49.聖女、命懸けの鬼ごっこをする ※聖奈視点
私はAランク探索者とともにドリちゃんと外に遊びに行くことになった。本当は独り占めしたかったが、凡人と侍に邪魔されたのだ。
今まで全く意識していなかった探索者だが、今日からあいつらは敵になった。
「ドリちゃんは何して遊びたい?」
「おにおに!」
「おにおに? それはおにぎりのことかな?」
"おにおに"とは、ドリちゃんがよく食べているおにぎりのことを言っているはず。
ドリちゃんファン1号の私が間違えるはずがない。
ただ、おむすびころりんみたいな遊びはあっただろうか。
「ううん。ネーネおにおに!」
これは私がおにぎり役になって欲しいと言っているのだろうか。
意図が伝わらず、だんだんとドリちゃんの顔が暗くなる。
こんな時、パパさんならすぐにドリちゃんの気持ちがわかるのだろう。
「きっと鬼ごっこのことを言っているのではないか?」
「鬼ごっこの鬼から取っているなら、確かにおにおにで合っているでござるな」
どうやら合っていたのか、ドリちゃんの顔は少しずつ明るくなってきた。
ドリちゃんと会うのは私の方が早かったはずなのに、私より心が通じ合っているような気がしてムカつく。
「じゃあ、私が鬼をやるから三人とも逃げてね」
ここでSランクとAランクの違いを見せつけてやる。私はそう思った。
「はーい!」
ドリちゃんは手を上げて優雅に逃げていく。
「あなた達も速く逃げたらどう?」
「拙者も逃げるのか?」
「俺も鬼がよかったんだが――」
「ほら、ドリちゃんが待っているわよ」
ドリちゃんは遠くで手を振っていた。その姿に私達は虜になっていた。
だが、私は忘れていない。
あいつらのことを……。
大きく息を吸い、捕獲者がどこにいるのかを一瞬で判断する。伊達にSランク探索者をしていない。
走るまでの一瞬でどこにいるのかを把握した。あとは追いかけるだけだ。
ダンジョンにいる時よりも、動くことに特化して脚に魔力を流す。ドリちゃんを取られた恨みは忘れていない。
「ぶっ殺してやる」
思っていたことがつい言葉として出ていたようだ。
地面を蹴ると砂埃が周囲に巻き上がった。私は一瞬にしてあいつらと距離を詰める。
私の脚力であれば二人を捕えることは簡単だ。
これがSランク探索者の力だ。
「うぉ!?」
あと少しで手が触れそうなタイミングで、二人が気づき避けた。簡単に捕まえられると思ったが、そうはいかないようだ。
伊達にAランク探索者をしているわけではなかった。
あいつらを舐めて判断を間違えたようだ。
「おいおい、あれはバーサーカーモードじゃないか!?」
「凡人ここは頼んだぞ!」
「おおお、おい!」
凡人と侍は二手に分かれた。私が逃すはずがない。
二兎追うものは全て手に入れる。
それが私の教訓だ。
少し速度を緩めた凡人をその場で捕まえる。服を掴むとそのまま切り返してスキルを発動させた。
「ブースト!」
身体能力を高めると侍に向かって一気に距離を捕まえる。
「あれは私の獲物だ!」
「うおおおおお!」
それでも侍は必死に私の手を避ける。次々と放つ一手に周囲の空気が引き裂かれる気がした。
「ネーネ!」
そんな私の耳に推しの声が聞こえた。急いで手を止めて振り返る。
きっと愛らしい顔で呼んでいるのだろう。
「えっ、なんで……」
ドリちゃんは怒った顔をして、こっちを見ていた。
「そりゃードリちゃんだけ仲間外れになっているからだろ」
凡人が言うにはドリちゃんだけ仲間外れにされていると感じているのではないかと言っていた。
私はこいつらを始末するため捕まえようとしていたのに、ドリちゃんには遊んでいるように見られたようだ。
「ネーネ! ドリがおにおに!」
ドリちゃんはつまらなかったのだろう。私の手を握って鬼の役を交代すると言っていた。
「じゃあ、俺は逃げるぞ!」
「拙者も逃げるでござる!」
二人が逃げたことで再び鬼ごっこが始まった。
私も急いでドリちゃんから離れる。
♢
「はぁ……はぁ……」
鬼ごっことは命をかけて戦うもの。
鬼ごっことは己の信念を突き通すもの。
鬼ごっことは――。
「みーちゅけた!」
隙間からチラリと覗くドリちゃんの顔は、獲物を捕らえるドラゴンよりも――。
――可愛かった。
一瞬にして私の心は鷲掴みにされたのだ。
ただ、その手には引きずられている凡人と侍がいた。
奴らはあっさりドリちゃんに捕まってしまった。見た目は可愛らしい幼女だが、あの動きはSランク探索者に匹敵するレベル。
ドリちゃんの身体能力は一般的なドリアードを逸脱していた。
「ちゅぎ、ネーネ!」
優しい笑顔のはずが、ぐったりとしている二人の姿も相まってホラー映画のように見えてしまう。死闘の結果二人は負けた。
ドリちゃんは疲れ知らずなのか、やつらは逃げきれなかったのだ。
延々と笑顔で追いかけてくるドリちゃんに逃げきれなかった。
私はすぐに向きを変えて逃げる。しっかりとスキルを使って移動速度も上げておく。
「ネーネ!」
後ろを振り返ると愛らしい顔のドリちゃん。やはりそう簡単に逃してはくれないようだ。
引きずられているやつらがいなければ、きっと砂浜を走るラブストーリーのような展開に見えるだろう。
ただ、隣には綺麗に実ったトマトやキャベツ。野菜達が私を応援している気がした。
そう、ここは畑の隣にある空き地だ。
ドリちゃんの手が空気を切って鋭く伸びてくる。
どこか緑色の腕に見えるのは気のせいだろうか。
「私は捕まらないよ?」
私は急いで体を傾けて避ける。しかし、場所が悪かった。
畑の柔らかい土に足を入れてしまったのだ。そのまま畑に体が倒れていく。
このままじゃパパさんが育てた野菜の上に落ちてしまう。
必死に足に力を入れるが、勢いは止められない。
「メッ!」
目をつぶると背中に柔らかい衝撃が走る。
「蔓?」
「ネーネ、メッだよ?」
ドリちゃんがスキルを使って私が倒れるのを防いだようだ。私は一安心して息を吐く。
そんな私をみてドリちゃんは満面な笑みで近づいてきた。
「ドリちゃんありが――」
「タッチ!」
どうやら私はドリちゃんに捕まったようだ。
「ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。ほら、ドリも」
「ほちちょーらい!」
ドリは両手を振って配信を終えた。
ぜひ、可愛いドリちゃんにたくさんの★をプレゼントしてください!
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