85.配信者、ヒヤヒヤシチューに感動する
初めて食べるヒヤヒヤシチューに俺とドリは少しワクワクしていた。
「本当に無邪気な二人よね」
「えっ? 私も気になっていたんですよね」
「ああ、あなたもここに来てから食い意地が張っていたわね」
聖奈も昔よりは食べるようになったのだろう。
言われてみれば前よりは少しふっくらして、健康的な見た目をしている。
「私が作った唐揚げもあるわよ」
祖母は冷製シチューを作り終わった後に、おかずとして唐揚げを揚げていた。
唐揚げと言われて我が家にいるカラアゲは驚くこともなく、お皿に唐揚げが置かれるのを待っていた。
共食いになるのは気にしないのだろうか。
「いただきます!」
手を合わせて早速シチューを一口食べる。
見た目は普段食べているシチューよりも、とろみは少ない。
ただ、クリームシチューを冷蔵庫で冷やしたような塊ではなく、ちゃんとポタージュのようになっていた。
「うっ……うんまー!」
「うまうま!」
ドリは頬に手を当てて喜んでいる。
そんなドリを微笑ましいように大人達は見ている。
一部俺に視線が向いている気もするが、それは気にしない。
「なんかシチューが冷たいって不思議ね。これならじいさんでも食べれるわね」
「そうだな。ワシは認知症だからな」
ここ最近祖父の口から認知症という言葉がよく出てくるようになった。
俺達は祖父に対して認知症と呼んでいるわけでもなく言った覚えもない。
無意識に言葉に出していたのかと思ったが、祖母に確認してもそんなことはなかった。
「なんかおじいさんって不思議よね」
「ワシか?」
「ええ。あたしはその辺に関して詳しい人だけど、自分のことを認知症と自覚できる人って認知機能の低下や記憶の問題を自覚している程度なんですよね」
先生は最近祖父と接することが増えてきたが、初めの頃を知らない。
あの当時は毎日がバタバタして、慣れるまでに時間がかかった。
俺と祖母が二人で付きっきりで生活することで、お互いがやっと普通の生活ができるレベルだった。
こんなところに介護支援サービスをお願いをすることもできず、デイサービスに連れて行くにも俺が送らなければいけないため、負担になると思い利用をやめた。
「ギクッ!?」
『グフッ!?』
先生に言われた祖父はどこか驚いていた。
そして、ヒヤヒヤシチューが入った皿を両手で持って飲んでいたポテトも吹き出している。
祖父といつも一緒にいるポテトは自分のことを言われたと思ったのだろうか。
お年寄りに飼われているペットはおっとりした性格になると言われているぐらいだ。
俺はタオルを取りに行ってポテトの口を拭く。
そんな俺に申し訳なさそうにチップスが立ち上がり頭を下げていた。
そろそろ出産も近づいてきているため、立ち上がるのも少し辛そうだ。
「そういえば、凡人さんってハッカーの使い方を知っているってことは犬小屋とかって作れたりしますか?」
「ああ、一時期大工仕事していたからできるぞ。今は素人だからDIYになったけどな」
「旦那とイチャイチャ――」
ボソッと呟く先生の口を侍が閉じていた。
まさか凡人が思ったよりも凡人ではないことにびっくりした。
それに気づいた凡人は過去について少し話し出した。
「俺達は一時期探索者を引退していたからな」
「拙者はその間、忍者村で働いていたでござる」
ひょっとしたら侍の言葉使いは忍者村で働いていた時の影響なのかもしれない。
それにしても忍者村ってどこにあるのだろうか。
「あたし達は三人でパーティーを組んでいたんだけどね。あたしの引退をきっかけにパーティーを解散して別の道に進んだわ」
釜田クリニックに行った時に思ったが、三人は昔から仲が良さそうな気がしていた。
それは探索者として一緒に命をかけて活動していたからだろう。
「それでも探索者として活動して、引退してからも医師になるって先生ってすごい人ですね。俺は全く勉強できないんで尊敬します」
俺の言葉で先生は一瞬止まり、普段のおちゃらけた表情は消えていた。
何か触れてはいけないことを言ったのかと思ったが、目が合うとニコリと笑っていた。
「あらー、あたしにそんなことを言ったらどうなるのか体で教えて欲しいのかしらね」
「いや、それは遠慮しておきます」
すぐに断ると先生は嘘泣きするように目を触っている。
ただ、その姿はどこか本当に泣いているような気がした。
「ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。ほら、ドリも」
「ほちちょーらい!」
ドリは両手を振って配信を終えた。
ぜひ、可愛いドリちゃんにたくさんの★をプレゼントしてください!
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