65.配信者、子育てに悩む
手を引きながらドリと話しをする。
「ドリは百合ちゃんに謝れる?」
「ヤッ!」
ドリはその場で立ち止まり、花畑に戻ろうとする。思ったよりも頑固のようだ。
たしかに自分が納得していないことを謝るのは誰でも嫌だろう。
「ドリが嫌な気持ちになったのは俺もわかるよ。ただ、人を引っ張ったらダメだよ」
「にゃんで?」
「もし俺が百合ちゃんを捕まえれなかったら、大怪我をしてたかもしれない」
「いいもん」
ドリは俺が取られたことが本当に嫌だったようだ。
畑だからよほどのことがない限りは大怪我にはならないだろう。ただ、ここでしっかり何がダメなのかを伝えないと、嫌なことがあったら手を挙げてしまう子になってしまう。
子育てをしたことはないが、こういうことはしっかりと教えないといけないはずだ。
「もし、ドリが同じことされたら俺は悲しいかな」
「なきなき?」
「俺は泣いちゃうかな。大事なドリだもん」
俺の言葉にドリは悩んでいるようだ。実際に子どもの喧嘩だからと春樹達は何も言わなかったが、親として子どもを突き飛ばした俺が彼女達に謝らないといけない。
「百合ちゃんにも春樹やお母さんがいて、悲しむ人がたくさんいる。ドリは悲しませたいわけではないんだよね?」
「うん」
「ならちゃんと謝ろうか。それで何が嫌だったのか口で伝えよう。俺も協力するからさ」
百合と比べてドリは上手く話せないことが多い。大人の聖奈達でもうまく理解できない時がある。それでも周りの大人が協力してでも口で伝えることは大事だ。
「イヤイヤしたら?」
「その時は俺達に相談だね」
きっとドリなりに言葉と行動で示したが、それでも伝わらず百合を引っ張ったのは俺でもわかっている。
まずは自分でどうにかしてみて、それでもできなければ大人に頼れば良い。
ドリの力になってくれる人は、俺以外にも祖父母や探索者達などたくさんいる。
「うん」
ドリはしっかり理解したのだろう。俺の手を離してどこかへ走っていく。
「おい、そっちは反対方向だぞ」
相変わらず足の速いドリに追いつけるはずもなく、気づいたら花畑に戻っていた。
「どうしたんだ?」
「はな!」
花畑にある花をドリは摘んで、百合に仲直りのプレゼントとして渡したいのだろう。俺も一緒になって、ドリは花を摘んで家に持って帰ることにした。
あとは我が家にいるスーパー婆ちゃんの出番だ。
「ばあちゃん!」
「はいはい!」
玄関で呼ぶと奥からポテトチップスを持って出てきた。ポテトが畑に行った時はポテトチップスを揚げるのが日課になっている。
ポテトもいつのまにか帰ってきたのか、家の上がり框に足を組んで座っていた。
その姿に本当にミツメウルフなのかと思ってしまう。そもそも中に人間でも入っているのだろうか。
「お花を小さい花束にしてもらっても良い? ドリが春樹の娘と喧嘩しちゃったから謝りに行こうと思ってね」
「ふふふ、直樹もお父さんになったんだね」
俺とドリを見て祖母は笑っていた。すぐに道具を準備している間、代わりにポテトチップスを揚げる。
「ドリちゃん、せっかくだから花冠でも作ろうか!」
「きゃんむり?」
祖母は針金を取り出して形を作っていく。遠くから俺も見ていたが、祖母の手先の器用さは驚くほどだ。
花冠と言ったら円になっているところに花を付けていくのかと思っていた。だが、実際にできたのはティアラのように頭に付けられるようになっている。
「これを売ったらお金になりそうだね」
「何言ってるのよー。私の趣味でお金が稼げるはずないでしょ」
趣味で作る領域とかけ離れた物が、数分で完成した。しかも、怪我をしないように配慮してあり、それに花を簡単に付け替えられるようになっていた。
完成したものをドリが好きなように花を付けていた。
ポテトチップスを揚げ終えた俺は、もう一つお揃いで作る時に動画で撮影をすることにした。配信ではないが、貴婦人や聖奈にも一度見てもらおうかと思ったのだ。
「こんなの簡単だから誰でもできるわよ」
そう言いながら祖母は素早く手を動かしていく。ドリも花冠ができたのか自分の頭に付けていた。
二つに緩く編んだ三つ編みと花冠がドリの可愛さを際立たせている。
「んー、ドリかわいいね!」
スマホでドリの一人撮影会が始まった。後で聖奈にも送ってあげようか。
後にファンクラブの定期壁紙配信はここから始まった。
「ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。ほら、ドリも」
「ほちちょーらい!」
ドリは両手を振って配信を終えた。
ぜひ、可愛いドリちゃんにたくさんの★をプレゼントしてください!
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