31.聖女、初のお泊まりに暴走する ※聖奈視点
私はなぜこんなにドキドキしているのだろうか。いや、推しの家にいるってだけで胸が弾けそうなのは仕方ない。
「あのー、隣で寝てもらうことになってすみません」
「あっ、いえいえ大丈夫です!」
ただ、どうしてこんな状況になったのだろうか。
ドリちゃんの家で短期間の下宿になるのはすごく嬉しかった。毎日推しを間近でみることができるし、なんと言ってもお婆さんのご飯が懐かしい味がして美味しかった。
野菜をふんだんに使った、素材の味を十分に引き出した味だった。魔力も少しずつ回復しているし、どこか力がみなぎっている気がする。
そんな中、部屋に戻ろうとしたらドリちゃんに止められたのだ。
「ネーネいっしょ!」
推しの上目遣いってこんなに衝撃が強いとは思わなかった。悩殺を通り越えて天国が見えた気がする。
あれが世間で言われている"尊死"というものだろうか。
「ならそっちにドリの布団を持っていきますね」
「パパいっしょ!」
ドリちゃんはパパの腕も掴んで離そうとしなかったのだ。
結果、今に至る。
「川の字で寝るのって久々ですね」
「私は初めてです」
私は幼少期から探索者として適性が高かった。
だから、英才教育としてたくさんの習い事をしていた。
武術はもちろん様々な武器の使い方、探索者による稽古が施された。
いつも帰っては親と話すことはなく、静かな部屋で一人でご飯を食べる日々。
きっと愛情がなかったわけではないと思う。将来のために英才教育を受けさせてもらえたのだ。
だが、親との思い出は何一つなかった。
「ドリちゃん寝ちゃいましたね」
「今日も畑で楽しく遊んでいたからね」
ドリちゃんは心地よさそうな顔で寝ていた。推しの寝顔がすぐ隣にあるのに、ドキドキして顔を横に向けることもできない。
ただ、天井を見上げながら時が過ぎるのを待っていた。きっと時間が経てば眠たくなるだろう。
「またドリ布団蹴ってるよ」
パパさんはベッドから起き上がり、ドリちゃんに布団をかけていた。何気ないこの空気感が私の求めていた日常だと感じてしまう。
誰かと一緒に食事をする時間、誰かと一緒の部屋で寝る時間。
昔から私が求めていた、ごく普通の幸せがここにはあった。
「聖奈さん眠れそうにないですか? いつもと寝具が違うと寝づらいですよね」
きっと結婚したらこんな風に生活をするのだろうか。そう考えるとさっきとは違うドキドキが襲ってくる。
「あっ、いえ大丈夫ですよ」
私は少し恥ずかしくなり寝返りを打つ。必死にドキドキした気持ちを落ち着かせる。
「それならよかったです。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
私は小さな声で久しぶりに誰かに"おやすみなさい"と呟いた。
♢
「ネーネ!」
「パパ!」
大きく揺らされて私は目を覚ます。中々寝付けなかったけど、いつの間にか私は寝ていたようだ。
ドリちゃんが私を起こしてくれた。推しに起こされるなんて夢のようだ。
ゆっくり目を開けると、なぜか目の前にはパパさんの顔があった。
「へっ?」
「あっ、おはようございます」
私は気づいたらパパさんに抱きついて寝ていたようだ。パパさんも少し照れた顔で戸惑っている。
「昨日ドリが引っ張って布団に落ちたんですよ」
どうやらドリちゃんがパパを引っ張ったところに、私が抱きついて離さなかったらしい。
彼は起きても身動きが取れず、私が起きるのを待っていた。
「すみません!」
急いで手を離して土下座をする。こんなに迷惑をかけるとは思いもしなかった。
今すぐにでもここから出て行った方が良いだろう。
「いえいえ、今日からダンジョン探索するのに流石に寝不足になったら命に関わりますからね」
収まったと思っていた胸の高鳴りが、再び強く動き出した。こんなに優しい男性はきっといないだろう。
Sランク探求者の女性なんて、見た目が女性でも中身は強く恐ろしいただの化け物だからね。
「ネーネ!」
「パパ!」
ドリちゃんは両手を出してきた。
これはどうしたら良いのだろうか。私が困っていると、彼はドリちゃんの手を握っていた。
「すみません。手を握ってあげてください」
言われた通りにドリちゃんの手を掴むと、満足したのか微笑んでいた。
家の中をドリに引っ張られる私とパパさん。
少しでもこの時間が長く続けば良いなと思った。
「ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。ほら、ドリも」
「ほちちょーらい!」
ドリは両手を振って配信を終えた。
ぜひ、可愛いドリちゃんにたくさんの★をプレゼントしてください!
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