43.配信者、市長と土地について話し合う
祖母が春樹の相手をしていると、突然知らない電話番号から電話がかかってきた。
「誰だこれ?」
電話番号は携帯番号ではなく、固定電話番号からかかっているようだ。そのままメモしてネットで検索をしている間に切れてしまった。
「これって役所の番号か?」
電話番号は役所の固定電話からかかっていることがわかった。
この間の事件から面倒ごとには関わらないようにしていたが、咄嗟にこういうことが起こると警戒してしまう。
すぐに電話を掛け直そうとしたら、メールが一通届いた。この間、連絡が取れるようにと市長と連絡先を交換していた。
そこには履歴にある電話番号、携帯電話番号と話したい内容について書いてあった。
俺はすぐに携帯番号に電話を折り返す。
「あっ、先程電話に出ることができず申し訳ありません。森田直樹です」
「おお、忙しいときにごめんね」
市長の電話はフランクだった。本人からも連絡先を交換した時に、気軽に相談できる関係でありたいと言われていた。
「いえいえ、それで要件についてですが――」
相手が市長になると、気軽に接して欲しいと言われても抵抗がある。
「今メールで添付ファイルを送ったから、同時に開くことはできる? できればご家族と一緒に話を聞いて欲しいんだができそうか?」
俺は近くにいる祖父と玄関にいる祖母を呼んだ。
「祖父母を呼んできました」
「ありがとう。それで添付ファイルには、この間見せたダンジョン周囲の土地の地図が貼ってあるが」
「開きました」
ファイルを開けると、ダンジョンがある山を中心に描かれた地図が出てきた。
「色分けしてあるところが現状の土地の配分になる」
土地の配分はわかりやすく色で分けられてあった。この間は説明されただけだったが、しっかり色が塗られているだけでわかりやすい。
「えーっと、赤が探索者ギルドで青が国および地方自治体の土地になっている」
「ではこの緑と黄色が私有地ってことですか?」
ちょうど畑があるところは緑色に塗られて、小嶋養鶏場のところは黄色になっている。
「正解! おじい様とおばあ様にも確認してもらってもいいかな?」
俺は地図をズームして大体のところを祖父母に確認する。
「ああ、ここまでが畑だな」
「ここの土地はいつ買ったのかは覚えがないのよね」
祖父母が管理していた土地ではあるが、いつ購入したのかも覚えていないようだ。
「やっぱりそうだよね」
俺も家の中で土地所有権証明書を探してみたが、見つからなかった。
「記録としてはそこまでが森田家の土地になる。それで今回のダンジョン都市開発プロジェクトは自然を残したまま発展をさせていきたいと思っている」
いつのまにかダンジョン発展計画からダンジョン都市開発プロジェクトとして、名前が変わっていた。
ちゃんと話が進んでいるという証拠だろう。
「これって――」
「森田家や小嶋家の土地はそのまま運営してもらい、ダンジョンの反対側を街にしていくってことですか?」
上から見た図でもわかるように、ダンジョンを囲むように探索者ギルドが土地を保有しているため、そこから半分を生産者、半分を企業や国の土地と分けるようだ。
そして、都市開発プロジェクトというよりは温泉街のような感じになりそうだ。
「生産者と街が共存したダンジョン都市を作ろうと思っているがどうかな? このまま田舎の良さを残しつつ、ダンジョンとともに暮らすために必要最低限の生活場所を作るってイメージですね」
ダンジョンが大都市になる理由の一つとして、スタンピードした時に、探索者を確保しておく役割がある。
最高難易度のダンジョンであればあるほど、探索者の確保が必要なため大都市になってしまうのが現状だ。
田舎の良さが残るのであれば特に問題点はなさそうだ。畑や養鶏場に問題がなければ良い。
例えば工業排水や汚染物質で土壌が汚染されないか。街からの汚染や風による塵などで畑へ悪影響がないか問題点はあるだろう。
逆に農薬や化学物質の使用で近隣の環境や住民の健康を考えなければいけない。
幸い無農薬だから気にしなくても良いが。考えることはたくさんあるだろう。
それでも畑と街が美しく調和した風景を見てみたいと思ってしまった。
「俺は大丈夫だけど、じいちゃんとばあちゃんはどう?」
「ワシは問題ないぞ? 畑もまだ荒れているし、今後使う土地もあるなら問題はない」
どうやら祖父はもっと畑を大きくするつもりらしい。俺よりも畑作りに積極的な気がする。
「あとは小嶋養鶏場さんね」
「ああ、それならおじさんに聞いたら鶏に影響がない範囲なら問題はないと言っていたし、土地の一部を売却して発展させても良いと言っていました」
小嶋養鶏場のおじさんに頼まれたことを話すと市長も嬉しそうだ。それだけ土地の管理について大変だったのだろう。
「今度企業向けの説明会があるため、周辺の動画を撮ってもらってもいいかな?」
「ほとんど森林か更地ばかりですが大丈夫ですか?」
「ああ、それで構わないよ。あとは説明会にできれば小嶋養鶏場の方と参加してもらっても良いかな?」
説明会に生産者側として我が家とおじさんが呼ばれることになった。そこで実際に企業側が生産者に対してどのような態度なのかも見て欲しいと言われた。
これが市長の言っていた企業の選定になるのだろう。
地産地消を促すなら関わりは深くなるだろうし、お互いに利益を生む関係でなければいけない。
決して俺が働いていたような企業を参入させてはいけない。
ブラック企業に勤めていたからこそ、見えるものがあるかもしれない。
自信はないが、最終的な判断は市長が決めるため深く考えずに参加することを決めた。
「ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。ほら、ドリも」
「ほちちょーらい!」
ドリは両手を振って配信を終えた。
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