これくらい朝飯前だ!」


 そう思い込んでいたが、力加減を誤り、釘がぐにゃりと曲がってしまう。板はズレて、穴を塞ぐどころかさらに悪化していった。


「おいおい…なんだこれ!?屋根の穴が…広がった!?」


 焦るアークトゥルスは釘を打ち直そうと必死になるが、ますます状況は悪化するばかり。気づけば、元々小さかった穴が、ブラックホールみたいになっていた。


「ま、待て待て!これでは…これでは、屋根を壊しに来たみたいではないか!?」


 慌てて修正しようとするも、バランスを崩した彼はそのまま屋根から転げ落ちてしまった。


「うわああああっ!」


 ドサッ!という音と共に、再び泥に突っ込むアークトゥルス。まさかの大惨事に彼は呆然としながら、泥の中でしばらく動けなかった。


「大丈夫かのぅ、ナツキさん?」


 優しい声に、泥まみれの顔を上げるアークトゥルス。杖をついた老人が心配そうに見下ろしている。


「い、いえ…その、屋根が少し…いや、かなり壊れてしまいました…」


 魔王としてのプライドはズタズタだったが、ここは冒険者として正直に謝罪するしかなかった。


「いいんじゃよ、ナツキさん。お前さんはよくやってくれた。今日はこれで十分じゃよ」


 老人の温かい言葉に、アークトゥルスは驚きとともに少しだけ救われた気がした。


「……ありがとうございます。次こそは、もっと役に立ちます…!」


 泥だらけのまま、彼は決意を新たにした。

魔王アークトゥルスの冒険は、まだ始まったばかりだ。誰にでも、はじめての苦労。ってあるよね。がんばる!

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