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1.魔王の冒険者デビュー

 伝説の魔王、アークトゥルス。彼の名前を聞いただけで、人々は震え上がり、勇者たちも立ち向かうのをためらうほどの存在。しかし、その威厳ある黒いマントの下に隠された秘密…彼はただ、普通の冒険者としてクエストをこなすことに憧れているだけだった。


「もう、飽きたんだよな…恐怖政治ってさ、なんかこう、味気ないっていうか、うん…」


 魔王城の玉座に座りながら、アークトゥルスは深いため息をついた。かつては世界征服に胸を膨らませ、恐怖の象徴としての役割に誇りを持っていた。しかし、時が経つにつれて、同じような征服、同じような戦争…そして何より、恐怖で統治することに疲れ果ててしまったのだ。


「クエスト…それだ!勇者たちが楽しそうにやってるあれ!俺もやりたい!でも…どうやって…?」


 魔王でありながらも、心の中は好奇心に満ちていた。平和な村の人々のために薬草を集めたり、モンスターを退治したり…そんな平凡で、けれど充実した日常を夢見る彼は、決意を固めた。


「よし、行くぞ!冒険者デビューだ!もちろん、バレちゃダメだけどな…」


 魔王の冒険者デビュー計画始動!

 まずは服装。黒いマントにとがった甲冑…これは目立ちすぎる。街に入るなり「魔王だーーーーー!!」なんて言われたら即終了だ。そこで、彼は普通の冒険者っぽい装備を揃えようと決意。暗い魔王城の倉庫を探り、ようやく見つけたのは…ボロボロの革の鎧と少し錆びた剣。


「…まあ、これならバレないだろう。多少古臭いけど、逆にこの粗末な感じが冒険者っぽいしな」


 装備を整え、魔王城の裏口からひっそりと抜け出し、最寄りの町へと向かった。



 小さな町「ホルン」。ここは田舎の平和な村で、冒険者ギルドもあるが、特に目立った勇者や英雄は滅多に来ない。まさに、ひっそりと冒険者デビューするには最適な場所だ。


「よし…落ち着け、俺はただの普通の冒険者だ。魔王じゃない…ただの冒険者…」


 心の中で何度もそう自分に言い聞かせながら、彼は冒険者ギルドの扉を開けた。ギルドの中は思ったよりも賑やかで、色々な人がカウンターでクエストを受け取っている。が、それを見てアークトゥルスは最初の難関に気付いた!そう、普通であれば普通に完了する通例儀式の、冒険者登録である。


「えっと…どうやるんだ?登録って…名前とか…出身とか…魔王だなんて言ったらすぐバレるだろ…」


 彼はカウンターの前に立ち、心臓がバクバクと高鳴るのを感じた。こんなことで緊張するなんて、魔王としてのプライドが泣いている!しかし、この場で魔王の名を名乗るわけにはいかない。


「…次の方、どうぞ」


 カウンターの女性が優しく微笑む。必死に落ち着こうとするが、その笑顔のプレッシャーに耐えられず、思わず背筋を伸ばした。


「ぼ、冒険者登録を…」


「はい、お名前は?」


「な、名前か…名前、名前…」


 焦るアークトゥルス。まさか魔王の名をここで言うわけにはいかない。しかし、もう一度聞かれたら怪しまれるかもしれない。ギルド中の視線が彼に向けられているような気がして、冷や汗が流れる。


「ナ、ナツキ…ナツキだ!俺の名前はナツキだ!」


 突然思い浮かんだ偽名を口にする。ギルドの受付嬢は、少し首をかしげたが、そのまま次の質問に進んだ。


「ナツキさんですね。ご出身は?」


「えっ…出身!?あ、えっと…ホルンの隣の村…いや、その近くの山!山の方から来ました!」


「山の方の村…ルート村でしょうか?」


「そう!そのルート村!!」

魔王は、そのとき人生で初めて、食いつき気味に答える。というスキルを覚えた。


「ルート村出身の冒険者さんですね、わかりました!」


 何とかその場を乗り切った魔王は、無事に冒険者登録を完了。ひとまず安堵したが、心の中では全力で冷や汗をかいていた。


 クエスト開始!だけど…

 無事に冒険者となったアークトゥルス。初めてのクエストは、村の近くで暴れているスライムの討伐だ。


「スライムか…これなら問題ないな、ふっ、なんて簡単なクエストだ」


 そう思い、スライムがいるという草原へ向かうが…問題が発生。


「…あれ、スライムって…どうやって倒すんだっけ?」


 何百年もの間、魔王として強大な力で敵を圧倒してきたアークトゥルス。だが、そんな彼にはスライムの倒し方などわからなかった。魔法で一撃で倒すのは簡単だが、それでは「普通の冒険者」としての活動が台無しだ。


「ま、まずは…剣だな、剣で切ってみよう…」


 剣を構え、スライムに向かって斬りつける。しかし、スライムは剣の一撃を受け流し、逆にアークトゥルスの剣が跳ね返される。


「えっ!?ちょ、ちょっと待て、ちょっと待て!スライムって、こんな強いのか…!?」


 実は、彼の剣技は魔王の地位にふさわしいものではなく、戦闘力の大部分は魔法によるものだったのだ。戸惑いながらも、なんとかスライムを倒すために奮闘を開始した!

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