29.配信者、探索者になる
あれから何事もないように日々が過ぎていく。しばらくは配信活動も休憩している。
配信がきっかけでドリが誘拐された可能性が高いからだ。何かあってからでは遅いということに気付かされた。
それに誰かがドリに変なことを教えるからな。
「ハタケ?」
「後で行くよ」
「うん!」
ドリは祖父と共に畑に向かった。今日はこの間会ったギルドマスターが会いに来ることになっている。
何を話すかはわからないが、直接来るということは何かしらあるのだろう。
「直樹、お客さんが来たよ」
「ばあちゃんありがとう」
玄関まで行くと、ギルドマスターの他にいつも担当してくれる職員と聖奈がいた。
玄関で話すには人が多いため、居間に通すことにした。
どこか重苦しい雰囲気が出ているのが気になってしまう。
席に座ると聖奈が隣に座っていた。これからギルド側から話があるのだろう。
「まずは初めにこの間の事件に関して、我々探索者ギルドがご迷惑をお掛けして、本当に申し訳ありませんでした」
いつでもこの人は礼儀正しい人なんだろう。見た目で判断して申し訳ないと言いたいぐらいだ。
ちゃんと菓子折りも持ってきて、謝りに来ている。
「この度、勝手に職員が犯した行動があったのは事実です。個人情報も含めて、改めて依頼者様のプライベートや個人情報は厳守します」
俺の住んでいるところを知っていたのは、大葉が個人情報をギルドから手に入れたからだ。
上司だった阿保は初めて来た時の反応からして、ここに来るまでは俺がここに住んでいることを知らなかったはずだ。
「こちらも動画配信をしていたので、住所はバレていたかもしれないです」
ただ、配信から住んでいるところを突き詰めたかもしれない。直売所で売っている姿も動画で生配信していた。
「あとは助けるためと言って、探索者である聖奈さんにも個人情報を教えてしまいました」
「あっ、それは全然構わないです。むしろあの時までドリがいないことに気づかなかったですし、皆さんには感謝してます」
今回はほぼここにいる聖奈を中心に、視聴者に助けてもらった。そのおかげでまたドリとの生活ができるのだ。
彼女達がいなければ、きっとドリはもう戻ってこなかっただろう。
今思えば俺の浅はかな考えが嫌になってくる。
「そこで提案ですが、ドリちゃんと共に探索者になりませんか?」
今回の事件で俺とドリが探索者ギルドに登録していないということが問題に上がった。
テイマーではない一般人に魔物が懐くことが異例のため、対応を検討していたらしい。
そこでそのペナルティとして、俺を探索者登録するということになった。
探索者になるってことは、俺もダンジョンに行かないといけないってことだろうか。
そもそも俺に戦う力はないし、探索者になるためのスキルが存在していない。
探索者になるには、いくつかの試験に通る必要がある。いわば選ばれた国家公務員みたいな存在だを
知識もないやつが探索者になったら即死してしまう。
「ダンジョンに行ってほしいってわけではなくて、ちゃんと探索者のテイマーである証拠とドリちゃんがテイムされているという証拠を示してもらうだけなので気にしなくて大丈夫です」
単純にギルドが俺とドリを守るための対応らしい。あんな可愛い子なら、見知らぬテイマーに再び誘拐されるかもしれない。
「それと単純にテイムした魔物が何かあった時に、テイマーが知れるように仕組みが出来ているんです」
ギルドマスターが取り出したのは、花のチャームがついたチョーカーとブレスレットだった。
二つとも連動しており、チョーカーを着けている魔物に何かあった時は、ブレスレット保有者に信号がいくようになっているらしい。
結局は首輪を着けて欲しいってことか。
自分の子どもだと思っている子に、首輪を着けろと言われて素直に喜べる人はいないだろう。
「少しドリと相談しても――」
「ただいま!」
どうするか迷っていると、畑に行っていたドリが帰ってきた。いつの間にか時間が経っていたようだ。
「ネーネ!」
ドリは聖奈を指差していた。
「ドリ、まずは挨拶だ!」
「おはにょ!」
祖父に言われてすぐに挨拶をした。
「いやいや、もう昼過ぎだからね」
「じいじ?」
ドリは必死に考えたが、出てこなかったため隣にいる祖父に助けを求めている。そんなドリの姿に祖父も微笑んでいた。きっと頼られて嬉しいのだろう。
「今はこんにちはだな」
「こんちゃは!」
どこか怪しい挨拶だが、ドリらしくて良い。この間の成長には驚いたが、結局進化したのかも謎のままだ。
「うっ……もう死んでもいいですか」
「へっ!?」
一方、ネーネと呼ばれて挨拶されたからか、聖奈はその場で泣き崩れていた。推しに直接名前を呼ばれて挨拶されると、こんな姿になるのだろう。
初めて見た光景に驚きを隠せない。これでも聖奈はSランク探索者だ。
「パパ!」
「なに?」
ドリは俺のところに来て、テーブルの上に乗ったものを指差していた。
「ちょーだい」
「これが欲しいのか?」
自らチョーカーが欲しいとドリは言ってきた。自分のことを魔物と理解している行動なんだろうか。
この間テイムされていた魔物を見て、彼らも意思はあると感じた。
魔物を首輪で縛り付ける。それがルールでも本当に良いことなのかと悩んでしまう。
これを着けたら俺がドリを縛りつけるような気がしていた。
だから知っていながらもチョーカーを着けることはしなかった。
俺自身が家族で娘だと思っているドリを魔物として認めたくなかった。
これを着けたらもう後戻りはできないだろう。
「いっちょ!」
ドリはもう一方のブレスレッドと俺を交互に見ていた。
そんな俺とは反対に同じアクセサリーを着けたかったようだ。
真剣に考えていたのが、どこか馬鹿らしく感じてしまう。
「ギルドマスター、俺達を探索者に登録してください」
俺達に申し訳なさそうにギルドマスターは頭を下げていた。
俺はドリの首にいつも着けているリボンを外す。
「ドリ……ごめんね」
テーブルに置いてあるチョーカーを手に取ると、ドリの首に着けた。
「へへへ、いっちょ!」
満面な笑みを向けるドリの顔を見ると、どこか胸の奥が締め付けられるような気がする。
これがテイマーと魔物の絆なんだろうか。
「ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。ほら、ドリも」
「ほちちょーらい!」
ドリは両手を振って配信を終えた。
ぜひ、可愛いドリちゃんにたくさんの★をプレゼントしてください!
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