93.配信者、寿命が縮まる
「カメラってどうなりましたか?」
「明日から工事が始まりますよ」
熊のシャンシャン事件から、どこまで話が出ているのか確認するとすぐに工事が入ると貴婦人が言っていた。
あまりにも素早い対応に驚いていた。
どうやらその日のうちに肥料達に相談して話し合ったようだ。
カメラに関しては桜が詳しく、様々な機能がついた高画質な物を取り付けることになった。
さすが仕事ができる人の行動の速さには驚きだ。
早速、次の日の早朝には取り付け業者がやってきた。
「うぉー、本物のドリちゃんだ」
「ポテトもいるぞー!」
業者の責任者もファンクラブのメンバーらしく、玄関を開けた時には喜んで握手を求めていた。
探索者ではない彼らはドリやポテトなど魔物に興味を持っているらしい。
満更でもないドリとポテトはドヤ顔をしていた。
一方、カラアゲは寂しそうに俺の両脚の間に顔を挟んでいた。
カラアゲは鶏だから仕方ない。
ポテトも忘れていたが、ミツメウルフだったもんな。
「工事をする場所を確認したいので、畑の周囲を見ても良いですか?」
「大丈夫ですよ。何かあれば呼んでください」
目を輝かせた業者の男は急いで畑に向かった。
探索者の視聴者はダンジョン探索に行く時には、俺達を見に来ることがあっても一般人にはその機会がない。
ダンジョン周囲が発展する前に桜がファンミーティングを開きたいと言ったのは、こういう人達のためなんだろう。
今回カメラを付けてもらったお礼に直接会う機会を作るのを検討した方が良さそうだ。
カメラの取り付け作業をしている間は、畑作業は休みにしてゆっくり家で過ごすつもりだ。
朝食も食べ終わり、みんなでゆっくりしていると叫び声が急に聞こえてきた。
今外にいるのはカメラの取り付けを行っている作業員のはず。
胸のざわめきを感じて急いで外に出る。
そこには業者の男達と睨み合う熊がいた。
「あいつはシャンシャンか?」
「んーんー」
ドリは首を振っていた。
俺にはあの時にあったシャンシャンと見分けがつかないが、ドリにはわかるのだろう。
いや、それよりも普通のクマなら業者の人達が危ない。
俺は近くにあったものを手に取り大きな声をあげた。
「うおー!」
地面を叩いて音を鳴らす。
ただ、全く音がならずペシペシ言っている。
ああ、なぜ靴ベラを持ってきたのかと後悔するほどだ。
音を鳴らそうとするが地面が音を吸収してしまう。
「くくく、あれはあれで面白いな」
『ハァー』
声がする方を振り向くと祖父とポテトが呑気にこっちを見ていた。
「じいちゃんとポテトは家の中に入って!」
さすがに家の中にまで入られたら、どうすることもできない。
それに祖父母では体力的に逃げ切れないだろう。
「直樹大丈夫だぞ」
「えっ?」
「ネーネ!」
ドリは熊の元へ全力で走っていく。
その走りには迷いがなかった。
あの熊が元々知っているかのようなそぶりだ。
ただ、あいつはシャンシャンでもないと言っていた。
「ドリあぶな――」
「きゃー! ドリちゃん!」
熊は立ち上がるとドリをすぐに受け止めた。
「えっ……熊が話したぞ」
熊からドリを呼ぶ声が聞こえてきた。
それにドリの〝ネーネ〟という言葉に疑問を感じた。
あれは聖奈を呼ぶときにしか使わないはず。
「ネーネシャンシャン」
「正解!」
熊はドリを降ろすと顔を掴んで引っ張った。
中々取れないのか必死に引っ張り、最終的にはドリが手伝っている。
「んー!」
「いっけー!」
勢いよくドリが頭を引っ張ると、熊の頭は空に向かって飛んでいった。
きっと普通の子どもが見たらトラウマになるだろう。
その勢いで熊の頭が飛んでいったのだ。
「聖奈さん!?」
「はい、熊の中身は私です」
熊の中に入っていたのは聖奈だった。
業者も俺を見てニコニコと笑っている。
いまいち状況を掴めていない俺は、周囲を見渡すとスマホを持った春樹がいた。
「ドッキリでしたー!」
ああ、どうやら俺はドッキリにハマったようだ。
「ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。ほら、ドリも」
「ほちちょーらい!」
ドリは両手を振って配信を終えた。
ぜひ、可愛いドリちゃんにたくさんの★をプレゼントしてください!
他の作品も下のタグから飛べますので、ぜひ読んで頂けると嬉しいです。