54.配信者、犬を飼う
作業を終えた祖父が帰ってきた。
「おっ、次は犬っころも飼うのか」
玄関にいるミツメウルフを見て、すでに撫でまわして可愛がっていた。安全な場所が確保できたからなのか、彼らも嫌な顔せずに尻尾を振って喜んでいる。
どこから見てもただの犬だ。
そんなミツメウルフについて、祖父母に説明することにした。
「あー、実はあいつら魔物なんだ」
「そうなのか?」
「ドリちゃんのお友達ってことね」
この二人は魔物のことを何も思わないのだろうか。"ドリと同じ魔物"それぐらいにしか思っていないのだろう。
「ワシは昔から犬が好きだから、飼ってみたかったんだ」
どうやら祖父は犬好きらしい。遠いところではあるが、隣に小嶋養鶏場があるから、犬は飼わないようにしていたと。
吠えて鶏に悪影響を与えてもいけないし、鶏の鳴き声に犬がびっくりする。
同じ生産者として気にしていたのだろう。
そんなことも考えずに引き取ることになったから、一度相談しにいかないとダメだ。
「おばさーん! うぉ、犬がいるじゃん!」
ちょうど良いタイミングであいつが訪れたようだ。ここ最近毎日来るけど、何か理由があるのだろうか。
「お前何しにきたんだ?」
春樹は玄関でミツメウルフを撫でていた。そしてこいつらに甘噛みされるのは、俺だけなんだろうか。
「おやつを持ってきたぞ」
「おやちゅ!」
どこかで春樹の言葉を聞いていたドリが走って近づいてきた。
「今日はうちの卵を使ったプリンを作ってきたぞ」
「コッコ?」
「そうだ!」
子どもがいるからか、ドリの扱いが俺よりもわかっているような気がする。
「おい、ドリにそんなに近寄るな」
俺はドリを引き離そうとするが、プリンに釣られて春樹の手を離さない。
「あんまり嫉妬するとドリちゃんに嫌われるぞ?」
確かに春樹が言うのも間違いではない。俺が春樹と言い合いしていると、ドリは必ず怒って仲直りさせようとする。
そういえば、昔同じようなことで誰かに怒られていた気がする。
仕方ないと思い手を離した。
今回はプリンに負けたことにしよう。
俺は気になっていることを聞くことにした。
「それで犬を飼うことになったけど、鶏には悪影響しそうか?」
「あー、どうかな。昔俺らが拾った蛇を投げ入れた時もあいつら普通に蛇を食べてたぞ?」
「鶏が蛇を食べる……?」
鶏が蛇を食べていたらあまりの衝撃で覚えているはずだが記憶にはない。きっと衝撃すぎて忘れたのだろう。
そのあとおじさんに鶏小屋の掃除をさせられたのは覚えている。
春樹は一度おじさんに相談してみると言っていた。
「それにしてもこいつらって本当に犬か?」
「いや、魔物だ」
「あー、やっぱりここには変わったやつしかいないからな」
それはドリのことを言っているのだろうか。他に変わったやつはいないし、いるのはSランク探索者ぐらいだ。
「ただいま!」
俺と春樹が玄関で話していると、探索者達が次々と帰ってきた。
「玄関で逢引かしら?」
「いやいや、どこから見てもデートだろ」
「拙者もそう見えますね」
今日から凡人と侍も民泊として我が家に住むことが決まった。だが、この人達を追い出すことも考えておこう。
俺が不適な笑みを浮かべるとすぐに謝ってきた。
「直樹って本当に何者なんだ」
「ん? 俺は俺だぞ」
そんなに俺がおかしいやつみたいな言い方はやめて欲しいものだ。
貴婦人と聖奈は別部屋になったため、あと残っているのは一部屋だけになる。
時折、濃いピンクのタンクトップを着た派手な男が、我が家に泊まりたいと言ってくるが無視している。
「どこか春樹さんとパパさんって兄弟みたいですよね」
一方の聖奈は俺達を見て兄弟だと言ってきた。
「俺が兄だな」
「俺が兄だな」
ん?
今、春樹の口から兄という言葉が聞こえてきた気がする。
「春樹が兄のはずないだろ? 俺の方が頼り甲斐があるぞ」
しばらく静かな時の流れを感じた。聞こえてくるのは、祖母が夕飯を作っている台所の音だけだ。
「あー、まぁそうだな。うん、後々大変だからそうしておこうか」
なぜか春樹は俺の肩を叩いて頷いた。どこか悲しい気持ちになったが、これで俺を兄だと認めたってことだな。
「みんな、ご飯が出来たから準備してちょうだい!」
祖母の声が玄関まで響いてきた。どうやら夕飯が出来たようだ。
「あっ、ミツメウルフちゃんただいま」
「今日からあなたもここの住人なのね」
「あとで散歩でもするか?」
「ワン! 拙者は犬でござる」
個性溢れる挨拶をして探索者の人達は靴を脱いで家に入っていく。
魔物であるミツメウルフが玄関にいて、何も思わないのだろうか。
こいつらは俺を襲ったミツメウルフだぞ?
「きっと俺と同じ感覚だと思うぞ」
「ん? どういうことだ?」
「魔物ぐらいで何も思わないってことだよ」
そう言って春樹も居間に向かって行った。きっと探索者達には、ミツメウルフが見慣れているのだろう。
どうやらミツメウルフは我が家の番犬として違和感はないようだ。
椅子に座ると次々と料理を運び夕飯を食べることになった。
「ここにいるやつらはキャラが濃いからな。ただの魔物程度で驚かないんだろうな」
「おい、何か言ったか?」
「何も?」
春樹は小さな声で呟いていたが、俺には聞こえなかった。
それにしても、こいつはいつまでいるのだろうか。気づいた時には、いつものように椅子に座って夕飯を食べていた。
「ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。ほら、ドリも」
「ほちちょーらい!」
ドリは両手を振って配信を終えた。
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