57.配信者、朝からバタバタする
「パパ!」
「ドーリー、まだ寝かせて――」
俺は脇に違和感を感じた。また、ドリがくすぐろうとしたのだろう。
勢いよく目を覚ますと、そこにいたのはドリではなかった。
「ひょっとしてカラアゲか?」
『クウェ!』
なんと昨日生まれたばかりのカラーひよこのカラアゲが脇の付近で寝ていた。
「お前血が出ているじゃん!」
きっと寝ていた時に俺が潰していたのだろう。口元から大量に血が出ていた。そのせいでベッドが赤く染まっている。
あたふたとしている俺にドリが何かを手渡してきた。
「トマト……?」
「うん!」
ドリは必死にトマトをカラアゲに食べさせていた。カラアゲはうまく種を取り除いて実だけ食べている。
「はぁー、よかったわ」
血だと思っていたのは、潰れたトマトだった。
カラアゲに何かあったらドリが悲しむと思ったため、とりあえず安心して力が抜ける。
それにしてもベッドの上でトマトを食べるのは良くないことだ。
うん?
そもそもトマトって食べても良いのか?
生まれたばかりのひよこは、まだ消化器官も発達していない状態のはず。その状態で野菜を食べると、消化不良になるかもしれない。
餌箱を見るとすでに中の餌は空になっていた。
「おい、カラアゲそれ以上食べるのはまだダメだ!」
『クェ!?』
すぐにトマトを奪うと、カラアゲは俺の顔を睨んでいた。
悪いことをしたつもりはないが、なぜか罪悪感に襲われる。
「パパ、メッ!」
しかも、ドリまでカラアゲの味方をして怒ってきたのだ。
「このままだとカラアゲが死んじゃっても良いのか?」
『クェ!?』
「えっ!?」
顎をカタカタと震わせてお互いの顔を見合わせている。ドリとカラアゲは同じような顔をして驚いていた。
少し驚かせてしまったようだ。
「まだ野菜は食べたらダメだからね」
『クェ!』
「はい!」
大きな声でカラアゲとドリは返事をしていた。
そう言えば、普通のカラーひよこって返事をするのだろうか。普通のひよことは少し違うから、オウムとかと同じで返事をする種類なのかもしれない。
このことも養鶏場のおじさんに確認してみるか。
「あと、カラアゲはまだ体温調整ができないから、外に出てきちゃダメだぞ!」
『クェ!?』
急いで孵化器のプラスチックケースに戻るのかと思ったが、布団の中に入って行った。布団に包まれたひよこって本当に鶏から生まれたのだろうか。
それに夜中に見た時よりも大きくなっている気がした。
疑問ばかり残っていたが、ドリを連れて一階に向かう。
♢
「おっ、直樹おはよう」
階段を降りていくと、いつものように春樹が台所にいた。お弁当を作るようになってから見慣れた光景だが、ここのところ毎日いる気がする。
「やっぱりパパさん寝不足ですね」
「あっ、おはようございます」
優雅に麦茶を飲んでいる貴婦人は美味しそうに朝食を食べていた。彼女だけ見たら映画の中で出てくる、カフェのテラスで朝食をしているOLのようだ。
パンツスタイルのスーツが彼女のスタイルの良さを際立たせている。
「パパさんはそんなにゆっくりしていても大丈夫かしら?」
「えっ? 今日って何かありましたっけ?」
俺は周囲を見渡すが、他の人もいつも通りで特に変わりはない。気になるのはなぜか春樹もスーツを着ているということだ。
今日って何かある日なんだろうか。
「おいおい、今日って市長が言っていた説明会の日だろ? 俺も親父と一緒に養鶏場側として出席することになってるんだよ」
俺は今日が企業に説明する日だということを忘れていた。ポテト達とカラアゲのことですっかり頭から予定が消えていた。
「俺も準備してくる!」
急いで二階に戻りスーツに着替える。会社員時代にスーツを着ていたため、すぐに着る準備はできた。
久しぶりに着たスーツはどこか小さくなったように感じる。こっちに来てから畑作業で鍛えられたのもあるのだろう。
今の時刻は9時前だ。説明会の会場はここから車で2時間程度はかかる。
頭の寝癖を整えながら下に降りていくと、すでに春樹と貴婦人は用意が終わっていた。
「おい、車出すのって俺か?」
「流石にあの車じゃ乗れないだろう。俺が運転していくぞ」
どうやら春樹が会場まで運転してくれるらしい。
「よかった。それならまだ寝れるか」
「おいおい、いい加減起きろよ。それにネクタイ結ぶの下手だろ」
春樹は俺からネクタイを奪うと、ネクタイを結んでいく。こういうところって俺よりも春樹の方が兄っぽい。
よく学生の時も春樹に無理やり起こされて、学校に連行されていた。
「ダメよ……既婚者とは禁断の恋よ! 無理無理、朝から毒が止まらないわ」
間近で見ていた貴婦人はポタポタと口元から毒が垂れていた。
「ちょちょ、吐くならバケツでお願いします!」
「おいおい、急に動くと危ないだろうが!」
俺がバケツを取りに行こうとしたため、ネクタイを結んでいた春樹がそのまま倒れてきた。
大きな音を立てて、大人が二人して床に倒れる。
「はぁーん♡ 尊……死……」
俺達を見て貴婦人は鼻と口から毒が噴水のように溢れ出て倒れた。
このまま説明会に間に合うのだろうか。
「ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。ほら、ドリも」
「ほちちょーらい!」
ドリは両手を振って配信を終えた。
ぜひ、可愛いドリちゃんにたくさんの★をプレゼントしてください!
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