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86.オホモダチ、天国に行きたかった

【注意】

少しBLと鬱展開強めです。

読まなくても、物語は楽しめるのでスルーしてもOKです!

「明日クリニックで待っているわね」


「畑仕事が終わったら行きますね」


「俺達はカマをクリニックに送ってくるわ」


「乙女が一人で歩いていると危ないものね」


「誰が乙女だ!」


 なぜか足を蹴った凡人が隣で痛そうに足を抱えている。


 一人でダンジョン付近にできたクリニックに帰る。


 そんなあたしを心配して、元の仲間は家まで付いてくる。


 あたしの力であれば、どんな男が来ても一瞬にして天国を見せることができるのに彼らは心配なんだろう。


 過去の仲間達は今でも心配になって、時々様子を見にきてくれる。


 あたしはもう探索者を辞めて安全なところにいる身なのに……。


「真っ暗だね」


 空を見上げるとあの日のように真っ暗な闇が広がっていた。

 




「Sランクおめでとう!」


「ありがとう!」


 あたし……いや、僕は凡人と侍、そしてパートナーである大雅とパーティーを組んでいた。


 今日はSランク昇格のお祝いとパーティー解散のお疲れ様会をしている。


 大雅に探索者をしていると心配になるからと言われて、この機会に探索者も引退しようと思っていた。


 そのため、一緒にパーティー解散のお疲れ様会をすることになった。


「Sランクになったってことは両親に伝えるんだよな?」


「うん。ちゃんと両親にカミングアウトして、大雅のことを紹介したいんだ」


「俺も両親に伝えるつもりだ」


 物心ついた時にはどこかおかしいと気づいていた。


 男なのに同性である男を自然と目で追ってしまう。


 幼い時は父とは違うかっこよさに、憧れのようなものを感じていると思っていた。


 それが成長するとともに、恋愛感情を抱いていると気づいてしまったら止められなくなっていた。


 そんな自分が死ぬほど嫌いだった。


 女性を好きになろうと思えば思うほど、僕という存在がこの世から否定されているような気がした。


 普通ではない感情、そして普通の人ではありえない頑丈な体。


――スキル"金剛不壊"。


 その名前の通り僕の体は小さい頃から丈夫だった。


 転んで膝を床にぶつけても僕は無傷だが、代わりに床に穴が開いてしまうほど丈夫なのだ。


 ただでさえ、自分の心の違和感が大きい中、周りの人達は僕の力を恐れた。


 アイツに触ったら死ぬ。


 アイツを見たら病気になる。


 僕はそうやってずっと小さい頃から言われて生きてきた。


 当時はスキルなのか、それとも心の病気のことを言っているのかもわからなかった。


 その当時はまだ同性愛という言葉はあまり知られておらず、性的指向という言葉ではなく"異常"や"精神疾患"と言われていた。


 小さい頃から泣き虫の僕は父に強くなれと言われていた。


 男なら探索者を目指せ!


 夢を叶えられなかった父のために、僕は探索者になることを決意した。


 これが僕の幼少期の頃の記憶だ。


 そんな僕が探索者になったら、ガラリと生活が変わった。


「これで晴れてパートナーシップを受けられるでござるな」


 そんな僕を一番認めてくれたのはパートナーの大雅だった。


 大雅は同じ探索者として、幼いころからスキルで悩んでいた。


 そんな彼も同性愛者だった。


 普通ではない僕と大雅。


 共通点の多い僕達はすぐに打ち解けて、付き合うことになった。


 僕達はお互いの両親にカミングアウトしてから、パートナーシップ宣言をするのを目標にしていた。


 こんな僕でも両親に隠し事をせずに、生んでくれてありがとうとお礼を伝えたかったのだ。


 きっと強くなったら認めてもらえるのだろうと心の中で思っていた。


 父の夢でもある探索者にもなって、強い男になった。


 一番の味方である母も、いつも僕の好きなように生きれば良いと口癖のように言っていた。


 だから、お祝いの帰りに僕は母にカミングアウトすることにした。


「あら、突然呼び出してどうしたの?」


 実家に帰った僕は母を居間に呼び寄せた。


 僕は探索者証明書でもあるプレートを取り出した。


「えっ……」


「へへへ、やっとSランク探索者になったんだ!」


 Sランク探索者は探索者の中でも、一握りの人達しかなれない憧れのランクだ。


 それは探索者でもない母が知っているほど、みんなから認知されているレベルだ。


 そこまで強くなれば自慢の息子と言えるだろう。


 母は嬉しそうにお祝いの準備をしようと、台所に向かう。


 さっきご飯を食べたばかりだから、さすがにこれ以上は食べることができない。


「お腹いっぱいだから、少し座ってもらってもいいかな?」


「あら、そうなの。お祝いはまた今度ね」


 上機嫌の母親は嬉しそうに再び椅子に座った。


「母さんに伝えたいことがあるんだ」


「改まってなによ? お礼かしら?」


 これぐらい機嫌が良いなら、今話しても大丈夫だと思った。


 それでも僕の声は震えていた気がする。


 母さんはニコニコと僕の顔を見ていた。


「僕……男の人が好きなんだ」


 一生隠し通すのは無理だとずっと前から思っていた。


「その……ゲイってやつでね」


 掠れる声で一つずつゆっくりと言葉を繋げていく。


 さっきまで見ていたのに母の顔が急に見れなくなった。


 どんな顔をしているのだろうか。


「最近やっと自分を認められるようになってね。母さんにも紹介――」


 きっと今頃大雅も頑張っているはず。


 そう思った僕はゆっくりと顔をあげる。


 ただ、そこにはさっきまで笑っていた母の姿はなかった。


 見たこともない絶望感に襲われたような表情を今でも覚えている。


「それって治らないのかしら」


 母親から聞こえた言葉は、僕を病気だと心配する言葉だった。


「治るものでもないし、治すものでも――」


「私はあなたをそんな子に育てた覚えはないのよ。いつもあなたには好きなようにしなさいと言っていたわ」


「うん」


「でもそれは探索者ではない、他の生き方もあると言っただけよ。でもなぜ……こんな生き方を……」


 だから僕はみんなとは違う、普通ではない他の生き方を選択した。


 結婚して子どもを作って家庭を築く。


 そんな普通の生活が僕にはできないと思ってしまった。


 いつもどんな生き方でも応援すると言っていた母だからこそ、認めてもらえると思い伝えたのだ。


「僕は認めてもらいたかっただけで――」


「無理よ! 私だって認められないのに、世間で認められるわけないわよ!」


 現実は甘くなかった。


「知ってる……。世の中、僕達に優しくない。それでも家族には嘘を――」


「悪いけどそれは無理よ。このことは誰にも言わずに墓場に持っていくのよ」


 僕はただ認めてもらいたかっただけ。


 息子は普通の人間にはなれない同性愛者だけど、Sランク探索者にはなれたんだと褒めてもらいたかった。


 たったそれだけなのに、僕は両親に認めてもらうことすらしてもらえなかった。


 僕はやっぱりおかしい人なんだと、心の奥で蓋をしていた感情が溢れ出てきた。


 僕はおかしい人。


 この世に存在してはいけない人。


 その感情だけが僕を押しつぶしていく。


「あなたのことは愛しているわ。でも母親だから受け止められないこともあるの。お父さんには黙っておくから、金輪際この話はしないでちょうだい」


 僕のカミングアウトは母が部屋から出て終わりを告げた。




 カミングアウトしてから僕はいつのまにか、いつも泊まっていたダンジョン近くのホテルに戻ってきていた。



――プルルルル



 冷え切った心に突然暖かさを告げる知らせがやってきた。


「大雅からだ」


 携帯電話に出てきた名前に僕の心は少しずつポカポカしてきた。


 家族には認めてもらえなくても、パートナーである大雅がいればどうにかなると思っていた。


「もしもし、大雅いつ帰って――」


「カマちゃんごめんね」


「えっ……」


「俺……もう生きていく自信がないわ」


 大雅の弱音を聞いたのは過去にもある。


 それでもその時とは全く違う声に胸騒ぎがした。


『ワォーン!』


 明らかに近くにいるのがわかるほど聞こえる遠吠えに、僕は大雅がどこにいるのかすぐにわかった。


 この声は聞き慣れたミツメウルフの声だった。


 僕は装備もつけずに裸足でダンジョンに向かう。


 ミツメウルフぐらいならデコピンで簡単に倒せる。


 毎日行っていたダンジョンだから、奴らがどこに生息しているのかも知っている。


 カミングアウトした時よりも、息苦しく感じるがそれでも必死に足を動かす。


 時間が経つ度に胸騒ぎがどんどんと大きくなっていく。


「大雅!」


 やっと着いた時には、周囲にはたくさんのミツメウルフの死体があった。


 ただ、そこの真ん中には大好きなあの人の姿もあった。


 倒れていたのは大好きなパートナーの大雅だった。


 ただ、ミツメウルフに噛まれた痕跡はなく、腹にはいつも使っていた剣が二本刺さっていた。


「はは、もう生きてるのが辛いよ」


 同じような環境で育ってきた大雅も、親にカミングアウトをして失敗したのだろう。


 カミングアウトしなければいい。


 きっと誰もがそう思うだろう。


 今の光景をみたら尚更そう思う。


 後悔してもすでに遅い。


 ただ、自分を生んでくれてここまで育ててくれた両親に嘘をつきたくないと、あの時は思ってしまった。


 ずっと嘘をつき続けると、だんだんと心が苦しくなってくるのだ。


「やだよ。僕と結婚してくれるんだよね?」


「そうだね。俺が生まれ変わって、普通の女の子になったら結婚しようか」


 僕の頬を優しく撫でる大雅の顔は笑っていた。


 それが大雅との最後の会話だった。


 どちらかが女性だったら――。


 それは何度も何度もお互いに思っていた。


 ただ、どちらも男が好きなだけで、女性になりたいわけではなかった。


「大雅待ってよ……」


 ダンジョンに吸収されていく大雅を必死に引っ張る。


 ダンジョンは死んだ生物を吸収して取り込んでいく。


 何度引っ張っても大雅はダンジョンに引っ張られる。


 次第に骨が折れる音が聞こえてきた。


 これ以上引っ張ったら、死んでも痛い思いをすることになるだろう。


 最後ぐらい笑顔で見送りたいと思った僕は、優しく大雅の唇にキスをした。


「僕もすぐに天国へ行くからね」


 大雅を見送った後、僕は落ちている二本の剣を手に取ると目をつぶる。


 勢いよく腹に剣を突き刺す。


 だが、頑丈な僕の体は剣を全く突き通すこともなく刃こぼれだけしていく。


「なんで死ねないの! 僕も連れてってよ!」


 何度も腹に剣を突き刺しても結果は同じだ。


 その後も凡人と侍が止めるまでは、ダンジョンの中で、剣が折れても必死に突き刺す青年の姿と泣き声が響いていた。


 僕は天国にはいけなかったようだ。




 

「おいおい、カマそんなに追放されたことが嫌だったか?」


「えっ?」


 そういえばパパさんに配信ちゃんねるから追放されたことも忘れていた。


 いつもこの真っ暗な空を見上げると、あの日の出来事が昨日のように感じる。


 あたしはあの出来事があってから、自分に嘘をつかないように生きてきた。


 そして、少しでもあたしのように悩む人を減らしたいと思い精神科医になった。


 特殊職業専門精神科医は、凡人と侍に頼まれたから取得しただけだ。


 それでも心のどこかで、まだ大雅との繋がりを持とうとしているのだろう。


「違うのでござるか?」 


「んー、なおきゅんがあんなに受け止めてくれるとすぐに忘れちゃうわ」


「ははは、確かにパパさんはポンコツだけど、どんな人でも受け止めてくれるからな」


「拙者達みたいな探索者はみんな闇を抱えているでござるからな」


「あなたの侍ジュニアも闇を抱えているわね」


「なっ、いつのまに見たのでござるか!?」


「ははは、またカマの冗談に乗せられてるぞ」


 あたし達探索者は誰もが心に傷を抱えている。強ければ強いほど、なぜかスキルが強くなるほどだ。


 そんなあたし達を否定も肯定もせず、受け止めてくれるなおきゅんとドリちゃんの隣は居心地が良い。


 だから、探索者ばかりが周りに集まってくるのだろう。


「じゃあ、着いたからありがとね」


「また明日な」


「明日でござる!」


 過去の仲間達は手を振って帰って行った。


「ありがとう」


 こんなあたしとずっと居てくれてありがとう。


「大雅、僕は今日も元気だよ」


 あの時からもう少し生きても良いかなと、今では思えるようになった。

「いやーん、このあとがき乗っ取りしたわー♡」


「おいおい、せっかくのチャンス俺にも映させ……」


 どうやら先生と凡人は画面から追放されたらしいです。


「拙者が代わりに! ★が★いでござる。くくく、星だけに……あっ、ちょっと」


 侍も追放された。


「代わりに作者のk-ingが……」


 物語の中では障害や病気、セクシュアリティ関係なく楽しく過ごせる世界をコンセプトに書いてます。


 その結果、いつもBLぽい展開にならないように努力してますが、無意識に貴腐人を喜ばせるのが好きみたいです笑


 やりすぎたら「メッ!」って言ってあげてください!

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