75.配信者、子どもの成長を喜ぶ
「おじさん、準備ありがとう」
「これは毎回俺の役目だからな」
小嶋養鶏場のおじさんはバーベキューグリルの炭に火をつけて待っていた。すでに炭は灰色になり、あとは肉と野菜を焼くだけの状態だ。
俺と春樹はトングを持って早速焼いていく。
「やっぱりあの二人って良いわよな」
「あれで付き合っていない方が不思議よ? あたしも混ぜて欲しいぐらいよ」
「流石にカマちゃんは無理だろ」
「きっと物理的に押しつぶすでござる」
探索者達同士も楽しそうに俺達を眺めている。それにしても先生のヘッドロックで、侍の顔が真っ青になっているけど大丈夫なんだろうか。
一方、椅子に座っているドリと百合は二人で楽しそうにジュースを飲んでいた。俺が手を振ると二人は笑顔で振り返してくれる。そんな二人に桜と聖奈はうちわを持って風を送っていた。
夕方になってもまだまだ気温が高いから熱中症になる可能性もある。
「パパさんが私にファンサしてくれたわ!」
「あれはドリちゃん達に――」
「ファンサよ!」
風を送っているように見せかけて、俺とドリの顔が貼ってあるうちわで応援していた。
「しかも、私達肥料のためにお肉を焼いてくれるってどんなファンサよ」
「肥料?」
「畑の日記のファンの人達のことよ?」
「私もそれよりも肉を焼いてみたかったな」
「あとで春樹と変わってもらおうか?」
「別に春樹さんと変わってもらわなくても大丈夫ですよ」
「えっ? パパさんと焼きたいんじゃなくて?」
「一緒にできるならドリちゃんか百合ちゃんとやりたいです」
会話の内容は聞こえないが、各々が楽しそうにしている。祖父母もポテトと腰痛の予防体操をしていた。あいつは本当に犬なんだろうか。
「こんなに賑やかになるとは思わなかったな」
「俺達と小嶋家しかいないからな。この辺の集落地域の中では、今が一番人が住んでいる気がするぞ」
「本当に何もない田舎だったのが懐かしいな」
俺達の他にも遠く離れたところには人が住んでいた。中学生になる時には、その集落の子ども達が一気に集まる。
小学校は俺達が最後で廃校になったし、あいつらは元気に過ごしているのだろうか。
春樹に会うまでそんなことを思う暇もなかった。環境の変化は本当に人の心を変える。
「おっ、肉が焼けたな」
高級な肉がこんがりと焼けた。バーベキューで食べるには勿体無い気もするが、そこは春樹の出番だ。
本物のシェフに任せていれば、俺の出番はそこまでない。
「おーい、肉が焼けたぞ!」
肉が焼けたことを伝えると、ドリと百合が椅子から立ち上がり全力で走ってきた。その手にはしっかりと紙皿を持っている。
「パパ!」
「ハルキ!」
俺達の名前を呼んで紙皿を渡してきた。なんやかんやで百合は春樹のことを父と思っているのだろう。
「たくさん食べるんだぞ」
ドリのお皿にたくさんのお肉を乗せるとニコニコとしていた。お肉が焼けるまで待っていたのだろう。
「ここだと危ないから向こうで食べてね」
俺達は再び肉を焼き続ける。その間にドリと百合は二人で見つめ合っていた。あれだけ喧嘩していたのに、今じゃ姉妹のように仲が良い。
「パパ!」
「ハルキ!」
ドリは俺の服、百合は春樹のズボンを掴んでいた。何かあったのだろうか。
「ん?」
「どうした?」
俺達は同時に我が子がいる方を振り向く。
「あーん!」
二人は焼けたお肉を俺達の口元に近づけていた。子ども達から食べてもらおうと思っていたが、これは何のご褒美だろうか。
「引っ越ししてくれてありがとう」
「ありあと!」
俺達は何が起きているのか分からず、その場で固まってしまった。
「早く食べてよ」
百合は恥ずかしいのか足をバタバタとしていた。一方のドリはよだれをポタポタと垂らしている。自分が早く食べたいのを我慢しているようだ。
頑張って箸を使っているため、早く食べないと肉が落ちそうだ。
「俺の方こそありがとう」
焼けたばかりのお肉を口に入れると、心から温まっていく気がした。これはドリの優しさでポカポカしているのだろう。
俺は優しくドリに抱きついた。肩にはドリのよだれがポタポタ垂れているのか、少し服が濡れている。
「パパ……」
「ん?」
少しお預け状態になっているのが、可哀想と思いすぐに離れる。ドリの顔を見るとなぜか落ち込んでいた。
その手には紙皿を持っていなかった。
「まさか……」
「おにきゅ」
どうやら俺の肩に垂れていたのは、ドリの涎ではなくバーベキューのタレと脂だった。
「拙者、切腹してくるでござる」
「あーこれは尊死だな」
「そのままパパコンビで抱きつかないかしら?」
側で見ていた探索者からは、各々言葉が漏れ出ていた。
「ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。ほら、ドリも」
「ほちちょーらい!」
ドリは両手を振って配信を終えた。
ぜひ、可愛いドリちゃんにたくさんの★をプレゼントしてください!
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