39.配信者、知らない間に人気者になる
俺は早起きして早速お弁当作りを始める。100万円も受け取ったら豪華なお弁当を作らないといけないが、材料はここで作った野菜ばかりしかない。
高級なお肉もないし、高級食材もない。あるのは冷凍保存してある普通のお肉だ。
そこで召喚したのは祖母だ。長年調理場に立つ祖母なら、どうにかこの問題を解決できると思っている。
「豪華に見えるのはやっぱり季節の野菜を使った天ぷらとかかしら?」
確かに天ぷらなら豪華だが、主役メニューにはなりにくい気がする。どうするか悩んでいると聖奈が起きてきた。
「おはようございます」
「ひょっとして起こしちゃいましたか? こうやって働くのって久しぶりだから声が大きくてすみません」
祖母は久しぶりに働くことになって楽しそうだ。いつも俺達のために作ってくれた料理が、貴婦人が買うってなっただけで、こんなにも表情が変わるとは思わなかった。
「いえいえ、ちょっと問題が発生しまして……」
聖奈はスマホを取り出して、俺に画面を見せてきた。そこに書いてある言葉に俺は戸惑ってしまう。
「畑の日記ファンクラブってどういうことですか?」
俺が作ったわけでもないし、事務所にも所属していないため、非公式のファンクラブができていたことになる。
配信者の中には事務所に所属している者も少なくない。ダンジョン配信者も探索者というよりは芸能人に近い。
今度アイドルグループになるとかも噂で聞いていたりする。
いつかはドリもアイドルデビューするのも良いかもしれない。
「ドリちゃんが誘拐されたのをきっかけに、ファンクラブができたんです」
みんなでドリの居場所を探すために協力したコミュニティがいつのまにかファンクラブになっていた。
そのままそこで俺達の情報が共有されることになったらしい。
今のところは身長、体重、足の大きさなど個人情報が出ている。いつのまに身長と体重がバレたのだろうか。
俺が着てる服やドリの服も会員者に特定されていた。
ちなみに民泊の予約サイトを作る資金もここから出ているらしい。
どれだけみんなが会費を払っているのか気になるところだ。
「それで何か問題にもなったんですか?」
「実は私がここに住んでいるのがバレてしまって、他の探索者達も泊まりたいとの話が出たんです」
聖奈は探索者ギルドから頼まれて泊まっていたが、そのまま本人の希望もあり我が家に泊まっている。
それがファンクラブの特典みたいな感じになっていると勘違いされていた。
ちゃんと聖奈から説明したが、それでも他の探索者から見たら羨ましいのだろう。
生活費をもらっているし、我が家の防犯係として特に気にしていなかったが、ボロい家でもテントよりは寝心地は良いからな。
「それなら民泊が始まるまで、そのなんちゃら特典としてお弁当サービスをやってみるのはどうかしら?」
「それだとばあちゃんが大変じゃない?」
貴婦人のためにお弁当を作っているのも、ひょっとしたらまた探索者からずるいと面倒ごとになっても大変だろう。
それならと祖母が提案してきた。
ただ、貴婦人にはお金をもらっているため、みんなからもお金をもらわないといけない。
急にそんなに働き出して祖母の体は大丈夫なんだろうか。それに聖奈も心配して家を出ると言っている。
「私はみんなが食べてくれるご飯が作れて嬉しいわよ。あとはメニューを考えなくても済むからね」
祖母が提案したのはバイキングみたいに食事をたくさん用意して、各々のお弁当を提供するという内容だった。
それに民泊を始めるなら、たくさんの料理を作る練習になると言っていた。
最近俺よりも祖父母の方が元気な気がする。
俺なんてできればずっと寝ていたいし、何もしたくない。
死ぬほど働いていた時の影響が、お金の心配がなくなった今になって出て来たのだろう。
きっとドリがいなければ俺は鬱にでもなっていた。それだけあの時は精神面もギリギリだった。
「じゃあ、聖奈さんはファンクラブに呼びかけをしてもらっても良いですか? 探索者の中でパーティーに一人でも入っている人を限定でお願いします」
「わかりました。値段はどうしましょうか?」
「んー、お弁当なら500円――」
「それは安すぎます! ここで作る野菜が食べられるなら安くても数万はします」
いくらなんでも魔力が少しあるってだけで高すぎる。そこまで魔力に価値があるのだろうか。
こっちとしては倉庫にある野菜を早めに処分するぐらいにしか考えていない。
次にできた野菜はギルドに出荷して、その他は倉庫に行く予定だ。
今後のことを考えると、農業機械も購入していかないといけないし、冬に向けてビニールハウスの準備も必要だ。
野菜が腐るタイミングが分かれば定温倉庫も必要になる。
3ヶ月前にできたトマトを試しに置いているが、未だに腐らない謎の食べ物だ。
そんな野菜を使うつもりだ。現に俺達も野菜を食べているが特にお腹を壊すこともない。
ひょっとしたら備蓄食品として野菜が加わる日も来るだろう。
「んー、なら気持ち程度って伝えてもらっても良いですか?」
「わかりました」
まだこの時は探索者にとって、ここの野菜をたくさん使った料理がとんでもない効果があることを誰も知らなかった。
「ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。ほら、ドリも」
「ほちちょーらい!」
ドリは両手を振って配信を終えた。
ぜひ、可愛いドリちゃんにたくさんの★をプレゼントしてください!
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