30.配信者、騙される
探索者登録は意外に簡単で、タブレットに住所、氏名、サインだけで終わった。本当は色々と試験があるはずだが、俺は特別対応で何もしなくて良いらしい。
俺とドリがアクセサリーを装着すると、ギルドマスターは何かを唱えた。
何かが変わったわけでもないが、どこかドリが近くにいるように感じる。
魔石から魔力を流すことで、魔力がなくてもずっと使えるらしい。
「それで今日来た本題ですが、できれば畑を一緒にやっているおじいさんにも参加して頂いてもよろしいですか?」
「おっ? ワシか? ワシは構わんぞ」
ソファーでお茶を飲んでゆっくりとしていた祖父が急に呼ばれてびっくりしていた。
「今回ドリちゃんが関わった野菜に微弱な魔力が含まれていることを知っていますよね?」
確か隣にいる聖奈が、独自で調べて教えてもらった情報だ。
「今回大葉がドリちゃんを誘拐した理由はそこにあるんです」
「そんなに魔力を含んだ野菜ってすごいんですか?」
「めちゃくちゃ凄いんです!」
職員の女性は急に立ち上がり熱く野菜について語り出した。
「それで今回は違法薬物である大麻もあったんですが、痛みの緩和治療しながら魔力を与えて病気が――」
「くくく」
「もう、何で笑うんですか!」
そんなに俺達の作った野菜を熱く語ってもらえると生産者として嬉しくなってしまう。
「いや、本当に好きなんだなーって」
「好きって……」
なぜか彼女はトマトみたいに顔を赤く染めて、すぐに椅子に座った。何か悪いことでもしたのだろうか。
「直樹、あれはいかんぞ」
「そこも探索者ギルドが教育しておきますね」
「おお、男前の兄ちゃんが教育してくれるなら直樹も結婚できるな」
「ちょ、じいちゃん!」
祖父母との他愛もない話がどこか嬉しく感じる。それにしても顔がどんどん赤くなって大丈夫だろうか。
「それで話を戻しますが、ぜひここで作った魔力が含まれた野菜を探索者ギルドに卸してくれませんか? むしろギルド以外に売らないようにして頂きたいです」
ギルドの話では、他のところで魔力入りの野菜が売れてしまうと転売や様々な目的で利用される可能性があると言っていた。
それだけ魔力を含む野菜が未知の領域なんだろう。普段何気なく食べているが、今のところ特に問題はない。
「お値段はこれぐらいでどうですか?」
「こんなにですか?」
「実はこれでもスポンサーがいないので、資金が出さないんです。安くてすみません」
提示された金額はこの間上司達が来た時よりも格段に高かった。
トマト一つが数千円レベルだ。
間違いなく高級トマトと同じレベルだろう。それだけではなく、様々な野菜が同じような値段設定になっていた。
「こちらこそよろしくお願いします」
俺はその場で契約することにした。毎月納品ではなく、できたタイミングで問題ないため、こっちとしても全て好条件だ。
「あとは一つお手伝いをして欲しいことがあるんです」
「それはなんですか?」
「ここにいる天守聖奈さんを一緒に住まわせてもらえませんか?」
ん?
住まわせるということは一緒の屋根の下にってことだろうか……。
「なになに、そんなに深く考えなくてもいいだろ」
そんな俺を見て祖父母は笑っていた。絶対この人達は俺をからかって楽しんでいるだろう。
「実は国からこの辺にダンジョンができたと言われて、その調査で彼女を派遣することが決まったんです」
「あっ、多分そのダンジョンの発見者は俺です」
どうやらダンジョンの探索に必要な人を派遣することになったが、住むとこが近くにないのが問題になったらしい。
そこで探索者である俺の家だったら、一般人よりは良いと思ったのだろう。
俺はまんまとギルドマスターにはめられたというわけだろう。
「ワシは構わんぞ!」
「私も賑やかになるのは賛成です」
祖父母もしばらく住むのは問題ないと言っていた。ただ、声を上げたのはもう一人いた。
「私もここに住みます!」
「えっ……?」
予期せぬことでギルドマスターも驚いている。流石に自分の会社の職員が関係ないのに住むと言ったら色々と問題だ。
「あー、君はダメだ。うん、今は引きたまえ」
そう言ってギルドマスターは彼女を引っ張って帰って行った。大葉の時も思ったが、職員を引っ張って帰るのは通常通りなんだろう。
そういえばあの職員の名前をまた聞き忘れてしまった。
「ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。ほら、ドリも」
「ほちちょーらい!」
ドリは両手を振って配信を終えた。
ぜひ、可愛いドリちゃんにたくさんの★をプレゼントしてください!
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