35.配信者、鶏の卵を持ち帰る
俺は探索者ギルドから小嶋養鶏場に向かう時に、聖奈から他のダンジョン周囲がどうなっているのか確認することにした。
「昔は東京が大都市と言われたけど、今はどこが大都市かわかりますか?」
「えーっと、東京じゃないなら大阪とかか?」
「それも間違いではないけど、今はダンジョンがたくさんある県や最高難易度のダンジョンがある県が大都市と言われています」
「そりゃー、大都市迷子ですね」
ダンジョン周囲に都市が出来たら、そこら中で大都市祭りになるだろう。基本的にダンジョンの難易度に合わせて、発展していくらしい。
その中でも一番人が集まるのは富士山がある静岡と山梨らしい。
以前は富士山で争っていたのに、今ではダンジョンをどっちが管理するのか言い争っている。
「ふふふ、森田さんらしい意見ですね」
そんな話をしていると、いつのまにか小嶋養鶏場に着いていた。鶏の鳴き声が今日もたくさん聞こえてくる。
おじさんを探すために養鶏場を覗きに行く。
「こんちゃ!」
ドリは鶏に礼儀正しく挨拶していた。何にでも挨拶できる我が子はしっかりしている。
鶏もコケコケと鳴きながら頭を上下に振っていた。挨拶をしているのがわかっているのだろうか。一匹ずつに挨拶しては、鶏が頭を下げていた。
「あっ、大嶋さーん!」
「小嶋だよ!」
近くにいたおじさんに声をかけた。過去のお笑い番組を見た時にやっていたネタを再現してから、挨拶はこれと決まっている。
「こんなところでどうしたんだ?」
ダンジョン周囲の管理を任されたこと。それに伴いこの辺が発展する可能性があることを伝えた。
「それは良いことだな。直樹くんが思っていたように、この辺は昔からなにもないからね」
おじさんが言うようにこの辺には遊ぶところが何一つない。学校の友達と遊ぶにも自転車に一時間以上乗らないと会えなかった。
あるのは俺の家と畑、それから離れたところにある小嶋養鶏場だ。
まさにポツンと一軒家状態が俺の家状況だ。
それでも毎日おじさんや祖父母、他の近所の方と楽しかった思い出がある。
「ここの良さを残したまま発展させないとダメですね」
現状ダンジョンがある山の所有地は国有地になっており、その周りも無主地だ。今回はその部分を地方自治体や国が公共の目的で利用することになっている。
地図でダンジョン周囲の土地の所有者を見せてもらったが、ほとんどが所有権が不明確な状態だった。そこの土地を国がほとんど買い取って、残りは企業が買い取ることになる。
ダンジョンが出来てから国はまだ報告していない。土地の所有権が誰のものか調べていて時間がかかっているのだろう。
ドリと出会って3ヶ月以上は経っているため、それだけ時間を要したってことだ。
さらに大都市になればある程度、俺のところに企業から話があると説明された。
一部祖父母も知っているかどうかわからない土地もあったため驚いた。まずは祖父母に確認するべきだが二人は知っているのだろうか。
土地だけ合っても管理はできないし、固定資産税でお金がかかってしまう。元々畑を広げるために持っていた土地かもしれないが、まだ元々あった畑も管理できていない。
今のところ畑も半分使っていたら良い方だ。それだけ土地が余っているのが今の現状になっている。
野菜ができるサイクルがかなり早いため、広げる必要性が無くなったということでもある。
一番初めに作ったトマトでも普通であれば種まきから2ヶ月程度はかかる。それがここで作ったトマトだと今では15日前後でできてしまう。
簡単に言えば普通にできる量の4倍できてしまう。
畑を半分使っている段階で、そこら辺の生産者よりも多い種類の野菜を作れている。
そして野菜が全然腐らないため、どちらかといえば収穫した野菜を管理する倉庫の方が今後必要になるだろう。
あとはドリがいなくなった時を想定して畑をやっていくかどうかだが、このまま稼ぐことができたら一生働かなくても済みそうな気もする。
おじさんに確認したら、鶏達に負荷が掛からなければ良いと言われた。
俺の家から小嶋養鶏場までも数kmはあるため、実際にダンジョン周囲が発展しても距離はあるから大丈夫だと言っていた。
むしろ不労所得になるなら土地を売却しても良いと言っていたが、それはダンジョンよりも遠いところのためどうする気なんだろう。
その意図も含めて改めて市長と話す必要がある。
「今頃直樹ちゃんは田舎の良さがわかったってことか?」
おじさんは昔のように鶏を使って突いてくる。この距離感が昔は嫌だったのに、今では楽しく感じている。
「パパ!」
「ドリちゃん、それは返して来た方がいいわよ」
しばらく遊んでいると、ドリは挨拶し終わったのか聖奈と戻って来た。
「もらった!」
ドリの手には鶏の卵が握られていた。鶏に挨拶をしている時にもらったのだろう。
「おぉ、ドリちゃんはコケコッコに好かれたのか!」
「コケコッコ?」
「この時間に卵を貰えるとは、将来は養鶏場の跡取りか? ちょうど息子が――」
確かに産卵するのは午前が多いため、この時間に卵が貰えることは珍しい。そういう意味では本当に鶏に気に入られたのだろう。
「俺の娘はあんなやつにやらないぞ!」
「ははは、直樹の幼馴染なのに酷い扱いだな」
俺の幼馴染はこの田舎では珍しいほど完璧な男だった。勉強もできればスポーツもできる。本当にこのおじさんの子供なのかと思うほどだ。
「ほら、ドリ達も早く帰るからな!」
とりあえず話は伝えたため、俺達はとっとと帰ることにした。
「あー、言うの忘れたけどあいつ戻って来るんだよな」
俺はこの時、幼馴染が帰ってくることを知らなかった。
♢
「これどうしましょうか」
「流石に焼くのも可哀想だよな……」
家に戻ってからドリがそのまま卵を持っていることに気づいた。今その卵をどうするのか家族会議をしている。
ちなみに聖奈も強制参加だ。
「昔自由研究で鶏の卵を孵化させてなかったか?」
「じいちゃんよく覚えているね」
小学生の時に孵化機を自作して鶏の卵を孵化させたことがあった。
その時も幼馴染のあいつが同じことをやって、俺の自由研究と比べられて嫌な思いしか残ってない。
俺のやつより道具も少なく、綺麗にまとめられた自由研究に愕然とした。
「あれならそのまま置いてあるわよ」
「えっ?」
どうやら祖父母は大事に手作り孵化機を残していたらしい。祖母が押し入れに取りに行くと、当時のままと変わらず保存されていた。
小さなプラスチック容器に温度計と湿度計。そして、大きなプラスチック容器には、サーモスタットとヒーターが入っていた。
「本当にそのまま残っているんだね」
「思い出に残していたのよ」
嬉しそうに微笑む祖母の姿を見て、本当に良い祖父母に育てられたんだと改めて実感した。
「サーモスタットもヒーターも大丈夫そうだな」
電源を付けてみると、どうやらそのまま使えそうだ。
あとは温度計と湿度計の電池を取り替えれば、そのまま使えそうだ。
「パパ、パシャパシャは?」
「あー、動画のことか? コケコッコの記録を残したいのか?」
「うん!」
どうやらドリは"畑の日記"と一緒に"鶏の飼育日記"も配信したいらしい。
「ちょうど配信を休んでいたから、良いんじゃないですか?」
「鶏の飼育を見たい人っていますか?」
「あー、ドリちゃんが世話しているところなら?」
結局は畑の日記も畑ではなく、ドリを見に来ている人ばかりだ。きっと鶏の飼育もドリがメインになるのだろう。
「ドリが良いなら早速始めるか?」
「うん!」
ドリの希望で"コケコッコの飼育日記"が開始することが決まった。
「ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。ほら、ドリも」
「ほちちょーらい!」
ドリは両手を振って配信を終えた。
ぜひ、可愛いドリちゃんにたくさんの★をプレゼントしてください!
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