32.聖女、謎の病気になる ※聖奈視点
私は鎧をいつものように装着していく。
「怪我しないように気をつけて帰ってきてくださいね」
「あっ、はい」
ダンジョンの手前までパパさんに案内してもらう。ドリちゃんはダンジョンには近づきたくないらしい。
朝のことがあってから、妙にドキドキしてパパさんの顔を見るのも恥ずかしい。朝食も静かに食べていたから、彼の祖父母を心配させてしまった。
「これお弁当です」
生まれて初めて作ってもらったお弁当につい笑みが溢れてしまう。本当に優しい人達だ。
「ありがとうございます! 嬉しいです!」
視線を上げると彼も笑っていた。
「俺で良いならいつでもお弁当を作りますよ?」
どうやら彼が作ってくれたらしい。
目が合うと胸の奥に潜む何かが溢れ出そうだ。この気持ちはなんだろうか。
知らない間に状態異常の魔法でもかかったのだろうか。
吐き気とは違う何かが口から出そうだ。貴婦人が言っていた砂を吐くとはこれのことだろうか。
「行ってきます」
そんなことを思いながら、ダンジョンの中に足を踏み入れた。
♢
「またミツメウルフか!」
盾でミツメウルフを牽制しながら、近場の魔物から押し潰していく。
私の戦闘スタイルは大きな盾を振り回して、そのまま押し潰して戦う。
なぜ、このスタイルかって?
「ははは、早くかかっておいで?」
私が戦闘狂だからだ。
昔は大剣を持って戦っていた。だが、戦っている時は無我の境地に入ってしまい、周囲が見えなくなってしまう。
近くにいる探索者も巻き込んで、気づいた時には取り返しのつかない状態になっていた。
盾なら大剣より殺傷性が少ないため、まだ落ち着いていられる。
ミツメウルフばかり出てくる一階から地下に潜ると、急に肌がピリピリと痛く感じた。
この感じは明らかに最高難易度と同じだ。急な難易度の変化に辺りを警戒する。
「ここでオーガが出てくるのか」
オーガは鬼のような見た目で、2m以上ある巨体の魔物だ。体が大きいのに素早い動きで戦う特徴がある。
中位ダンジョンだとオーガが階層ボスとして出てくるが、ここのダンジョンは二階層からそんな奴がゴロゴロ出てきた。
「だが、こんな弱いパンチでは私に効かないよ!」
盾でそのまま攻撃を防ぐと壁に勢いよく押し込む。それにしても今日は一段と力が入るきがした。
『くはっ!?』
盾で圧迫されたオーガは体から空気を吐き出す。そんなオーガを何度も盾で押しつぶす。
これがサンドイッチ方式だ。
「ははは! 新たなダンジョンには楽しみがいっぱいだ!」
私はダンジョン探索を忘れて、魔物達を物理的に叩きのめすことに集中した。
♢
ダンジョン探索が落ち着いた頃、地上に戻ると畑にはいつもの生配信風景があった。
だが、今日は動画配信はしていないようだ。確かにスマホから配信のアラームが鳴らなかった。
「あっ! ネーネ!」
遠くから呼んでいるドリちゃんを見て、昂っていた気持ちが落ち着いてくる。
「聖奈さんお疲れ様です」
「あっ、お疲れ様です」
気持ちは落ち着いて来たはずなのに、ドキドキが収まらない。まだ私はダンジョンでの興奮が収まっていないのだろうか。
一体この体は病気になったのか。
「ダンジョンはどうでしたか?」
「あー、最高難易度のダンジョンに匹敵するレベルでしたよ」
私の言葉を聞いて彼は驚いていた。確かに家の近くにダンジョンがあるだけでも恐怖なのに、それが最高難易度だと言われたら驚くだろう。
それもスタンピードしたら、確実にこの地域が消えてなくなるレベルの最高難易度だ。
「あの時ドリをダンジョンに帰さなくてよかった。ひょっとしたら俺も死んでたかもね」
確かに能力がない彼がダンジョンに入ってたら死んでいたかもしれない。ミツメウルフでも普通の人間なら大怪我をする。
この間、噛まれていたのに生命に関わらなかったのは幸運だ。
「もうすぐで作業が終わるので一緒に帰りましょう」
「わかりました」
私はリアルで"畑の日記"を観察することにした。
ああ、一緒に帰ろうって言われたのってどれぐらい振りだろうか。
もう幼い時の記憶は残っていないぐらい前だ。戸惑う気持ちを抑えながら、私は推し達の様子を拝んでいた。
「ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。ほら、ドリも」
「ほちちょーらい!」
ドリは両手を振って配信を終えた。
ぜひ、可愛いドリちゃんにたくさんの★をプレゼントしてください!
他の作品も下のタグから飛べますので、ぜひ読んで頂けると嬉しいです。