58.配信者、説明会に参加する
聖奈に協力してもらい、貴婦人を車の中に運んだ。
女性だからどうしようかと思ったら、軽々しく運ぶ聖奈に改めて探索者としての凄さを実感した。
きっと側から見たら誘拐現場に見えただろう。
「朝からご迷惑おかけしてすみません」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫ですか?」
「尊死!」
俺と春樹が声をかけたら、貴婦人は車の中でも昇天していた。
「被るなよ!」
「長年一緒にいたから仕方ない」
確かに離れていたのも都会に出た時ぐらいだから、考えやタイミングが似ていても仕方ない。
ちなみに貴婦人の吐いた毒は魔法のため、一瞬にして消えたから問題はなかった。
車の移動中もバケツを抱きかかえながら、項垂れる貴婦人はどこか面白かった。
「おっ、懐かしいな。春樹と直樹を毎日送り迎えしていたんだぞ」
「推しの学校……ぐふっ!?」
こんな感じで養鶏場のおじさんも貴婦人をいじって遊んでいたら、すぐに説明会の会場に着いた。
「今日って何をすれば良いか聞いているか?」
「いや、市長からはその場で居てもらえば良いと言われているぞ」
メールを確認するが特に何かするとは書かれていなかった。単純に顔合わせをして、俺達と関わり合う相手側として判断してもらいたいという程度だろう。
「久しぶりに公民館に来たな」
「来るのって成人式ぐらいだもんね」
今回の会場は公民館で行うことになっている。俺が住んでいる地域では、成人する人もそこまで多くないため、街の大きな公民館にたくさん集められる。
数年前に来たばかりなのに、どこか懐かしく感じるのはそれだけ時が経ったのだろう。
「ドリもここで成人……あっ……」
俺はついついドリが隣にいるかのように話しかけたが、今日は家でお留守番をしている。祖父と探索者達と畑作業をするらしい。
凡人と侍もだいぶ慣れて来たのか、ドリが無理やり引っ張って、畑に連れていかれた。
「ドリちゃんが成人したら大変だな」
「なんで?」
「だって、すでに子役以上の可愛いさだぞ? 俺の娘には負けるけどな」
春樹も子煩悩なんだろう。先のことはなるべく考えたくはないな。
思春期になって"パパ臭い"とか"一緒に洗濯しないで"って言われたら、俺の心は崩壊するだろう。
「そういえば、お前のところも女の子なんだな」
「ああ、百合と言ってお前のことが……いや、なんでもない」
春樹の奥さんと娘さんも、そろそろ引っ越しの準備と役所の手続きを終えてこっちに来るらしい。
俺と春樹は仲良くはないが、ドリと百合ちゃんにはできれば仲良くなってもらいたい。
周囲が大人ばかりだと、わがままな子になってしまいそうだ。
同年代の友達は今後も必要になるだろうし、社会に出たら同年代とは仲良くした方が良い。そういう経験があるのと、ないとでは全く違うからな。
「あっ、森田さんと小嶋さん!」
会場の玄関で俺達を待っていたのか遠くにいる市長が手を振って呼んでいる。
「では私はあちら側なので終わった後もよろしくお願いします」
貴婦人は今回企業側で参加らしい。なんでもコンセプトカフェと本をたくさん置いてあるカフェを、経営しているとか。
探索者をしながら子育てをしていたことに驚いたのに、まさか経営者もしていたとは驚きだった。
本当にできる人はなんでもできてしまうのだろう。
市長の案内で俺達は会場に向かう。
「遅れてすみません」
「いえいえ、時間はまだまだあるので大丈夫ですよ。それにしても思ったよりもたくさんの企業様が参加してます」
会場の後ろに通された俺達はあまりの人の多さにびっくりした。
こんな田舎に人が集まるのかと思うほど人がいる。みんなスーツを着ているため、ちょっとした就職説明会に似たような雰囲気を感じた。
中には真っピンクのスーツを着た人もいるが……。
「あっ、関わったらいけないやつだ」
振り返ったそいつは、たまに家の前にいるピンクのタンクトップを着た男だった。
タンクトップはどこかで売ってそうだが、男性用のピンクスーツって特注で作っているのだろうか。
「ではこれからダンジョン都市プロジェクトについての説明を始めます」
前にいる役所の人が話し、企業に対しての説明会が始まった。
「ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。ほら、ドリも」
「ほちちょーらい!」
ドリは両手を振って配信を終えた。
ぜひ、可愛いドリちゃんにたくさんの★をプレゼントしてください!
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