89.配信者、祖父をクリニックに連れて行く
カメラの取り付けは、貴婦人達が全てやってくれることになった。
これで犯人が現れたら、どうやってフェンスを超えたのか分かる。
その対策ができたら、畑を守ることもできるだろう。
「じいちゃん行くよ」
「ポテトが俺を呼んでいるんだ」
「ポテトは何もないって顔しているぞ」
釜田クリニックに行こうとしたら、祖父がなぜか子どものように駄々をこねて行こうとしない。
言い訳にポテトも使われて、めんどくさそうな顔をしてこっちを見ている。
「帰ってきたらポテトフライを作ってあげるから、じいちゃんを連れてきて」
『はぁ!?』
ポテトは最近ポテトフライにハマっている。
今までポテトチップスばかり食べていたが、マイブームが終わったのか、じゃがいもを色んな形にカットしたポテトフライを揚げたら喜んでいた。
ちなみにポテトのお気に入りはウェッジカットという、三日月状で皮が付いているのが好みらしい。
じゃがいも感が残っている方が好きなんだろう。
「今度春樹にもハッシュドポテトを頼む――」
『行く!』
ポテトは祖父を連れていく気になったのか、抱えて運んでいく。
最近ポテトの返事が少し濁っており、ワンと聞こえづらくなった気がする。
揚げ物の影響で喉に脂肪でもついたのだろうか。
カラアゲとドリも一緒に釜田クリニックに向かうと、外では探索者が数人並んでいた。
「おっ、やっと来たか!」
その中には凡人と侍もいる。
どうやらクリニックのお手伝いをしているのだろう。
「すごい列ですね」
「この間試した筋膜リリースができる機械が好評らしくてな」
初めて釜田クリニックに来た時に体験した、あの心地良い機械のことだろう。
その機械の使い方を初めて来る探索者に教えているらしい。
特にお金がかかるわけでもなく、クリニックに来やすいような環境作りとして導入したと言っていた。
「腰にも良いらしいから、じいちゃんもやってもらったら――」
「今すぐに行ってくる」
ポテトを連れて自らクリニックに入って行く。
あれだけ行くのを渋っていたのに、体が楽になると聞いた瞬間に行く気になるなら初めに言っておけばよかった。
中に入ると先生が待っていたのか、祖父を椅子に誘導していた。
「マッサージ機はどこにあるんじゃ?」
「それはあっちにあるわよ? 使って体が悪くなったらいけないから先にカルテを作るわよ」
そう言って紙とペンを取り出して記載していく。
「あら、今日って何年の何月何日だったかしら?」
先生はチラチラと祖父の顔を見ていた。
俺は昨日先生から事前に、祖父とクリニックに来たら何を聞かれても答えないでと言われていた。
どこか認知症に敏感になっている祖父に、バレずに認知症の検査をすると言っていた。
「先生夏バテしとらんか?」
「最近暑くてぼーっとすることが多いのよ」
先生に日付や現在の場所を聞かれると、祖父は気づいていないのか笑いながら答えていく。
その時点で俺も異変に気づき始めた。
ちゃんと質問内容と合っているのだ。
「住所も書かないといけないよな?」
「引っ越したばかりでここの住所も覚えてないのよ」
しかも、ダンジョンがあるクリニックと家の住所は少し異なるのに、クリニックの住所まで言い始めた。
「じゃあ、少しゲームをしましょうか」
「おっ、最近の若いやつには負けないぞ?」
「これから三つの言葉を言うので覚えてもらえますか?」
「よし、任せておけ!」
そこからはゲームだと思っているのか、祖父は先生にたくさんの質問をされていた。
ちゃんと質問通りに答えられていることに俺は終始驚いた。
「最後のゲームです。できる限りたくさんの野菜を教えてください」
「俺が育てたことある野菜でも良いか?」
それは俺も気になり耳を傾けた。
小さい時は畑作業を手伝っていたが、学校に通うようになってからは、我が家で何の野菜を育てていたのか知らない。
これから色んな野菜を作って行くのに、祖父に手伝ってもらえるかどうかの参考になる。
「俺が作った野菜は、キャベツ、ニンジン、トマト、キュウリ、レタス、ピーマン、サツマイモ、ブロッコリー、インゲン豆、ピーマン、じゃがいも、ラディッシュ、ケール、ししとう、ルッコラ、カリフラワー、かぼちゃ、とうもろこし――」
「もうそこまでで良いですよ」
「そうか……まだたくさんあるんだけどな」
出てくる野菜名に俺は驚いた。
長いこと生産者をやっていた祖父は、流行になった健康ブームで流行ったケールやカリフラワーも育てていたらしい。
いつも同じ科の野菜を育てれば、土の中の栄養素や土壌生物のバランスが崩れる。
そんな連鎖障害を予防するためにも、畑を休ませたり、同じ場所に同じ科の野菜を植えないようにする必要がある。
結果、育てた野菜の種類が多くなっていたようだ。
「ふふふ、さすがお祖父様ね。これだけ覚えることができたら機械の使い方もわかるわね」
「ん? どういうことだ?」
覚えるという言葉に祖父は反応した
「だってあのマッサージ機すごく高いのよ。適当に使って壊れたりしたら大変でしょ?」
「ワシも大事に使わせてもらうよ! ポテト行くぞ!」
「凡人達に使い方を聞けば教えてもらえるからね。これからはいつでも来てもらっていいわよ」
さすがにバレたと思ったが、先生の慣れたフォローに祖父は気づいていないようだ。
許可がもらえたと思い、祖父は嬉しそうにマッサージ機がある部屋に向かった。
「さぁ、次はなおきゅんの番よ。私と楽しいドキドキラブラブなゲームを始めましょうか」
なぜか俺もゲームを始めることになった。
どこか怪しげなゲームを受けたくないと思うのは俺だけだろうか。
「ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。ほら、ドリも」
「ほちちょーらい!」
ドリは両手を振って配信を終えた。
ぜひ、可愛いドリちゃんにたくさんの★をプレゼントしてください!
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