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47.配信者、衝撃に崩れ落ちる

「ママ起きて?」


 俺は母をいつものように起こす。今日は両親が探索者としてダンジョンに遠征に出発する日だ。


 あれ……?


 なんで俺は母を起こしているんだ?


 俺の両親は亡くなっているはずだ。


「直樹、ママは起きたか?」


「相変わらず寝坊助だよ。いつものやっていい?」


「許可する」


 俺の母は朝が弱く、いつも叩いても起きない。そんな母を起こすにはあれをやらないと起きないのだ。


「ゴブリンだああああ!」


 いつものように脇に手を入れてくすぐる。これをすれば寝坊助の母はすぐに飛び起きて目を覚ます。


「はははは、もうやめて! 小さなゴブリンさんストップ!」


 母は大きな声で笑いながら起きた。これが俺達の朝の日常風景だった。


 ちなみに同じことを父がやったら、勢いよく蹴り飛ばされて壁に穴が空いていた。


 理不尽だと落ち込んでいた父の背中はどこか哀愁漂っていた記憶がある。


 それから俺が蹴られても、すぐに止められるように父の許可が必要になった。


 探索者を止められるのは探索者だ。


「早く準備しないと新幹線に乗れなくなっちゃうよ?」


 ここから近場の新幹線乗り場までかなり遠い距離だ。良い大人なんだから、一人で早く起きれるようになって欲しい。


 そんなことを思いながら、母の部屋から出て祖父母が待つ居間に向かった。


「ふふふ、直樹も大きくなったわね」


「子どもと戯れたいからって狸寝入りしているもんな」


「あんた、言ったらわかってるわよね?」


「はいはい、高ランク探索者に勝てるはずないだろ? それよりも直樹と飯を食べてやれ。しばらく会えなくなるんだぞ?」


「それもそうね」


 俺は荷物を取りに行くために、母の部屋の前で立ち尽くしていた。


「あれは嘘だったのか……」


 俺は隠れるように居間に戻った。


「お母さん達は起きてくるか?」


「うん」


 俺は嘘をつかれていたとは思わなかった。いつも母も楽しんでいたと思っていたのに、本当は俺に合わせて遊んでいたのだろうか。


 探索者の両親はいつも命懸けで働いている。そんな二人に憧れて、俺も探索者になりたかった。


 だから、ちゃんとした大人になるのが初めの一歩。


「いただきます」


 先に朝食を食べていると、両親が遅れてやってきた。


「あっ、私の好きな卵焼きだ」


 母はテーブルにある卵焼きを手で摘んで口に入れた。


「お行儀が悪い子ね。直樹がマネしちゃうよ」


「大丈夫。直樹は私より良い子だもん」


「それは言えるな」


「あんたの息子でもあるんだからね?」


 両親は本当に仲が良い。そんな両親に俺は迷惑をかけたくなくて、ずっと良い子を演じていた。


 自分でもこうやったら親は喜ぶんだろうって思って行動していたのを今でも覚えている。


「ママ早く食べないと新幹線に乗り遅れるよ?」


 俺の言葉に母は急いで椅子に座り朝食を食べた。途中喉に詰まらせて、お味噌汁を流し込んだら熱すぎて咽せていた。


 朝食を済ました両親はダンジョンに行くための準備を始めた。


「次はいつ帰ってくるの?」


「んー、富士山だから結構日数はかかるわね」


 ダンジョン富士山は日本で一番と言っていいほど、最高難易度と言われているダンジョンだ。


 そんなダンジョンに行ける両親は強くてかっこいいのだろう。


「そうか……」


「なに? 直樹寂しいの?」


 母はニヤニヤした顔で近づいて、俺を抱きしめる。


「なるべく早く帰ってくるからね」


「じゃあ、直樹をお願いします」


「小さなゴブリンはこの家を守るんだぞ!」


 両親は俺の頭ゴシゴシと髪の毛が無くなりそうな勢いで頭を撫でる。


「痛いよ! 俺は強いから寂しくないもん! ママとパパが帰ってこなくても(・・・・・・・・)じいちゃんとばあちゃんがいるもん!」


 俺は両親の手を払いのけてにこりと笑った。両親を送る時ぐらいは心配事をかけたらいけないからね。


 その日、両親はダンジョン富士山に向かった。

 

 これが両親と話している最後の会話になるとは思いもしなかった。


 いや、これが最後かどうかも覚えていない。


 ただ、"帰ってこなくてもいい"って言わずに、素直に"早く帰ってきてほしい"とか"行かないでほしい"って言えばよかったと後悔している。


「うっ……」


 急にどこか頭が割れるように痛くなってきた。





「パパー!」


「んっ……?」


「ドリちゃんやっちゃいなよ」


「うん!」


 どこかで話し声が聞こえると、思ったら急に脇が痒くなってきた。


「おいおい、ドリやめてくれ!」


「パパさんが起きないのが悪いですよー!」


「ちょーだ!」


 ドリは俺の脇をくすぐっていた。力加減ができない少し強めのくすぐりだ。


「昨日気絶して大変でしたよ?」


「えっ?」


 どこか懐かしい夢を見ていた気がする。どうやら俺は昨日気絶したようだ。


「パパ?」


 少しぼーっとしていた俺をドリは心配していたようだ。


「お返しだ!」


 俺はドリの脇に手を入れてくすぐる。ドリもムズムズするのか、笑いながら俺の顔を蹴ってきた。


 うん、ドリをくすぐるのをやめようと思うぐらい痛かった。


 一瞬、川の向こうで手を振る祖父母が見えた。いや、まだ祖父母は生きている。


「元気そうならよかったです」


 昨日は結局異変を感じた聖奈と貴婦人が俺の部屋に来て、俺をベッドの上に寝かしつけたらしい。


 動画配信をそのまましていた俺のチャンネルに聖奈と貴婦人が映り込んで、二人の身バレと貴婦人が泊まっていることが配信された。


 すぐに貴婦人に謝ったが、コメントでなんとなく気づいている視聴者もいるから、本人は気にしていないらしい。


 むしろ俺達を守る人が誰かをはっきり分からせることができたため、良い牽制になったらしい。


 それに堂々とここに泊まっていることを自慢できるから喜んでいた。


「それに嬉しいことはたくさんあるからいいわ」


 それだけ言って貴婦人は居間に戻って行った。


「あっ、お弁当!?」


 今日もお弁当を作る予定だったが忘れていた。急いで台所に向かうと、朝から会いたくない人がまた来ていた。


「よっ! ドリちゃんの頭突きで気絶したなおちゃん」


 春樹が今日も台所で料理をしている。どうやら俺の代わりに祖母とお弁当を作っていたようだ。


「ありがとう」


「えっ? 聞こえないぞ?」


「お前の耳は節穴か!」


「それって目のことだぞ……」


 ケラケラと笑っている春樹についイライラしてしまう。


 それでも今日は助かった。


「ああ、今日も眼福だわ」


 近くで貴婦人が祈っているが、そこは気にしないでおこう。


 俺は途中から春樹と変わろうと思ったが、祖母からも勉強になるからと断られた。シェフとして働いていた春樹から学ぶことはたくさんあるらしい。


 お弁当作りは二日目にして春樹と交代になった。


「そういえば、ここら辺で飲食店をやるから配信で宣伝しておいてよ」


 ん?


 春樹がここで店を始めるって……?


「ああ、言ってなかったか? 店の出店の応募に受かったんだわ」


 この間、役所からすぐに飲食店が応募してきたと聞いていた。なんでも"地産地消"を意識したお店で、今後ダンジョンを盛り上げるのに太鼓判を押されていた店のことを言っているのだろうか。


 俺もその話を聞いてすぐに許可を出した。大きな企業でもないため、小さなお店が出来ても気にすることはないと思っていた。


 確か"小春(・・)亭"って名前だった気がする。


「小春って()()樹からきてるのか!」


 よし、これはすぐに市長に報告して話をなかったことにしてもらおう。精神衛生的に俺には良くないからな。


 これが大人の力ってやつだ。


「今回は視察と実家に帰ってきただけだが、次は奥さんと娘も連れてくるからな」


「奥さんと娘……?」

「既婚者だと……?」


 俺と貴婦人の声が重なった。思ったことは同じなんだろう。


「また負けたのかよー!」

「カップリングがぁー!」


 どうやら貴婦人とは違うことを考えていたらしい。慰めるように、ドリは俺の頭をよしよししていた。


 どうやらここでも俺は春樹に負けたようだ。


 高速で動かすドリの手に俺の髪の毛は少し抜け落ちた気がした。


 どこか懐かしい手。


 でもその手を俺は思い出せない。


「じいちゃん何やってるの?」


 そして、祖父よ。


「ああ、髪の毛は大事だからな」


 コソコソと髪の毛を拾わないでくれ。


 俺はハゲるつもりはないぞ。


「ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。ほら、ドリも」

「ほちちょーらい!」

 ドリは両手を振って配信を終えた。


ぜひ、可愛いドリちゃんにたくさんの★をプレゼントしてください!

他の作品も下のタグから飛べますので、ぜひ読んで頂けると嬉しいです。

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