83.配信者、架け橋になる
「いくにょ!」
「俺はまだ許されて……」
「あたしもよ」
「めんどくちゃい!」
いまだに玄関前で頭を下げている凡人と先生をドリは勢いよく放り投げた。
「おー、ドリは力持ちだな」
「うん!」
父としてさらに力強くなったドリに拍手をする。
以前は俺がどこかに行かないように止める程度の力だったのに、今は成人男性で俺よりも体格が大きい人を持ち上げたのだ。
拍手をしないで何をする。
「なぁ、やっぱ俺の子はすごいだろ」
「あー、すごいというかなんと言えばいいのかわからないな」
春樹に聞いてみたが、言葉を選びながら考えているようだ。
聖奈がここにいたらきっと一緒に拍手をしながら喜んでいるだろう。
「あっ、先生もシチュー食べていきますよね?」
「えっ……許してくれるのかしら?」
「許すも何も怒ってないですよ?」
そんな俺に春樹は小声で耳打ちをする。どうやら他の人が動画配信提供会社に連絡をして、俺の配信が見えなくなったらしい。
俺の許可が承諾されるまで、以前のように見えない仕組みになっていた。
スマホを確認すると、ダイレクトメッセージには謝罪文が長文で書かれていた。
「そんな使い方があったのか」
「もう、どんどん夫の春樹を使ってください」
「そうよ! どんどんいちゃつきなさい」
相変わらずこの二人も何が言いたいのかわからない。
今日も春樹を柵作りに使ったけど、さらに使ったほうが良いのだろうか。
俺の家にきて家政婦のようにご飯を作りにきて、畑仕事も手伝ってくれる。
それだけで十分助かっている。
いまだに使い方がわからない機能を今度春樹に教えてもらおう。
「もう、通い妻でもいいですよ!」
それは何か違う気がする。
通い妻なら綺麗な女性がいい。
「春樹が来たら通い夫じゃないですか?」
「くぅー! もう毒が止まらないわ」
「ちょちょ、バケツ持ってきて」
ドリは急いでバケツを取りに行く。
貴婦人の毒は消すことができるが、それまではその場所が通れなくなる。
落ち着くまで毒を吐き続けるため、魔法は消せないらしい。
「ばけちゅ!」
バケツを渡すと貴婦人はニヤニヤしながら、俺達を見ていた。
その隣にいる桜もなぜか俺達をキラキラした目で見ている。
どこか似た匂いを感じるのは気のせいだろうか。
「ははは、桜のことは気にしなくていいからな。最近お前がアイドルから神聖化したからな」
「新しくなったんだね」
田舎に来て新しく生まれ変わったのだろう。
春樹の家族も色々あったと少しは聞いている。
楽しく生活できているなら俺は問題ない。
「俺はばあちゃんとシチューを作ってくるわ!」
「ちちゅー!」
ドリは口を尖らせて春樹に付いて行った。
それを羨ましそうな目で百合は見ていた。
きっと百合は素直になりたいのに、なれないのだろう。
「俺も暇だから手伝うわ。百合ちゃん行こ!」
「えー、暑いじゃん」
そこは素直に付いてくると思ったが、暑いからと言われてしまった。
中々百合も手強いようだ。
「たしかに暑いよな。しかも、シチューって熱々だもんな」
まだまだ気温が高いこの時期にシチューを食べるってなると、作るだけでも熱くなる。
台所は火を使うことが多いため、近くに行くだけでも気が引ける。
「そんなにパパさんが手伝って欲しいなら」
それでも百合はチラチラと俺の方を見ていた。
ここまで来たら春樹の一手が必要なんだろう。
言葉で伝えなくても、春樹には伝わるはず。
俺は春樹を見ると頷いていた。
「あー、俺も手伝って欲しいな」
どうやら春樹に伝わったようだ。
すぐに百合を見ると、なぜかさっきよりも目の輝きが減っていた。
この年頃の女の子はやはり難しい。
「えー、ハルキ手伝って欲しいの? 仕方ないなー」
嫌そうな顔をしている百合は台所に向かった。
ただその足元はどこかスキップをしているようだ。
「あー、毒が止まらない。今の二人を見たかしら? 顔を見合わせるだけで伝わるって……尊死」
「ふふふ、百合も嬉しそうでよかったわ」
後ろにいる二人はどこか話が食い違っているような気がした。
「ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。ほら、ドリも」
「ほちちょーらい!」
ドリは両手を振って配信を終えた。
ぜひ、可愛いドリちゃんにたくさんの★をプレゼントしてください!
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