63.配信者、畑の中心で不倫劇をする
ドリの顔は今までにないほど怒っている。阿保の事件の時もヒヤヒヤしたが、今回はそれ以上だろう。
きっとその怒りは俺に向けられたもののため、そう感じているだけかもしれない。
「パパ!」
「あっ、はい!」
俺は姿勢を正す。別に浮気をしたわけでもないし、俺も知らない幼女に戸惑っている。ただ、ドリからしたら同じぐらいの幼女に取られるのが嫌なんだろうか。
「げっ、ドリが来た」
そして自分のことを百合と言っていた幼女はドリを敵対視していた。見えない何かがバチバチと音を立てているようだ。
「パパはドリの!」
「違うもん! パパは百合のだもん!」
「いやー、俺は――」
「シッ!」
「パパは黙ってて!」
小さい子でも女の子は女性らしい。こんな修羅場を経験するとは思わなかった。
俺の中では"娘は嫁には出さない"っていうのは、想像していた。だが、今は"パパを婿には出さない"っていう状態だろうか。
戸惑う俺とドリ達は歪みあっていた。
近くにいたはずのポテトも手を大きく振って、走って家に帰って行った。
巻き込まれないように先に回避したのだろう。きっと危機回避能力に優れている。
「ゆりぃー!」
そんな中遠くから女性が誰かを探している声が聞こえてきた。きっとこの子を探していたのだろう。
確か名前も百合と言っていた。
俺はしゃがみ込んで百合と目の高さを合わせる。
「きっとお母さんが――」
「ちゅ!」
突然頬に衝撃が走り、時間が止まったように感じた。百合は隙をついて俺の頬にキスをしてきたのだ。
背後から感じるドリのメラメラとした圧に俺は振り返ることができない。
どうすることもできない状況に母親が来るのを期待したが、時はすでに遅かった。
「メッ!」
ついにドリは百合を俺から離すために引っ張った。
俺を引っ張るならよかったが、ドリは直接百合を掴んで引っ張ったのだ。
力が強いドリが体の大きさが同じ幼女を引っ張ったら、どうなるのかは俺でもすぐに想定できた。
「きゃ!」
声を上げて百合は倒れていく。そんな彼女を俺は急いで受け止める。
「大丈夫か?」
「王子しゃま♡」
再び百合は俺にキスをしてきた。すぐに振り返ってドリの顔を見ると、目からは涙がポロポロと溢れていた。
「パパきりゃい!」
ドリは走ってどこかに行ってしまった。追いかけようと思ったが、百合は俺を離さないし、ドリの走る速さに追いつける気がしない。
いつの間にあんなに成長したんだろうって思うぐらいの速さだ。
きっとかけっこをしたら一番だし、将来はオリンピック選手を目指せる。
ただ、それよりも今までドリに嫌いと言われたことない俺は立ち直れそうにない。
すでにここから娘の反抗期が始まっているのだろうか。
「もう、勝手に行ったらダメ……パパ!?」
走ってきた女性は俺を見てもパパと言っていた。ひょっとしたら俺は知らない間に子どもでも作ってしまったのだろうか。
「ママ! 百合パパにプロポーズしたの!」
「へっ? 私より先に仲良くなるなんて……」
母親はなぜかその場で落ち込んでいた。この状況を他の人が見ていたらきっと困惑するだろう。
"畑の真ん中で不倫劇"
畑の真ん中で男女が地面に手を触れて落ち込んでいる。
「百合ちゃん離してもらってもいいかな?」
「嫌だー!」
「私もパパさんに触れたいです」
母親なら謝って子どもを回収するかと思ったが、親子揃ってずっとくっついて離れない。
「ごめんな。俺はドリを追いかけないといけないからな。それにお母さんはなんで紛れてくっついているんだ?」
「やだ! 百合はパパと一緒にいるもん」
「私も推しと一緒にいたいです」
「おいおい、パパは俺だぞ!」
顔を上げるとそこには春樹がいた。
「春樹の家族か?」
「ああ、俺の奥さんと娘だな」
誰かに似ているって思ったが、春樹の娘だから見慣れた顔だと思ったのだろう。
都会に出て知らぬ間に子どもができたわけじゃなくてまずは一安心だ。
「ハルキはハルキだよ。パパはパパなの!」
春樹の娘は春樹のことを名前で呼んでいるのだろう。俺の困った顔を見て春樹は百合を引き剥がす。
ついでに嫁も引っ張って欲しい。
「お母さんも離してください」
「お母さんじゃない。桜って呼んでください!」
春樹はどんな女性と結婚したのだろうか。貴婦人のような人を想像していたが全く違っていた。
いや、色んな意味で貴婦人とは似ているのだろうか。
「桜さん」
「尊死」
手を離した瞬間に俺は立ち上がった。そんな二人を春樹が必死に止めている。
ここは俺に任せて先に行けと言わんばかりの顔だ。
「春樹ありがとう」
俺は礼を伝えてドリを追いかける。どこに行ったかはわからないがとりあえず家に戻ることにした。
「なんであんたが泣いているのよ」
「だって、あいつ最近俺に礼を伝えるんだぞ」
「ハルキずるい!」
「私もパパに褒められたい!」
「いやいや、お前達のパパは俺だからな? しかも、桜は俺の奥さんだからな」
「別にいいじゃん! 私達パパを見守る人だよ? ねー、百合」
「そうだよ。百合はハルキよりもパパが好きなんだもん」
俺をドリの元へ行かせてくれた春樹は畑の上で落ち込んでいた。
「ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。ほら、ドリも」
「ほちちょーらい!」
ドリは両手を振って配信を終えた。
ぜひ、可愛いドリちゃんにたくさんの★をプレゼントしてください!
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