87.配信者、犯人の正体を知る
『ワォーン!』
大きな遠吠えに俺は目を覚ました。
それはドリや探索者も同じようだ。
窓を開けて確認すると、鍬を持って二足歩行で駆け回るポテトの姿があった。
今までポテトが遠吠えをすることはなかったため、すぐに何かがあったのだと気づいた。
探索者も念の為に武器を持って畑に向かう。
「あれはワイルドボアかしら?」
作ったばかりのフェンスを華麗に飛び越える、大きな動物がいた。
てっきり猪かと思ったが、貴婦人が言うには魔物らしい。
すぐに凡人達が追いかけるが、思ったよりも足が速く追いつけるのかわからないほどだ。
「ポテト大丈夫か?」
『クゥーン』
鍬を引きずりながら、とぼとぼと帰ってくる姿にどこか虫を逃した少年のように見えてくる。
慰めて欲しいのか、頭を俺に向けて頭突きをしてきた。
ドリドリドリルやユリユリユリンガーとは違い、ポテポテポテトヘッドは優しかった。
「また、じゃがいもは作ればいいけどポテトは怪我なかった?」
『うん!』
どうやら怪我はないらしい。
魔物相手に犬が戦ったらどうなるかわからない。
凡人達も帰ってきたが、あまりの逃げ足の速さに捕まえることは出来なかったようだ。
「ワイルドボアってどんな魔物なんですか?」
「ワイルドボアは名前の通りイノシシの魔物だけど、私達が知っているやつよりも上位種かもしれないわね」
ワイルドボアは敵を見つけると猪突猛進して襲ってくるらしい。
そんな魔物が人間を感知して、襲わず逃げるのは上位種だと貴婦人は言っていた。
魔物が外にいるだけでも、探索者としても重大なことなのにそれが上位種となれば今すぐ出動するレベルだ。
幸い俺達と春樹の家にしか人は住んでいないため、住民は簡単に守られるだろう。
貴婦人はすぐに探索者ギルドに報告しに向かい、凡人と侍は春樹の家に向かった。
俺のところは聖奈が守ってくれることになった。
♢
一夜明けた俺達は普段通りに起きた。
「おはようございます」
「昨日は寝られましたか?」
「やっぱり熟睡はできなかったですね」
どこか心配になって寝ては起きてを繰り返していた。
祖父はそんなこともなく、今日も元気にラジオ体操をしている。
ポテトも眠れなかったのか、代わりにチップスが祖父に付き合っていた。
「私達は探索者は徹夜に慣れてますが、一般の方だとキツイですよね」
会社員時代は何日も寝ていなくてもどうにかなったが、今はちゃんと寝ないと全く頭が働かない。
「聖奈さんは寝れましたか?」
「私は三日は余裕で起きていられるので大丈夫ですよ。ここに来る前は畑の日記ちゃんねるを72時間耐久視聴していましたし」
やはり探索者は体が丈夫なようだ。
それにしても配信者が72時間耐久配信をするのはわかるが、視聴者が耐久視聴をするとは聞いたこともない。
「私も試したことあるけど、聖奈と比べて若くないから48時間が限度だったわ」
まさかの貴婦人も耐久視聴をしたことがあることに驚きだ。
耐久視聴が今流行りなら、いつか耐久配信をする時期が来るのかもしれない。
「そういえば、あれからワイルドボアは出現しましたか?」
俺の言葉に貴婦人は首を振っていた。
どうやらあのまま姿を表してないらしい。
人気がないタイミングを狙っているためか、次に現れる時はきっと夜になるだろう。
「そこでパパさんに提案なんですが、カメラを付けたらどうですか?」
「カメラですか?」
確かにこの辺には街灯もなければ、監視カメラがあるわけでもない。
都会で当たり前だったものが田舎に来たら何もないのが当たり前になる。
「ドリちゃんの誘拐のこともあるから、衛星カメラよりは良いかもしれないですね」
ドリが誘拐された時は、貴婦人の衛星カメラによって阿保の居場所を突き止めた。
それでも時間はかかったし、誘拐される前には気づかなかった。
それに家ではなく、畑を中心にカメラを設置するなら見られている気はしないだろう。
「祖父母が問題なければ大丈夫ですよ」
「では、確認したらすぐに取り付けますね」
そう言って貴婦人はスマホで何か連絡を取り始めた。
「ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。ほら、ドリも」
「ほちちょーらい!」
ドリは両手を振って配信を終えた。
ぜひ、可愛いドリちゃんにたくさんの★をプレゼントしてください!
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