46.幼馴染、きっかけは直樹 ※春樹視点
「おう、直樹はどうだった?」
「あー、やっぱり相当俺のこと嫌ってたわ」
「ははは、直樹らしいな」
俺は幼い頃から隣に住む直樹といつも過ごしていた。どこにいくのもいつも一緒。何をするのも一緒。
学生の頃はほとんどセットのように過ごしていた。
兄弟や近場に友達がいない俺には弟のように面倒を見ていた。
田舎って過干渉って言うだろ?
森田家と小嶋家って昔からそんな繋がりがあった。
「最近は元気なんだよな?」
「ああ、おばあちゃんも特に気にしていなかったぞ」
直樹は幼い頃からPTSDに悩まされていた。別名 "心的外傷後ストレス障害"のことだ。
両親が亡くなったことがきっかけはわからないが、本人も病気のことに気づいていないのが、さらにタチが悪い。
パニック発作が落ち着いた頃には記憶はなく、昔の記憶が曖昧なのはPTSDが原因だと聞いている。
病気で苦しむあいつの面倒を見ていたのは俺だし、学校で何かあった時も俺が駆けつけていた。
幼い頃、直樹の祖父母が不在でご飯を作る機会があった。当時の俺は何もできなかったため、直樹の家にある野菜をとにかく入れて焼いた。
ただの野菜炒めだ。
それなのにさっきまでパニック発作が出て泣いていた直樹が、俺の料理を食べて元気になったことが忘れられなかった。
その時にどんな病気でも、料理は人を笑顔にすることができると知った。
この出来事がきっかけで俺は料理人になりたいと思った。
俺に夢をくれたのも直樹だ。
元々はこの養鶏場を継げば良いと思っていた。基本的にめんどくさいことは嫌いだからな。
俺に影響を与え続けているのが直樹だったが、そんな直樹も大きくなると病気は落ち着いて、パニック発作が出ることはなくなった。
そして、なぜかその頃から俺はあいつに嫌われるようになった。
俺の方がイケメンで身長が高いから仕方ない。
今もそれは変わらないからな。
「直樹の彼女も元気だったか?」
「いや、あれは彼女じゃないだろ?」
「ははは、幼馴染だから直樹のことはよくわかってるな」
「あいつはかなり奥手だからな。俺が一緒に声をかけないダメだったからな」
学生の頃は俺が協力して直樹といる時に、女子に話しかけるが中々上手くいかなかった。なぜかそういう時に限って俺に告白してくることが多い。
他の女子も直樹を使って俺と仲良くしてこようとする女なんてこっちから願い下げだ。
他にも、部活の大会の時も足を痛めているのに、迷惑がかかると言って黙っていたし、とにかく直樹は手のかかるやつだ。
足を骨折しているのに大会に出ようとする馬鹿を放っておけないだろう。
心配する度に過干渉なのが原因で嫌われていたのだろう。
俺にとってあいつは弟だから心配になってしまう。
しかも、そういう時に限ってあいつはすぐに忘れるからな。
「またじいちゃんに言っておくよ」
だが、一緒にいたドリちゃんや聖奈さん達ならきっと大丈夫だろう。
両親と同じ探索者と関わって大丈夫なのかと思っていたが、どうやら今の直樹は気にしていないらしい。
むしろドリちゃんにしか興味なさそうなところの方が問題だ。
俺もただのうざいやつみたいに思われていたし、怒りたいのはこっちだ。
そういえば、ドリちゃんはいつも直樹の味方なのに、あの時に限って俺と仲良くするように言ったのは何かあったのだろうか。
それでも何がきっかけかはわからないが、元気になった姿が見れてよかった。
「そういえば、百合ちゃん達はいつ来るんだ?」
「あー、早めにはこっちに来たいとは言ってたけどここで生活できるのか?」
俺には奥さんと娘がいる。働いている時に出会ったのが今の奥さんだ。彼女の実家も養鶏場をしていたことで距離が縮まった。
結婚してすぐに娘の百合が生まれて、今は三人で暮らしている。
娘が偶然動画を見ていて、そこに出て来たのが直樹とドリちゃんだった。
故郷を出てから直樹と連絡が取れなくなってから初めて見た姿だった。
何をしているのか知る手段もなかったから、動画の中で元気な姿を見れて安心した。
直樹の祖父母に話を聞いてもらおうと思ったが、親父にいつもやめとけと断られていた。
そんな中、実家の近くでダンジョンができたことでお店を開くチャンスができたのだ。
ダンジョンの周囲は都市になると言われるぐらい変化する。そこでお店を開けるなら、確実に売れるだろう。
奥さんの桜に反対されるかと思ったが、娘の百合がどうしても俺の実家に住みたいと言っていた。
理由は教えてくれなかったが、桜も一緒にお店の仕事をするのは問題ないらしい。
田舎が恋しくなったと言っていたため、ちょうど良いこの機会に移り住むことになった。
元々実家の方に戻ってお店をやりたいとは話していたからな。
きっと彼女は俺に気を遣ってくれたのだろう。
「まぁ、ここが少しでも変わったら住みやすくなるからいいんじゃないか? お前達もどうにか大人になったんだからな」
これぐらいポジティブに生活していかないと、ここではやっていけないのだろう。
さぁ、俺も明日の朝から早速直樹の家に行こうかな。
昔のように文句を言いながらも、あいつは俺の飯を食べているからな。
「ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。ほら、ドリも」
「ほちちょーらい!」
ドリは両手を振って配信を終えた。
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