77.幼馴染、プレゼントを確認する ※春樹視点
「ハルキ、今日は楽しかったね!」
バーベキューの道具を一緒に片付けている百合は終始笑顔だった。こんな百合の顔を見ることができ、引っ越して正解だったと改めて感じた。
「私もパパさんが焼いたお肉を食べて死ぬかと思ったわ」
「毒でも――」
「推しの焼いた肉は神々のご馳走です」
「ああ……」
聞いた俺は馬鹿だった。相変わらず桜は直樹が神秘的な意味で好きらしい。
この間、冗談半分で浮気かと聞いたら、私みたいなやつが神様と付き合うのかと真顔で返された。
会いに行ける神様と言われたら、俺も仕方ないとしか思えない。
この間は俺に瓶を渡して、推しの二酸化炭素を集めて来てと言われた。
そのうち犯罪行為に走ると思った俺は自分の口から吐き出した二酸化炭素を渡しておいた。
その後、すぐにバレて往復ビンタされたが俺のだとわかるぐらいに桜は俺のことを知っている。
「そういえば、カマちゃんから何をもらったの?」
「あー、直樹に関する本だった」
変わった先生からもらった袋の中には、直樹の病気について書かれていた。本職である先生がおすすめの本を渡してくれたのだろう。
それよりも俺は桜と先生との距離感に戸惑いを感じる。
「お前先生と浮気――」
「それはないから!」
前のめりな感じで否定していたため、浮気をすることはないのだろう。
「推しの本か……それはきっと聖書だね」
むしろ直樹のことを本当に好きにならないかと心配だ。
そんな直樹の病気は百合と桜には伝えてはいない。個人の病気を勝手に話すことは、あまり良いことではない。
そもそも直樹自身が病気のことを理解しているのかもわからない。
子どもの頃に直樹の祖父母が伝えたと親父と話しているところを聞いたことはあったが、毎回何事もないように忘れていた。
それも病気と何か関係しているのだろう。
「じゃあ、私は先に百合とお風呂に入るわね」
片付けが終わったため、桜と百合はお風呂に向かった。その間に俺は先生からもらった本を読むことにした。
そこにはわかりやすく付箋とびっしりと文字が書き込まれていた。きっと俺が読んでもわかるようになっているのだろう。
「まずはトラウマの原因を探るところから始めるのか」
病気を治すには自分の過去の何がトラウマの原因になっているのか探すところから始まる。
生まれた時から今までの人生を写真を見ながら振り返り、そこで何が原因になっているのか、時期はいつ頃なのかまずは理解するのが大事らしい。
今の直樹ならまずはPTSDだと理解するところから始まるのだろう。
「症状は各個人で違うのか」
決まった症状があっても防御反応や他の精神障害も併発していたりすることで、症状は複雑に変わってくるらしい。
この間、直樹が倒れた時は自己責任の強さから、自分を責めて過度な謝罪をしているかもしれないと先生は言っていた。
他の人に迷惑をかけたと感じた時点で、極端に謝ったりすることもあるらしい。
直樹の性格だとそれも理解できる。
この間はあのクソ親父に"迷惑ばかりかけて"と言われてたからおかしくなっていた気がする。直樹なりに回避行動をした結果が、何度も謝ることだったのかもしれない。
たまに倒れた時に両親を呼びながら謝ったり、早く帰ってきてと言っていたのを聞いたこともある。
ひょっとしたら両親がいなくなったのを自分の責任として、幼い時から責め続けた結果が今の姿なんだろう。
考えれば考えるほど直樹のことが心配になってしまう。
「今度あいつに会ったら、どうやって調理をしようか」
今後ダンジョンの都市計画が進めば関わってくる可能性が高い。再び直樹に何かするようであれば俺は絶対に許さない。
本を読み進めていると、途中から何かをまとめた紙が出てきた。
「ノンケをオネエにする十個の方法?」
ノンケという言葉はわからないが、オネエとは先生のような変わった人のことを言うのだろうか。都会にいた時は、同性から声をかけられることも多かった。
田舎と違って都会に住む人はみんな個性が強いと思っていたが、あの人達は先生から教育をされた結果なんだろうか。
話しかけてきた時にやたらボディタッチもしてくるし、ズボンの中に手を入れてきた時はその場から逃げ出したのが懐かしい。
のびのびと生きてきた田舎人には、都会は恐ろしいところだった。
「えーっと、お尻に――」
少し中を覗くと絵と説明文で順序立てされて細かく記載されている。
見た瞬間これは俺には必要ない知識だと思い、本をすぐに閉じた。
俺はオネエになる気もないし、誰かをオネエにさせる気もない。
そもそも同性と付き合うことを想像したこともない。異次元すぎて否定する気持ちも特にない。
今時いろいろな人がいるから、それぐらい仕方ないだろう。
「お風呂出たわよ」
「呼びに来てくれてありがとう」
桜に呼ばれた俺は本を再び袋の中に入れて机の上に置いた。
その時一枚の紙が本の隙間から落ちてきた。
「ん? 何これ……あの人オネエになりたいのかしら」
俺は何も知らずお風呂に向かった。後にこれが原因で大変なことになるとは思いもしなかった。
「ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。ほら、ドリも」
「ほちちょーらい!」
ドリは両手を振って配信を終えた。
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