28.配信者、ドリの将来が不安になる
しばらく謎のプレイは続いていた。その姿は見ていられるものではなかった。
男はよだれを垂らして、犬のように喜んでいた。隣にいるミツメウルフも見たくないのだろう。
俺がミツメウルフでも、ご主人様のあの姿は見たくない。
お仕置きを終えたドリは俺の方を見ると、ミツメウルフに囲まれていることに気づいた。
蔓を鳴らして近づいてきた。
「パパをいじめたの?」
ミツメウルフは全力で頭を横に振る。振りすぎて頭が飛んでいきそうな勢いだ。
「いじめはメッだよ?」
『ワン!』
どうやらミツメウルフには伝わっているのだろう。すぐに伏せをして俺に頭を下げている。
「パパさんテイマーの才能があったのね」
うん、聖奈。それは勘違いだろう。
どこから見てもドリに怯えているぞ。
ドリが近づくとミツメウルフは尻尾を巻いて、二足歩行で逃げていく。
恐怖で走り方も忘れたのだろう。魔物って本当に謎の生物だ。
「パパ大丈夫?」
前よりかは滑舌が良くなったドリの言葉は聞きやすくなった。
「ああ、ドリ助かったよ」
俺が手を伸ばすとドリは手を優しく握る。全身がぽかぽかすると、体の痛みと傷が少しずつ消えていく。
それと同時にドリは少しずつ小さくなって元の姿に戻った。小学生ぐらいのドリも可愛かったが、やはりいつものドリの方がしっくりくる。
「えっ……回復魔法?」
聖奈は何が起きたのかすぐに気づいたのだろう。俺の元へ来て傷の確認をしてくれた。
「おっ……お前ら人殺しだ!」
いや、別に殺してはいない。
すぐそこに嬉しそうな顔をして、気絶している人がいるぞ。
今まで様子を見ていた阿保が怯えながら、その場から逃げようとしていた。だが、ドリが逃すはずもない。
蔓が阿保の体に巻き付いていた。
「パパにごめんする!」
やはりドリは優しい子だ。常に祖父が悪いことをしたら、すぐに謝ると言い聞かせていたのもあるのだろう。
「なぜ俺が――」
「謝る!」
蔓がミシミシと音を鳴らして、体に食い込んでいる。阿保も痛いのか、必死に歯を食いしばっている。
ちょ、ドリさん?
さっきの男と対応が違いませんか?
心の中ではもっとやれと応援したいが、一応その人もクズだけど人間ですよ。
「ごめんなさい」
心からの謝罪ではないが、心のモヤモヤは晴れた気がした。
それよりもドリがこれをきっかけに変な趣味に走らなければ良い。
配信も切ったから、変なやつらも寄ってこないだろう。
「ドリありがとな」
「うん!」
ドリが俺の元へ近づき抱きついてきた。いつになってもドリは甘えん坊だな。
「あわわわ、私も仲間に」
聖奈の姿が見えないと思ったら、俺の後ろでドリを見ていた。もはやこの人は何がしたいのだろうか。
ドリが安全なのを伝えるために、祖父母に電話をかけることにした。
「直樹か!」
電話に出たのは祖父だった。しかも、コールが鳴った瞬間に繋がったということは、電話の前で待っていたのだろう。
祖父は電話に出るような人ではない。それだけ今回のことは心配していた。
「ドリは無事だよ」
「直樹は怪我していないか? 転んでないか?」
祖父はいつまでも俺のことを子供だと思っているのだろう。昔から変わらない祖父に少しずつ頭が整理されていく。
今回は一人以外は傷つかなかったけど、何か大事なものを失った人はたくさんいるだろう。
いや、あいつだけは色々得たような嬉しそうな顔をしていた。
その後も俺達はギルドマスターが来るのを待っていた。
♢
「待たせてすまない。森田直樹さんとドリアードのドリちゃんで合っているよね」
「あなたは――」
「私はイーナカ探索者ギルドのギルドマスターをしている東堂海斗だ」
駆けつけた男は初めて探索者ギルドに行った時にぶつかった鎧を着た男だった。
「探索者じゃなかったんですか?」
「探索者とギルドマスターを兼業しているってところだね」
見た目も若いのに両立しているところを見ると、仕事ができる人のようだ。
「詳しい話は聖奈さんから聞いています」
「ドリはどうなりますか?」
今回ドリは人を傷つけたことになる。それもテイムされていない魔物がやったことに。
「特に問題はないでしょう。大葉叶雄は名前の通りちょっとあれなんでね。うん、ただそれだけのことだ」
ちゃんと説明は聞いてないものの、名前を聞いただけで納得ができた。
大葉叶雄――。
おおばかな雄――。
うん、名前の通りだ。
「むしろ、私達のような市民を守る一員である職員が一般の方を傷つけて申し訳ありません」
彼は頭を下げると大葉の元へ向かった。ただの社交的で明るい人だと思ったが、中身までしっかりしていた。
ドリに処分がなければ、俺としては問題ない。
「おい、あれを止めなくていいのか?」
「あれはギルドマスターの通常運行です」
近くにいたギルド職員に声をかけるとまさかの反応が返ってきた。
しっかりしているのは見た目だけだった。
大葉の足を掴んでそのまま引きずってこっちにきたのだ。
あんな教育をしているから、ギルド職員がドMになるのだろう。
いや、ドMだからあの人の元で働いていたのかもしれない。
「ん? どうかしましたか?」
ピクピクする大葉を引きずるギルドマスターに声をかけられた。
「いえ、何でもないですよ」
見た目と態度でその人を判断したらいけないと勉強になった。
「あなたも警察署に来てもらいますからね」
「俺は関係――」
「嫌ならあなたも引きずりますよ」
「はい」
阿保は渋々ギルドマスターの後ろをついて倉庫を後にした。
これでドリの誘拐事件は無事に幕を閉じた。
後に探索者ギルドからは阿保は住居侵入罪および窃盗という扱いになったと報告を受けた。
人間とは違う魔物のドリは身代金目的の誘拐や強制留置にはならないらしい。
魔物と人間との違いを改めて感じることとなった。
それにしても俺はドリが不誠実な子に成長しないか心配になる。
"お尻ペンペン"を教えたやつをみつけて説教するつもりだ。
ここで、第一章は終わりです。
しっかりざまぁを回収して、ここからほのぼのスローライフの開幕です。
うん、今までスローライフしていなかったのかな?
「じゃあ、ドリ視聴者に一言は? 高評価と」
「れびーおねしゃす!」
「以上"畑の日記"チャンネルからでした!」
ドリは大きく手を振っていた。
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たくさん褒めちぎってもらえるとよりやる気が出ますᕦ(ò_óˇ)ᕤ笑
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