98.配信者、愛を知る
俺がドリのところへ向かっている間に、凡人は材料を買ってくると言って別行動になった。
「きれいきれい!」
ドリは花の球根が売っているところで、パッケージに描かれている花を指差していた。
どうやらおすすめ品にある棚で目立っていたのが気になったのだろう。
「あー、ヒガンバナか」
赤く鮮やかに描かれているため、ドリは興味を持ったのだろう。
だが、ヒガンバナって見た目が華やかでもあまり良いイメージを持たない。
見た目は綺麗でも、全ての部分に毒があり、球根には特に強い毒を持つ有毒植物だった気がする。
日本でも土葬だった時代は、お墓の周りにモグラが掘り起こさないようにヒガンバナを埋めていた。
「ダメ?」
ドリはどうしてもヒガンバナの球根が欲しいのだろう。
俺の顔と球根を交互に見ていた。
「このお花はお墓の周りとかに植えるやつなんだよ」
「おひゃか?」
ドリは必死にお墓について考えているのだろう。
近くにお墓があるわけでもないし、今までお墓を見せた記憶もない。
どうやって伝えようかと迷っていたら、俺達に声をかけてきた人がいた。
「今度はヒガンバナを育てるのかしら?」
俺達に声をかけてきたのは、どこかで見たことがあるおばさんだった。
ただ、名前は知らないし、そんなに頻繁に会ったことある人物ではない。
頑張って思い返すと、ある日のことを思い出した。
「あっ! あの時のお姉さん!」
「だからお姉さんってほどの年齢じゃないわよ!」
直売所で初めてドリの花を買ってくれたおばさんだ。
あの時はドリが作った花を売りたいと思って、必死に声をかけた良い思い出だ。
直売所でのきっかけが、さらに野菜を自分の手で売りたいと思った。
営業トークでお姉さんと呼んだのも懐かしい。
そういえば、自宅でガーデニングをやっているとあの時言っていた気もする。
カゴの中にはたくさんの球根や種が入っていた。
「ドリがヒガンバナを育てたいって言ってるんですが、あまり良いイメージがなくて……」
「確かにヒガンバナの下には死体が埋まっているって言われているぐらいだもんね」
やはりその考えは一般的に知られていることなんだろう。
ただ、それを説明するのも難しいから困っている。
「あっ、それならあれはどうかしら?」
おばさんは何かを思い出したのか、別の棚から球根を持ってきた。
「これは……?」
そこには"リコリス・アルビフローラ"と書かれていた。
リコリスってなんだろうか。
アルビフローラは"白い花"という意味があったはず。
「白彼岸花とも言われている真っ白なヒガンバナが咲くのよ。他にもショウキランとかもあるけど、この間キンセンカを売っていたから違う色の方が良いでしょ?」
ヒガンバナには赤以外にも違う色が存在している。
リコリス・アルビフローラは白色のヒガンバナ、ショウキランは黄色のヒガンバナだ。
同じ黄色のキンセンカより、リコリス・アルビフローラの方が違う色で色々と楽しめると思ったのだろう。
スマホで調べると同じヒガンバナ科ではあるが、ヒガンバナの近縁種でヒガンバナよりも花弁が広く大きいのが特徴らしい。
「今年中に咲くかはわからないけど、また販売してくれるのを楽しみに待っているわね」
ひょっとしたら単純に販売して欲しいのかもしれない。
お客様の希望に合わせて育てるのも、生産者として良い挑戦になりそうだ。
そう言っておばさんは自分の買い物に戻って行った。
今まで花にあまり興味がなかったが、同じ花でも様々な種類があるのだろう。
「ドリはどっちが良い?」
「んー、シロ!」
「赤じゃなくでもいいの?」
「うん! シロはパパ!」
なぜシロなのかと思ったが、ドリは俺を指差していた。
よく見たら白いシャツを着ていた。
いつも洗うのが簡単だからと、私服は白いシャツばかり着ているからだろう。
汚れても漂白剤を入れて洗濯すればいいからね。
どうしてもドリやポテトといると、汚れることが多いからね。
「じゃあ、他にもたくさん買っていこうか!」
「うん!」
その後もドリとシクラメンやスノードロップ、かすみそうなど秋に植える花をいくつか買うことにした。
俺はこの時なぜドリがリコリス・フローラを選んだのかを深く考えなかった。
リコリス・フローラの花言葉。
――"思うのはあなたひとり"
それを知ったのはだいぶ後だった。
「ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。ほら、ドリも」
「ほちちょーらい!」
ドリは両手を振って配信を終えた。
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