66.配信者、春樹にざまぁする
できた花冠を持って小嶋養鶏場に向かう。なぜかカラアゲも一緒に行きたいのか、後をずっと付いてきた。
今日も養鶏場にいる鶏達は忙しそうだ。カラアゲは鶏を見て自分の体と鶏の体を見比べていた。
『クゥェ!』
『コッコ!』
お互いに胸の大きさを強調して、どっちのハトムネが凛々しいのか見せつけあっていた。同じ鶏として何か感じるものがあるのだろう。
鶏の隣に並べると、大きさ的にはほぼ同じサイズまで成長した。羽のもふもふ感は似ているが、見た目は鶏とは異なっている。
おじさんが言った通り鶏ではないのかもしれない。それでも俺は今も鶏だと思っている。絶対にコカトリスではない。
一方、ドリは緊張しているのか俺の後ろにずっと隠れている。
今まで同年代の子もいなかったため、どうやって謝ってよいのかわからないのだろう。
念の為に事前に"ごめんなさい"を言う練習はしてきた。
「準備はできたか?」
「うん」
自信なさげのドリを優しく撫でると、少し落ち着いたのか前に出てきた。カラアゲも自分の体をスリスリと擦りつけて応援している。
――ピンポーン!
俺は玄関のチャイムを鳴らす。
「あっ、直樹とドリちゃんどうした?」
中からは春樹が出てきた。
「ちょっと百合ちゃんに謝りたいと思ってな」
「ああ、別に気にしなくてもいいのに。どうせ、百合がドリちゃんの嫌なことをしたのは想像つくからさ」
やはり父親は自分の娘のことをよく知っているのだろう。ただ、ドリがせっかく謝ろうとしているため、ちゃんと謝らせて欲しいことを伝えると百合を呼びに行った。
「パパー!」
少し待っていると百合が元気よく飛び出して俺に抱きついてきた。百合にはパーソナルスペースがないのだろうか。さっき初めて会って、今でまだ二回目だ。
「私に会いに来てくれたの?」
「ドリが百合ちゃんに謝りたいって言ってたから聞いてくれるかな?」
百合は俺から離れると近くにいたドリに顔を向ける。その顔はどこか嫌そうな顔をしていた。
少し後退りをするドリをそっと支える。
俺の顔を見たドリは小さく頷いた。
「ごめんなちゃい」
頭を下げてドリは謝った。少し舌足らずだけど、その姿に俺はすでに感動していた。
初めて同年代の子に謝ったのだ。なぜここを動画で撮らなかったのかと、すぐに後悔しているぐらいだ。
「いいよ。でも、パパは百合ものだからね」
百合の後ろにはため息をついている春樹がいた。なぜそこまで百合は俺を求めているのだろうか。
「パパはドリの!」
「じゃあ、私達はライバルね」
百合は一歩前に出て、ドリに向けて手を差し出した。どうしたら良いのかわからないドリにそっと耳元で声をかける。
「優しく握ってあげて」
俺の言葉通りにドリは優しく百合の手を握った。強く握ったりしないかとビクビクしていたが、ちゃんと優しく握り返している。
ドリは手を握ったことで肝心なものを忘れていたことを思い出す。
「あっ、これあげりゅ!」
反対の手に持っていた花冠を百合に渡すと目を輝かせていた。
やはり女の子はこういう可愛いものが好きなんだろう。ドリが一番欲しいって持ってきたやつってたしかオーバーオールだった気がする。
「これドリと同じやつ?」
「うん!」
「にひひ、ありがとう」
「ちゅけてあげりゅ」
ドリは花冠を百合の頭につけた。お揃いの花冠をつけた二人はどこか姉妹のように見えた。
「あー、ダメだ。可愛すぎて泣きそうだわ」
静かに見守ろうと思っていたが、ついつい心の声が出てしまった。配信の時に視聴者が言っている"尊死"とはこういうことを言うのだろう。
実際に自分が経験して、その破壊力に心を打ち抜かれるところだった。
「ねぇ、ハルキ写真撮って」
「俺が?」
「だって、パパとドリと撮りたいんだもん」
別に自撮りをすれば問題はないが、頼まれた春樹は仕方なさそうにスマホを取り出した。俺もドリにこんな扱いされたら泣いちゃいそうだ。
「ねぇ、ドリ耳貸して?」
ドリは耳を向けると、百合と何か話していた。小さい頃って内緒話とか好きだからな。
「じゃあ、撮るよ!」
俺が二人に合わせてしゃがみ込むと、ドリと百合は俺の両隣に来た。
「はい、ちーずおおおおおお!」
掛け声とともに俺の両頬から優しくキスをされた。
まさかとは思ったが本当にするとは俺も思わなかった。
今まで春樹に負けていたと思っていたが、やっと俺でも勝てることがあったのかとニヤリと笑った。
「ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。ほら、ドリも」
「ほちちょーらい!」
ドリは両手を振って配信を終えた。
ぜひ、可愛いドリちゃんにたくさんの★をプレゼントしてください!
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