59.配信者、あの人に会う
「まず今回のコンセプトですが、"身近な都会と自然な田舎"になっています」
プロジェクターに映し出されたのは、コンピューターグラフィックで作られた動画だった。ダンジョンを中心に半分が自然豊かな街になっており、半分がそのままの自然が残された畑や養鶏場があった。
「思ったよりも小さめな街ってイメージだな」
確かに動画では都会ってイメージよりは、下町感が溢れていた。
小さな病院や商店街のような飲食店や衣類店がある。
それも都会感を出さないように、配慮した作りになっている。
「小春亭はどこに出す予定だ?」
「あー、それが使っていない土地がたくさんあるから、小嶋養鶏場の近くに作ったらどうだって親父に言われてさ」
元々は企業側にいるはずの春樹が、俺と一緒に話を聞いているのは、向こう側にお店を出さないことになったからだ。
「小春亭というよりは小春亭グループのカフェがコンセプトになるかもな」
「ん? 小春亭グループ?」
「ああ、これでもうまいこといって、お店をいくつか持っている経営者だからな」
「はぁー、完璧に負けたわ」
どうやらただのシェフだと思っていた春樹は、いくつか自分のお店を持っているらしい。
様々な飲食部門がある内のカフェ部門がお店を開くことになった。
「ほとんどは奥さんのおかげだけどな」
さらっと奥さんを褒めるところも、同じ男としてどこかムカつく。机の下で俺は直樹の足を踏むことにした。
俺は都会で何をしていたのだろうか。
ただ無駄な時間を過ごしていたような気がした。
「これから質問に移ります。何かある方は挙手をお願いします」
質問がある企業はいくつかあり、手を挙げていた。
「私、ヤオン株式会社代表の古田と申します。今までのダンジョン都市とはだいぶかけ離れたコンセプトのような気がします。なぜ大きな街を作ろうとしなかったんですか?」
ヤオン株式会社がドリと一緒に服を買った大きな複合型のショッピングセンターだ。そんな大手の会社も説明会に来るとは思わなかった。
「ここは市長の私がお答えしましょう。この街に住む私達は皆自然、田舎を愛しています。みんな不便なのを理解した上でここに住んでいるのが現状です」
市長はよほどこの街が好きなんだろう。だからこそ、ダンジョン都市プロジェクトと言いながらも規模が小さく、俺達のことをよく考えている。
「魔物が溢れた時に対策できる人数の探索者を準備しておく程度にとどめておきたいです。やりすぎた都市開発は全てを壊します」
今までと違うダンジョン都市を目指す話をした後は、手を挙げる者は少なくなった。同じことを聞きたかったのだろう。
「笹島ホールディングス株式会社の五味です。今の話を聞いて何となくダンジョンと反対側の自然を守るために、都市開発を反対しているように感じました。実際に住民達が都市開発に反対しているということですか?」
どこかで聞いたことある声に、俺は脳内の記憶を呼び覚ます。
「それは違います。住民の方々もとても協力的です」
「なら、なぜそこの土地も買収しなかったのでしょうか? 正直言ってダンジョン都市開発に邪魔な気がします」
俺達がいるからダンジョン都市ができないと受け取ったのだろう。
それにしてもこの声って――。
「あっ、あいつ本社のやつか」
彼はこの間の事件を起こした阿保の上司。そして、俺の頭を紙束で叩いていた元勤め先の本社にいる人だ。
卸売業だけではなく、様々な分野に関わっている大きな会社のため、今回参加しているのだろう。
「直樹大丈夫か?」
「ん? 大丈夫だぞ?」
なぜか春樹は心配そうな顔で俺を見ていた。春樹には退職した時の話はしていないはずだが……。
「皆様のお気持ちは十分わかります。最高難易度のダンジョンができたら、それだけ探索者を留置させないといけない。そのためにも都市開発は重要になってきます」
都市開発をする目的。それはダンジョンから魔物が出てこないように、探索者を集めることが必要になる。
ダンジョンから魔物が溢れ出せば、隣の市や県にも被害が出る。
ダンジョンがあるのは良い面もあれば、恐怖の対象になる。
「はーい! あたしもいいかしら!」
次に立ち上がったのはピンクのスーツを着たあの人だ。
「探索者への癒しの空間は必要になるわ。そういうのも考えているのかしら」
それはオホモダチがやるオカマバーのことだろうか。それは問答無用で作るつもりはない。
俺が必死に首を振ると、市長は気づいたのだろう。笑ってこっちを見ていた。
「環境に合うようであれば大丈夫らしいです」
どうやら横に振りすぎて、頷いているように見えたらしい。全く俺のことが伝わらず項垂れていると、ピンクのスーツを着た男はこっちを見ていた。
♢
企業の説明会が終わった俺達は会場から出ていく。
「さっきから体調悪そうだけど大丈夫か?」
「俺のことか?」
「お前しかいないだろ」
きっとあの会場に五味がいたからだろう。忘れていたとしても、心のどこかにあいつらの存在は残っている。
阿保の問題が解決しても、俺はいつまであいつらに付き纏われないといけないのだろう。
貴婦人が来るまで車で待っているつもりだったが、誰かから声をかけられた。
「ああ、君もここにいたんかね」
声をかけてきたのは五味だった。一番会いたくない人に見つかったようだ。
「お久しぶりです」
「ははは、あの時以来だね。あれから阿保くんも色々あって大変だったよ」
きっと阿保が起こした事件のことを言っているのだろう。それにしても自分が俺に何をしたかわかって話しかけて来ているのだろうか。
「君も新しい会社に迷惑をかけないようにね。ただでさえ迷惑ばかりかける社員だったからね」
少しずつ頭がぼーっとしてきた。前と違って寝不足じゃないはずなのに……。
言い返したいのに言葉が出ない。
「どうせ、君はすぐに謝れば良いと――」
「おい、クソジジイ黙れ」
「誰にものを言っているん――」
「お前しかいないだろ!」
いつも怒るところなんて見たことがない春樹がなぜか怒っていた。
できなかったのは俺のせいだ。
ミスをしたのは俺だ。
迷惑をかけていたのは俺なんだ。
「すみません。すみません。すみません。すみません。すみません」
俺は膝をついて必死に謝る。なぜか体が言うことを聞かない。
「おい、直樹大丈夫か!」
「君、なにやってるんだ! こんなに人がいるところで」
「お前のせいだろ!」
「生まれてきてごめんなさい。生きててすみません」
勝手に動く口は力尽きたのか、俺はそのまま倒れた。
「ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。ほら、ドリも」
「ほちちょーらい!」
ドリは両手を振って配信を終えた。
ぜひ、可愛いドリちゃんにたくさんの★をプレゼントしてください!
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