78.肥料、パパさんウォッチングをする ※桜視点
私はたくさんのお菓子を準備して友達が来るのを待っている。昨日見た紙が気になって、連絡をすると頼れる友達が次の日には集まってくれた。
「あんなに焦ってどうしたのよー」
「夜中に離婚するかもしれないって連絡が来るからびっくりしたわ」
私のメッセージを見て心配してくれたようだ。
以前から関わりがある貴腐人と聖女、そしてオホモダチが来ている。
私達は全員隣に住む畑の日記ちゃんねるの視聴者であり、ファンクラブの会員だ。
みんな肥料でパパさんとドリちゃんを応援している。
初めて会ったのはこっちに引っ越して来てからだが、共通の趣味で自然と仲良くなった。
オホモダチである先生とは、バーベキューの時に会って今日で二回目だ。
私は外に用意した机とテーブルに朝から作ったケーキやクッキーを並べていく。もちろん場所はしっかり畑が見えるところだ。
そして、みんなの手には双眼鏡が用意されている。
「ここにカフェを作るって最高ね」
「遠いけど生でパパさんと春樹さんのイチャイチャが見え――」
夫の春樹も畑を手伝いに行っているため、気兼ねなく女子会ができる。今日はその春樹について相談があったのだ。
「春樹がオネエになるって……」
「えっ?」
私の言葉を聞いた貴婦人と先生は驚いた顔をしていた。
やはり貴婦人は春樹がオネエになりたいことを知っていたのだろう。
愛していたのは私だけだと思ったら胸が裂けそうだ。
ずっと知らないふりをしてくれた友達の優しさに胸が痛くなる。
「いやーん、それなら私にもチャンスが――」
「あるわけないわ。どうせあんたが仕組んだんでしょ?」
貴婦人は先生の襟元を掴み振り回していた。探索者は女性でも力が強いのか、オネエも宙に浮いている。
むしろ先生はアトラクションを楽しむように手を大きく広げている。
それにしても先生が仕組んだってどういうことだろうか。
「だってなおきゅんとはるきゅんが奥ゆかしいのよ」
「それが良いんでしょ! 三次元に理想を求めたらダメと何度言ったら理解するのかしらね? 毒沼に埋めるわよ」
「元Sランク探索者を舐めないで」
どうやらあの紙は先生が用意したものらしい。
そんな先生はSランクの探索者だった。ランクの順番はわからないが、肥料達の中には高ランク探索者がゴロゴロいると聞いている。
「好きな男に探索者は無理って言われて引退した分際で――」
「オネエはいつでも恋する乙女なのよ!」
段々と言い合いが白熱する中、聖女は黙々とお菓子を食べていた。これが探索者の日常なのかと思うほど気にしていない。
友達になったとは言え、都会に住んでバリバリ働いている時よりも刺激が強すぎる。
こんな人達と何事もなく生活しているパパさんはやっぱり神様なんだろう。
貴婦人と先生は目にも追えない速さでじゃれあい出した。周囲には見たこともない沼が出現し、先生が地面を叩けば地割れができる。
このままではカフェすら建てられなくなりそうだ。
「聖奈さん止めた方が――」
双眼鏡を覗いてお菓子を食べていた聖奈に助けを求める。
「あれを?」
私が頷くと聖女はため息を吐いた後、立ち上がって二人に近づいた。
気づいた時には椅子だけが置いてある。それも目で追えないぐらいの速さだった。
「せっかくドリちゃんを観察しているのにうるさいよ」
二人の頭を掴むとそのまま地面に押さえつける。探索者は私達が思っているよりも実力主義なんだろう。言葉で止めるかと思ったが、脳筋なのか腕力で捻じ曲げている。
「聖奈ストップ!」
「あなたがやったら首が折れるわよ」
「ドリちゃんの観察時間を邪魔した。桜がせっかくお菓子を用意してくれたのに」
どうやら私がお菓子を作ったため、言うことを聞いてくれたのだろう。
ますますパパさんが何事もなく目の前にいる探索者と仲良くしていることに尊敬……いや、崇拝するレベルだ。
推しである神様と夫が激しく仲良くしている。そう思うとオネエになってもいい気がしてきた。
だって、家族が神様と関係があるってそれは素晴らしいことだ。
私は今日も推しうちわを持って遠くから応援する。
そろそろ崇拝うちわを作るべきだろう。
「やっぱり肥料って変わった人しかいないようね」
「探索者じゃない一般人でもあのレベルよ。オネエが霞むわ」
落ち着いたみんなも席に座ってパパさんウォッチングが再開された。
「ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。ほら、ドリも」
「ほちちょーらい!」
ドリは両手を振って配信を終えた。
ぜひ、可愛いドリちゃんにたくさんの★をプレゼントしてください!
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