40.配信者、お弁当作りを配信する
「うぇーん! パパー!」
料理を作り始めるとドリが泣いて降りてきた。辺りをキョロキョロしている。
「ドリ、どうした?」
俺を見つけると走って抱きついてきた。怖い夢でも見たのだろうか。
「パパないない」
「ないない?」
「ないない」
いつもはドリより遅く起きていたため、目を覚ました時に俺がいなくて泣いていたのだろう。
「はああ、もう尊死だ」
そんな姿を聖奈はスマホで撮影していた。ドリのことになると、いつもスマホをこっちに向けている。
ひょっとしたらカメラマンとして雇うのも良いのかもしれない。
一度聖奈に聞いてみることにした。
「あっ、せっかく撮るならカメラマンをお願いしてもいいですか? 料理をしているところの配信って難しいんですよね」
前から料理配信をしてみたいと思っていたが、固定カメラ目線だと作っている姿しか撮れない。そもそも台所にスマホを置くところがないのが問題だ。
それなら同じ家の中にいることがバレた聖奈がやっても問題はない。
「本当にいいんですか?」
「良いですよ」
俺はスマホを渡して生配信を始めた。
「あっ、みなさんおはようございます」
「おはおは!」
早朝からの生配信は今までやったことなかったが、視聴者達が少しずつ増えてくる。
この人達は何時から起きているのだろうか。
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幼女を見守る人 最近
ドリちゃんおはよう!
朝から見れるなんて今日一日うまくいきそうです
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パパを見守る人 最近
パパさんおはよう!
朝の占いより朝の配信だな
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名無しの凡人 最近
おはようございます!
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貴腐人様 最近
こんなに朝早くからどうしたのかしら?
やっぱり迷惑をかけたのかしらね。
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ハタケノカカシ 最近
朝から畑を耕すのか?
畑の中心で待っているぞ
▶︎返信する
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やはり俺が朝から活動していることに視聴者も驚いているようだ。反対に俺はこんな早朝にみんなが配信を見ていることに驚いている。
朝の占いより配信を見る時代もいつか来るだろう。
そのうちドリの占いコーナーも始めてみようか。
「今日はせっかくなので料理を作るところを配信することにしました」
そんな俺とは違い祖母はスマホの前に立つと頭を下げた。
「皆様おはようございます。いつも直樹とドリがお世話になっております」
祖母の挨拶に視聴者もしっかりとコメントで挨拶を返してきた。動画配信とかで視聴者が心にもないコメントを書くと聞いたことがあったが、俺の視聴者にはそんな人は一人もいない。
いるのは少し変わった視聴者だ。この間、作業で使う軍手をプレミアム価格で売って欲しいと知らない人からメッセージが来ていた。
そんなに軍手が欲しいなら新しいのを買って送ってあげようかな?
「じゃあ、早速料理しているところを配信したいのですが、実はほとんどできているんですよね」
すでにドリが起きる前に祖母といくつか料理を作っていた。
今できているのは、ラタトゥイユ、野菜のピクルス、サラダ、野菜たっぷりカレー、生春巻き、ピーマンの肉詰めととにかく野菜祭りだ。
いくら腐らないといえ、ずっと保存しておくのが怖いため、腐りそうな野菜から使っている。
「今日のメインは野菜の天ぷらです」
「てんぴゅら?」
きっとドリは天ぷらを食べたことがなかったはず。
「じゃあ、ドリはここの中にししとう、ピーマン、かぼちゃ、ナス、カブを入れてね」
ボウルに衣をたくさん作り、そこに俺が切った野菜を入れていく。それをドリが祖母に渡す流れ作業だ。
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名無しの凡人 最近
朝からほっこり
▶︎返信する
オホモダチ 最近
朝からもっこり
▶︎返信する
畑の日記大好きさん 最近
↑誰かこの人を捕まえろ!!
▶︎返信する
幼女を見守る人 最近
ドリちゃんに変なことを教える奴は逮捕だ!
▶︎返信する
パパを見守る人 最近
パパに手を出すつもりか!
▶︎返信する
貴腐人様 最近
それには賛成です!
できれば観葉植物か壁に転生してからお願いします
▶︎返信する
オサレシェフ 最近
ここは変人ばかりか?
めちゃくちゃ天ぷらうまそうだな
完全に早朝から飯テロだ
▶︎返信する
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油の中に入れた野菜達はぶくぶくと空気を出していく。ドリが油の中を覗こうとするため、急いで遠ざけると泣きそうな顔をしていた。
大事な可愛い顔が火傷したら俺は立ち直れないだろう。
少しずつ野菜が浮かび上がり、綺麗な薄いきつね色に揚がっていく。
「ドリ食べてみるか?」
「みりゅ!」
大きくあけた口に小さく切ったホクホクなかぼちゃの天ぷらを入れる。
熱かったのかドリは目を大きく見開いていた。
「熱かったか?」
「うまうま!」
手を頬に当てて笑顔でこちらを見ている。どうやら美味しくて目を大きく見開いていたのだろう。さらにもう一つ欲しいのか口を開けていた。
「次は朝に食べようね。ドリにはこれを手伝ってもらわないといけないからな」
俺はボウルにご飯を入れてドリに渡す。何をやるのかわからないドリは首を傾げている。
「ドリの大好きな――」
「おにおに!」
「正解!」
ドリは手で持って簡単に食べられるおにぎりが大好きだ。よく畑の作業の休憩におにぎりを食べている。
いつも祖父と並んで三人でおにぎりを食べるのがお昼休憩の定番だ。
「今日はかぼちゃのおにぎりとトマトのおにぎりを作るよ!」
我が家ではよく野菜を使ったおにぎりが定番だ。
かぼちゃおにぎりは、かぼちゃを蒸して潰した後に、切ったかぼちゃと一緒にごはんと混ぜ込んだ甘めのおにぎり。
一方のトマトおにぎりは、トマトのみじん切りやスライスをご飯の中に包む。トマトの酸味とジューシーさがアクセントになりさっぱりする。
どちらも正反対なおにぎりで美味しい。
あとは王道の塩おにぎりを用意する。畑作業は汗をかきやすいが、探索者も動き続けるので俺らと変わらないだろう。
「おにおににぎにぎ!」
「にぎにぎ!」
「美味しくなあーれ!」
「おいちくなぁれ!」
「おにおににぎにぎ!」
「にぎにぎ!」
適当に口ずさんでいたら、いつのまにかおにぎりの歌も出来ていた。小さい子がいると、なぜか歌を歌ってしまうのはなんでだろう。
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犬も歩けば電信柱に当たる 最近
おにおににぎにぎ!
▶︎返信する
幼女を見守る人 最近
にぎにぎ!
▶︎返信する
オホモダチ 最近
俺のあそこを
▶︎返信する
未婚の母 最近
↑それは言わせないぞ!
▶︎返信する
畑の日記大好きさん 最近
追放だああああ!
▶︎返信する
オサレシェフ 最近
知らぬ間に父親になってたんだな
▶︎返信する
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気づいた時には祖父も起きてきて、家族みんなでお弁当を作ることになった。
「ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。ほら、ドリも」
「ほちちょーらい!」
ドリは両手を振って配信を終えた。
ぜひ、可愛いドリちゃんにたくさんの★をプレゼントしてください!
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