22.配信者、夕食配信を始める
今日はたくさんのご馳走を用意して、配信パーティーという名の夕食会を企画している。
「いただきます!」
「いたたきましゅ!」
実際はただの夕食の風景を配信しているだけだ。
コメントには同じように"いただきます"や"ドリちゃん可愛い"といったコメントが溢れている。
流石にこんな放送では人が集まらないと思ったが、今日もたくさん視聴者が集まっていた。
なんでも一人暮らしの独身が一緒に食事をする感覚が味わえると好評らしい。
ほとんどドリの食事風景を見にきたのだろう。
そんな俺も今日はお祝いに梅酒を用意している。祖母が毎年作っていた梅酒がまだ残っていた。
祖父が認知症になってからは、誰も飲まないため余っていたらしい。
俺も実家に戻ってきてからお酒を全く飲んでいなかった。
祖父の介護もあるし、毎日が忙しくて飲む余裕もない。一緒にお風呂に入るのは俺の仕事でもあった。
「久々におじいさんも飲んでみたら?」
「ワシか?」
「最近ずっと元気だったからこれぐらいいいじゃない?」
ドリが来てからソワソワすることもなくなり、夜もぐっすり寝ていると祖母は言っていた。
前は二時間おきにトイレに行って、夜中はオムツを履いても脱いでしまう。防水シーツを敷いたところで、朝には外されてどこかに無くなるため、シーツをよく濡らしていたらしい。
毎日介護をしていた祖母は寝不足だった。一番大変だったトイレの問題が解決すれば、ある程度は寝る余裕ができたらしい。
俺は祖父のコップに梅酒を注ぐ。琥珀色に輝く梅酒に、元々お酒が好きな祖父はどこか嬉しそうだ。
「じいちゃん乾杯!」
「おう!」
グラスに入った梅酒が波のように揺れる。
「パパ! かんぺい!」
ドリも一緒に参加したいのだろう。麦茶を片手にコップを軽く突き出した。
「乾杯!」
満足気なドリは麦茶を一気飲みしていた。ドリが大人になったら酒飲みになりそうで、少し心配になってしまう。
祖父もそれをみて、一気飲みしようとしていたため急いで止めた。
それでもこうやって祖父と飲めることが嬉しい。
ドリが何かを思い出したのか急にどこかへ行った。
しばらくすると、その手にはこの間買った魔石が握られていた。
あれからどうやって魔石を与えれば良いのかわからなかったため、そのままドリに渡したら彼女は大事に宝箱に入れていた。
「それをどうするの?」
俺はドリに確認すると口に咥え出した。
「おいおい、それは食べ物じゃないぞ!」
慌てて吐き出そうとしたが、ドリはそのままガリガリと魔石を噛み砕いている。
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名無しの凡人 最近
魔石に似た飴かな?
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孤高の侍 最近
拙者も今度食べてみよう
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貴腐人様 最近
あれ? 私の常識がおかしいのかしら?
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鉄壁の聖女 最近
私の魔石を食べさせたかったな。
初体験は私がよかったのに。
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幼女を見守る人 最近
上に同意
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オホモダチ 最近
悪いことするとお尻ペンペンされるよ?
まぁ、俺にはご褒美だけどな
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未婚の母 最近
ドリちゃんに変なことを教えない!
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視聴者も突然の行為に驚くしかなかった。この間触った時に思ったが、魔石はただ色がついた石にしか見えなかった。
それを噛んで食べる歯の力がドリにはあるのだろう。
喧嘩しても噛まれないように気をつけないといけないな。
「大丈夫か?」
「おいちいよ?」
どうやら魔石は美味しいらしい。お腹を壊す様子もなく、ドリはケロッとしていた。魔石の味は甘いと言っていた。
この配信を見た人達は、家にある魔石を食べてみたが、口に入れた瞬間に吐き出したくなるような味がしたらしい。
これが魔物と人間の違いだろう。
「じいちゃん寝ちゃったね」
「みんなで頑張ったし、お酒を飲んだから仕方ないね」
食事を終えた時には祖父とドリは疲れて、食卓テーブルに顔を伏せて寝ていた。
祖父とドリをベッドに寝かすと、俺はそのまま今後について生配信しながら話すことにした。
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