20.アホ、大きな野望を抱く ※阿保視点
「おい、あれはどういうことだ」
俺は探索者ギルドの男に問い詰める。そもそもこの話は部下とこの探索者ギルドに勤める男が持ってきた話だ。
「阿保さん落ち着いてください」
「なぜ、俺があそこまで糞森田のところに言われないかんのだ!」
まさか俺の奴隷があそこで働いているとは思いもしなかった。使えるやつだと思ったが、俺の元から去ったら、ただの使えないやつになっていた。
「あそこの野菜が手に入るだけで億万長者ですよ」
「それはどういうことだ?」
俺はなぜこの男があの野菜に執着しているのか知らない。
遠目で見た感じもただの畑だし、トマトも普通だった。
個人で頼めば良いものをわざわざ卸売業者の俺達に話を持ちかけてきたのは理由があるのだろう。しかも、会社ではなく個人に直接だ。
いくら高級トマトでも、あそこまで金を払う価値があるのだろうか。
あの奴隷が作ったトマトだぞ?
どうせ中はぐちゃぐちゃなトマトだろう。
「魔力を含む野菜があったらどうしますか?」
魔力ってダンジョンの存在が明るみになってから聞くようになったというやつだろうか。昔から聞いていた言葉ではあるが、探索者ではない俺にはずっと無縁だと思っていた。
俺も小さい頃は探索者を夢見ていた。ただ、俺には才能がなかったからな。
探索者になるには特別な力が必要だと言われている。適性検査を受けて、才能がある人しか探索者になれないエリート職だ。
そもそも生まれた時になれるかどうか決まっている職業がこの世にあることがおかしい。
「そんなに珍しいことなのか?」
「魔力がある食べ物が発見されたことは数例あります。ただ、その中で野菜はないんです」
野菜は見つかっていないだけで、他の食べ物に関しては見つかっているのだろう。
ただ、魔力があるだけでそこまで必死になることなのか?
「魔力があれば人生の幅が広がるんですよ。冒険者は強くなるし、難病が治るかもしれないって言われたら――」
ああ、それだけ聞いたら一瞬にして金になることがわかった。しかも、あの馬鹿なやつなら野菜の価値に気づいていないはずだ。
「ふん、それを早く言えば俺が初めから動いたのにな」
「流石に急に部長である阿保さんに話は持っていけないですよ」
「ははは、確かにそうだな」
この話にはお金の匂いがプンプンしている。ひょっとしたらこれを機に自分の会社を設立することもできるかもしれない。
株式会社阿保とか夢が広がる。
「ああ、そういえばあの子どもを見ましたか?」
「子ども?」
「はい! あの畑にいた三つ編みをした幼女です」
確かに変わった髪色をした少女がいたのは覚えている。顔もきっと大人になったら、美人になると思ったぐらいだ。
「彼女、ドリアードと言う魔物なんです」
「魔物!?」
ダンジョンの中にいると言われている魔物だろうか。最近だとダンジョン配信という動画配信で、見かけることが増えて、魔物も一般的になりつつある。
俺はテレビ派だから動画配信は見たことがないから、言葉でしか聞いたことはない。
ただ、ああいう人型の魔物も存在しているのだろう。
「ドリアードには植物を操る能力があるんです」
「植物を操る?」
「はい。きっとあそこで取れるトマトは彼女の力が関わっていると私は思っています」
魔物を手懐けられることにも驚いたが、そんな能力がこの世に存在していることにも驚きだ。確かにそんな奴らと戦う力がないと、探索者にはなれないだろう。
それでそこまで話して何か意味があるのだろうか。
「ふふふ、まだ気づいてないですね。実はあの魔物、探索者ギルドに登録されていないんですよ。魔物には首に首輪を着けないといけない決まりになっているんですよ」
確かにあの少女には首輪が着いていなかった。この男がたまに連れている変わった犬達も首輪を着けている。
あいつらも魔物って言っていた。
「ってことは?」
「あのドリアードは誰のものでもないんです」
人間ではない魔物を誘拐しても特に法律上は問題はないらしい。それに探索者ギルドに登録していない魔物なら尚更だ。
基本的に魔物をテイムしたら、探索者ギルドに登録する。それが決まりなのをあの馬鹿は知らないのだろう。
「君も中々の悪だな」
目の前にいる男はドリアードをテイムするつもりなんだろう。こいつを俺の奴隷にして操れば、わざわざ生産者に頭を下げなくても済む。
これで俺は社長になって金持ちになるだろう。
考えるだけでニヤニヤが止まらない。
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