45.配信者、探索者の秘密を知る
今日はドリと夜の生配信だ。これだけ聞くといやらしく聞こえるだろうが至って健全だ。
「もう少しで産まれるのかな?」
無精卵だと思っていた卵はまさかの有精卵だった。
俺は準備していた道具を組み立てていく。
トイレットペーパーの芯の中に懐中電灯を入れて、簡易検卵機の完成だ。それを卵に当てることで雛の心臓の動きが見えるのだ。
「ドギドギ?」
「頑張っているね」
中の雛は大きく心臓が動いている。時折中からコツコツと殻を突く音が聞こえてくるため、そろそろ出てくる頃だろう。
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貴腐人様 最近
元気に出てきて欲しいですね。
それにしても幼馴染との愛の巣はいつ作りますか?
費用はこちら持ちでも構いませんわ
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オホモダチ 最近
↑それ詳しく教えなさいよ!
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オサレシェフ 最近
俺のことか?
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鉄壁の聖女 最近
生まれてくるコケコッコの名前は決まったのかな?
また名前が決まったら報告会してくださいね
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コメントを見ていると、聖奈と貴婦人が生配信を見ているようだ。隣の部屋にいるなら、一緒に参加すれば良いのに、断られてしまった。
推しは画面越しで見るから良いんですと言われた。なら、実物は見なくてもいいのかと聞いたら、それもまた違うらしい。
ちなみに貴婦人は聖奈に頼んで、同じ部屋に泊まっている。
仲が良いのかわからない大人二人を同じ部屋に泊まらせるのも気が引けるため、明日はみんなで掃除をする予定だ。
そして一番気になるコメントを見つけた。
「オサレシェフってお前か?」
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オサレシェフ 最近
相変わらずツンケンするなよ
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どうやら春樹もこの配信を見ているようだ。
「ギィヤアアアアアアアア!」
すぐに配信を終わろうと思ったら、隣の部屋から大きな声が聞こえてきた。
何かあったと思い、急いで隣の部屋をノックする。
「何かありましたか? 中に入りますね」
段々と暖かくなってきたから虫が出てくる時期だ。
都会に住んでいれば、見たこともない虫が出てきて悲鳴を上げるだろう。
探索者でも女性には変わりない。
俺は扉を開けた。
「あのー、大丈夫ですか?」
そこには紫色の何かを吐いている貴婦人がいた。明らかに緊急事態で戸惑っていたが、聖奈は動じていない。
「あっ、問題ないですよ。貴婦人さん砂を吐く代わりに毒を吐くらしいです」
「砂を吐く!?」
いや、砂も毒も普通は吐かないのが普通だろう。
探索者は何かがあったら、砂を吐くのだろうか。体の構造が本格的に違うなら、俺はかなり稀な探索者になる。
「聖奈さんも砂を吐くならバケツを持ってきますよ?」
「あっ、私は大丈夫です」
とりあえずバケツを一つ持ってきて部屋に戻ろうとしたら、大きなタブレットに映るドリの姿が気になった。
実際に生配信している動画を見たことがないため、どこか新鮮な気持ちになる。
「ドリちゃん卵にのびのびしてますね」
「流石に卵は大きく……なるんだな」
ドリが卵に向かっておまじないをかけると、なぜか卵が大きくなった気がした。
以前視聴者に卵が大きくなってると言われたけど、特に気にしたことはなかった。
卵が大きくなることはないと思っていたからだ。
だが、実際におまじないをかけたタイミングで大きくなっていた。
「あのおまじないって魔力を与える効果があるのかもしれないわね」
「魔力?」
毒を吐き切ったのか、身なりを整えた貴婦人がおまじないについて語り出した。
「どうやったら野菜に魔力が宿るのか気になっていたわ。それで動画を全て見返したらあることに気づいたんです」
全ての動画を見返すって言っても、ほぼ毎日だらだらと畑の作業動画を配信しているため、
すでに動画の本数は多くある。
編集をしろと言われても技術がないため、仕方ない。最近は視聴者が切り抜き動画を作ったことで、さらに視聴者が増えてきた。
「あることですか?」
「生配信で行っている畑作業の以外に何もされてないですよね?」
「はい」
基本的に畑作業の時は配信するようにしているため、別に何かやっているわけでない。
「多分他の生産者が作る野菜の畑と違うのは、あのおまじないなんです」
貴婦人はおまじないである"のびのび"のタイミングで、ドリが無意識に魔力を与えているのではないかと言っていた。
「きっとあの卵が孵化したらわかるわね」
「それって……」
それを聞いて何か嫌な予感しかしない。魔力を持った生物って、それは魔物になってしまう。
「思っている通りよ。魔力を持った鶏になるわね」
ああ、鶏なら安心だ。ミツメウルフのようにミツメニワトリとか出てきたら、すぐに唐揚げにするところだった。
命の授業ってやつだな。
一安心した俺が部屋に戻ると、ドリは急いで正座をしていた。どこか悪いことをしてバレた時のような顔をしている。
「ドリ、のびのびしたのか?」
「ちてない」
目を合わせずに頭を横に振っている。きっとドリは卵にのびのびしたらいけないと思っているのだろう。
魔力を持っても問題ないなら、別にそこまで気にすることではないはずだ。
そんなドリにイタズラをすることにした。
「俺は嘘つく子が嫌いだぞ?」
「ギャァ!?」
ドリは顎が外れそうな勢いで驚いていた。そんなに俺に嫌われるのが嫌なんだろうか。
顎がガタガタ高速で揺れている。
「やっぱり素直なドリの方が――」
「ごめんちゃい」
ドリはすぐに謝ってきた。ボロボロと目から溢れてくる涙を見ると、俺の方が罪悪感で胸が苦しくなる。
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名無しの凡人 最近
おいおい、パパさんが泣かしたぞ!
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孤高の侍 最近
ドリちゃんー!
これはパパがイタズラしているだけだぞ?
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鉄壁の聖女 最近
今日の夜中にパパをダンジョンに捨ててこようかしら?
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畑の日記大好きさん 最近
↑それをやったら家から追い出されますよ?
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コメントからも俺を擁護する声はなかった。どうやらやりすぎたようだ。
そして、聖奈は本当に実行しそうだから怖い。
「ごめんごめん。パパは何をやってもドリのこと好きだぞ」
「ほんちょ?」
「ああ、こっちにおいで!」
俺は手を広げてドリが来るように構える。
「パパー!」
案の定ドリは飛び込んできた。俺の鳩尾を目掛けて頭突きだ。
「うっ……」
あまりの衝撃に肺から空気が押し出される。
「パパ……? パパ!?」
どこか遠くでドリが泣いているような気がする。俺は優しくドリを撫でるとそのまま気を失った。
「ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。ほら、ドリも」
「ほちちょーらい!」
ドリは両手を振って配信を終えた。
ぜひ、可愛いドリちゃんにたくさんの★をプレゼントしてください!
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