52.配信者、犬に嫌われる
次の日畑で作業をしていると、困った顔をしたイーナカギルドのギルドマスターがやって来た。
リードにはミツメウルフが繋がれており、寝転んだまま引きずられていた。額の瞳も開くことはなく、散歩を嫌がる犬にしか見えない。
「パパ、ワンワン!」
ドリはミツメウルフに気づいたのか、俺に近づいて来た。初めて俺と会った時にミツメウルフに襲われていたが、特にトラウマにはなっていないようだ。
「お久しぶりです。こいつらが昨日言っていたミツメウルフですか?」
まだ俺達のことに気づいていないのか、そのまま引きずられている。
「ははは、こいつら本当に頑固なんですよね。抱きかかえたら、おもいっきり噛んできますし」
すでに顔には引っかき傷ができており、ここまで連れてくるのに大変だったのを物語っている。
「おーい、お前ら久しぶりだな」
俺が声をかけるとミツメウルフは顔をこっちに向けた。
『ハァ!?』
確実に驚いた声を出していただろう。一瞬にして立ち上がり二足歩行で逃げようとしている。
こいつらは何かあるたびに、立ち上がる魔物なんだろうか。
「おい、こら逃げるなよ!」
そんなミツメウルフをギルドマスターが引き留めていた。
『クゥーン!』
ミツメウルフはチラチラと俺を見て助けを求めてくる。
「あっ、ひょっとしてドリが怖いのか?」
俺の言葉が理解できているのか、必死に頷いていた。
「ドリはばあばのところに行って、お客さんが来たことを伝えてもらってもいいか?」
「ワンワン……」
ドリはミツメウルフと遊びたいのだろう。子どもって動物が大好きだからな。
ドリが家に戻って行くと、ミツメウルフは落ち着いたのかお座りしてこっちを見ていた。
「森田さんって本当にテイマーの素質があるんですね」
「俺ですか?」
どちらかと言えばミツメウルフには襲われた記憶しかない。ただ、目の前にいるミツメウルフは襲う気もないし、見た目はただの犬にしか見えない。
「お前ら、俺の家に住むか?」
俺が座っているミツメウルフを撫でようと手を出すと、隣のやつが大きく口を広げた。
「痛っ!」
どうやら俺はミツメウルフに嫌われているようだ。ただ、甘噛みなのはこいつらが優しいだけだろうか。
ちょうど血が出ない程度で噛んでくる。ミツメウルフに噛まれているが、狂犬病とか持っていないのか気になるところだ。
「おい、お前らそんなことだとダンジョンに捨てられるぞ!」
ギルドマスターがリードを強く引っ張ると、ミツメウルフはそっぽ向いていた。
魔物が懐かないってのは本当のことのようだ。
「パパー!」
どうしようか迷っていると、ドリが走って戻ってきた。やはりドリのことが怖いのか、すぐに姿勢を正して立ち上がったと思ったら、俺の後ろに隠れていた。
「よかったら少しだけ家に寄っていきませんか? 詳しい話も聞きたいですし」
「それなら、少しだけお邪魔します」
俺達はギルドマスターと共に家に向うことにした。ミツメウルフもドリが後ろから追いかけたら、立ったまま走って家に逃げて行った。
あまりにも強く引っ張るから、ギルドマスターもリードを離してしまった。
♢
「ばあちゃんただいま!」
急いで家に戻ると玄関で祖母が待っていたようだ。その周りをミツメウルフとドリがクルクルと追いかけっこをしている。
「お客さんってギルドマスターのことね。直樹がいつもお世話になっております」
俺がドリを抱きかかえると、ミツメウルフもやっと足を止めた。
「少しの間、話をするから居間を借りるね」
「わかったわ。その間、私がワンちゃんの面倒を見ているわね」
「いや、こいつら魔物――」
祖母を止めようと思った時には、祖母はミツメウルフを撫でていた。ミツメウルフも嬉しいのか、祖母にスリスリと体を寄せていた。
今までの俺達とは全く違う反応にギルドマスターと共に驚いた。
祖母も噛まれるのかと思ったのだ。
「そういえば、あなた妊娠しているわね? 隣の子がお父さんかしら?」
「えっ?」
俺達は噛みつかないミツメウルフの方を見たら、少しだけお腹が出ているような気がした。
ひょっとしたら、奥さんと子どもを守るためにお父さんミツメウルフは怒っていたのだろうか。
祖母がすぐに毛布を用意すると、そこにミツメウルフは座っていた。
「俺よりばあちゃんの方がテイマー向きかもしれないですね」
「ははは、そうなりますね」
俺よりも祖母にミツメウルフのことについて相談した方が良い気がした。
「ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。ほら、ドリも」
「ほちちょーらい!」
ドリは両手を振って配信を終えた。
ぜひ、可愛いドリちゃんにたくさんの★をプレゼントしてください!
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