36.配信者、鶏の飼育日記を始める
俺は久しぶりにスマホを設置して、動画配信を始めた。
「皆さん、お久しぶりです!」
挨拶をすると少しずつ視聴者が増えてくる。チャンネル登録をしているからか、生配信が始まると同時に通知が来る仕組みになっているのだろう。
「中々配信を再開する気持ちにはならなかったのですが、今回はドリの希望で配信を始めました」
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名無しの凡人 最近
おかえりー! ちなみに何が始まるんですか?
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貴腐人様 最近
やっと帰ってきたわね。
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幼女を見守る人 最近
ドリちゃんの企画か!
ワクワクして寝れなくなりそうです。
▶︎返信する
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俺は早速大小のプラスチック容器を取り出した。コメントの様子からして、みんなは何をやるのか気づいていないのだろう。
「ドリ持ってきてー!」
「はい!」
ドリはスマホの前で敬礼をして、手に持っている卵をみんなに見せつけていた。
「コケコッコ!」
「実は近くの養鶏場から卵を頂きました!」
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ハタケノカカシ 最近
コケコッコ!
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オホモダチ 最近
卵に転生したらパパさんに撫でて貰えるのかな?
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未婚の母 最近
↑目玉焼きにされて終わりだよ
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畑の日記大好きさん 最近
新たなチャレンジを応援しています!
料理企画かな?
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鉄壁の聖女 最近
今日も可愛いです!
コケコッコの卵になりたいです!
▶︎返信する
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同じ建物内にいるのに、聖奈は隣の部屋から配信を見ているのだろう。隣からずっと変な声が聞こえてくる。
「実は小学生の自由研究で一度やったことがあって、その時の道具を全て祖母が残していたんです」
「ウチ!」
「そう、コケコッコのお家だな」
道具と仕組みを一通り説明すると、早速手作り孵化機の準備を始める。
ほとんどがセットするだけなので簡単だ。あとは湿度を保つための水と雑巾を置いて、卵の下にタオルを敷く。
「卵に印をつけてね」
「ちるし?」
「卵をクルクルさせないといけないからね」
自動孵化機ではないため、転卵させてくれる機能はない。
一時間に一回動かすのが望ましいが、そんなにはできないため数時間に一回転卵することにした。
その時にわかりやすくするために、印をつける必要がある。
「じゃあ、あとはちゃんと成長するように祈るだけだな」
「だな!」
そんなに嬉しいのか、ドリはずっと卵を眺めていた。すぐに大きくなるわけでもないのに、手作り孵化機に張り付いて寝ようとしない。
「もう遅いから寝るよ」
ドリを抱えるとジタバタし始めた。
「のびのびまだ!」
あのおまじないは卵でも効果があるのだろうか。
そもそもこの卵が無精卵の可能性が高いが、それは追々説明すれば良いだろう。
初めから違うって言うのも可哀想な気もする。
ドリがやるって言うなら、俺も一緒になっておまじないをかける。
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名無しの凡人 最近
久しぶりのあれだぞ!
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孤高の侍 最近
拙者は準備できたぞ!
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鉄壁の聖女 最近
私もいいわよ!
▶︎返信する
ハタケノカカシ 最近
すでに俺はやっている
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犬も歩けば電信柱に当たる 最近
上に同じく
▶︎返信する
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「のびのびー!」
「のびのびー!」
ドリの掛け声に俺達は手を上に伸ばしながら背伸びをした。
「のびのびー!」
隣の部屋からも聖奈の大きな声が聞こえてきた。
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幼女を見守る人 最近
のびのびー!
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パパを見守る人 最近
のっびのび!
▶︎返信する
畑の日記大好きさん 最近
のーびのびー!
▶︎返信する
オサレシェフ 最近
この配信はなんだ?
それにしても懐かしい孵化機だな
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俺は配信終了を押して、ドリと共にベッドの中に入った。
「元気に生まれてくるといいね!」
「ねっ!」
さっきまでが嘘のように、ドリはすぐに眠った。相変わらず子どもって寝つきが良いな。
少し警戒はしていたが、しばらくは聖奈も同じ家にいるため、生配信を続けることにした。
俺がコメントに気づく頃に、あいつに会うことになるとはこの時は思いもしなかった。
「ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。ほら、ドリも」
「ほちちょーらい!」
ドリは両手を振って配信を終えた。
ぜひ、可愛いドリちゃんにたくさんの★をプレゼントしてください!
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