27.配信者、命をかけて守る
俺はミツメウルフに嫌われている。毎回襲われるのはこいつらばかりだ。
「くっ!」
「パパ!?」
ドリが襲われないように、胸に引き寄せて庇ったら背中を噛まれたようだ。
それにしてもなぜダンジョンにいるミツメウルフに襲われないといけないのだろうか。そもそも倉庫にミツメウルフがいる理由がわからない。
「おいおい、俺のドリアードを持っていかれると困るんだよ」
そこにはさっき聖奈に飛ばされた探索者ギルドの職員がいた。彼の周りにはたくさんのミツメウルフが彼を守っている。
全てのミツメウルフの首にはテイムしている証の首輪が付いていた。
ドリが逆らえなかったのはあいつがテイマーだったからだろうか。よく見るとリボンに隠れているが、ドリの首元には見たこともないチョーカーが付いていた。
「ドリアードこっちにおいで」
「ヤッ!」
ドリは拒否をするが首元から何か感じているのだろう。泣きそうな顔で必死に抵抗している。
無理やり命令させるのがテイマーという職業なのか。探索者ではない俺にはわからないが、嫌がっているものに命令させるのは奴隷と変わらない。
「おい、ギルド職員として恥ずかしくないのか! 抵抗している魔物をテイムするのは、テイマーとしてあるまじき行為だぞ!」
どうやら一般的な探索者の考えも俺と変わらないようだ。
聖奈の話からするとテイマーの力を使って、ドリアードをテイムしたということになる。チョーカーは仲良くなったテイムの証ではあり、拘束力はそこまで強くない。
拘束力を高めているのは、ドリが着けているオリジナルのチョーカーが原因かもしれない。
俺は必死にチョーカーを外そうと引っ張ってみる。だが、全く外れる気配がしない。むしろ俺の手が焼けるように痛いだけだ。
「パパ……おてて」
ドリは優しく俺の手を握って首を横に振る。きっと手を離してと言いたいのだろう。
少しずつ俺の手は火傷していく。それよりもドリの方が苦しいだろう。
やりたくもない仕事を毎日寝ずにやっていた社畜時代と変わらないことを、幼い少女にやらされていたのだ。
手の痛みよりドリが苦しむ姿の方が、俺は見てはいられなかった。大事な家族が目の前で、奴隷のように扱われているのだ。
「大丈夫!」
安心させるために微笑む。
俺は必死にチョーカーを引っ張る。首輪ではなくチェーンのようなものなら手でも切れるはずだ。実際に少し緩んでいる気がした。
「おい、お前らやれ!」
魔物達が俺に向かって走ってきた。
「ここは私が守る」
聖奈はそんな魔物達を遠ざけるように気絶させていく。テイムされた魔物だからか、殺すわけにはいかないのだろう。
ただ、その判断が間違いだった。
隙間を通り抜けるようにミツメウルフが俺に近づいてきた。
それでも俺はチョーカーを引っ張るのをやめない。あと少しで切れそうなのだ。
「うああああああ!」
俺が勢いよくチョーカーを引っ張ると金具が勢いよく飛んでいく。
でも、もう遅かった。
ミツメウルフは俺のお尻を噛んでいた。
「パパをいじめるな!!」
突然ドリが叫んだと思ったら、横から蔓のようなものが飛び出してきた。
それに気づいたミツメウルフは距離を取る。
周囲の畑から蔓が次々と伸びていく。
「ドリ……?」
「パパおねんね!」
俺はなぜかその場でドリに寝ているようにと怒られた。その場で横になるが、ドリが少し大きくなったような気がする。
「ドリちゃん進化したの?」
その姿を見て聖奈はどこか嬉しそうだ。
――"進化"
それは魔物にとって次のステージに行くことだ。敵を倒した時に手に入る経験値やあることがきっかけで進化すると言われている。
ドリの進化となるきっかけはなんだろうか。
ただ、俺は今の状況をしっかり動画に残しておきたかった。
「ははは、これじゃあ"畑の日記"じゃなくて"ドリの成長日記"だな」
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名無しの凡人 最近
あれ? 画面が再びついた?
うぇ、ドリちゃんが進化してる!
ドリちゃんいけえええええ!
▶︎返信する
幼女を見守る人 最近
大きくなってもドリちゃん可愛いよ!
▶︎返信する
パパを見守る人 最近
私達の分までパパを守ってあげて!
▶︎返信する
オホモダチ 最近
ちょっと、パパ!
私達乙女軍団が救助に向かうわ!
その後はホテルにでも。
▶︎返信する
未婚の母 最近
↑良いところを邪魔をするな!
▶︎返信する
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「ははは、今日もコメント欄が荒れてますね」
ついつい流れてくるコメントに笑ってしまう。
同じ魔物だからかドリアードをミツメウルフ達は警戒している。
ドリは男に近づいていく。そんなドリの姿を聖奈も見守っていた。
「おい、俺をどうする気だ」
「メッ! パパに謝る!」
どうやらドリは俺に謝らせたいのだろう。どこか胸の奥がぽかぽかしてくる。話し方も前の舌足らずな感じがなくなっていた。
でも、彼はそんな気持ちにならないのだろう。
「俺に指図するな!」
ポケットから勢いよく取り出したのは首輪だった。男はドリの首元に手を伸ばす。
ドリに着けようとしたが、それをあっさりと避けた。
「悪い子は――」
ドリの指示に合わせて、蔓は男に巻き付いた。
「お尻ペンペンだよ!」
蔓は男を四つん這いにして、鞭のようにしならせてお尻を叩いていく。
「くっ!」
「メッ! 悪い子はお尻ペンペンなの!」
思ったよりも鈍い音に、俺はついついお尻を触ってしまう。それはミツメウルフも同じなんだろう。
いつのまにか俺の周りに集まってきた。お尻を地面にスリスリしている。
「おい、お前らどうにかしてくれ!」
『クゥーン』
実は俺に噛みついたミツメウルフ達は、手加減していたのかかなり痛い甘噛み程度だった。
そんな彼らではドリを止められないのだろう。
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名無しの凡人 最近
なんかあいつ気持ちよさそうだぞ……?
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貴腐人様 最近
あれは落ちたね。
ドリちゃんさすがだわ。
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オホモダチ 最近
乙女一丁上がりましたー!
みんな新しい仲間を歓迎しなさい!
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未婚の母 最近
ああ、あの人ってただのドMだったのね。
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畑の日記大好きさん 最近
ドリちゃんには悪影響です!
即刻始末してください!
▶︎返信する
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コメントがいつもよりも早く更新されていく。俺はその場で生配信を止めた。
これが彼の受ける罰なんだろうか。
どこからどう見ても、幼女にお尻を打たれて楽しんでいるプレイにしか見えない。
そして"お尻ペンペン"を教えたやつは誰だ。
「お前らも見たくないよな?」
『クゥーン』
ミツメウルフは全ての瞳を閉じて、俺の後ろに隠れていた。
今だけはメナシウルフだな。
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