17.配信者、商売を始める
「他にも参加している人達がいるね」
「ここは田舎だからその辺の仕組みが楽なのよ」
地元にある直売所は、事前に連絡しておけばいつでも参加可能になっている。
ただ、店内では売ることはできずに店外で直売りする形だ。
普通であれば出荷契約をして生産者会員になったり、入会費や年会費がかかる。また、販売手数料もかかるため中々一般の人が参加しにくい。
その状態だと商品が集まらないっていう懸念から、お試しで店外直売所が始まった。
生産者が少ないとお店の中の陳列に隙間ができてしまうため、登録させるための手段なんだろう。
持ってきた花達を大きな花瓶に入れて展示をする。その隣には祖母が用意したアレンジブーケが置いてある。
「じゃあ、スマホをセットするよ」
今回は初の直売所での販売を生配信するつもりだ。少しでも宣伝になるのなら、せっかく視聴者が増えた動画配信をしない手はない。
これで売れなかったらドリも悲しいだろう。
「いらっしゃいませ! お花はいかがですか?」
通っていく人に声をかけていくが、中々花に興味を示す人はいない。チラッと見ることもないのだ。
「やっぱりお花は自分で育てているところが多いからね」
田舎では畑はなくても、庭や花壇を持っている家は多い。余った土地の有効活用はそれぐらいしかないのだろう。
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名無しの凡人 最近
誰か買ってあげてー!
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幼女を見守る人 最近
ドリちゃん頑張って!
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貴腐人様 最近
ここってどこの直売店かしら?
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鉄壁の聖女 最近
ドリちゃんの花束を全部買ってもいいですか?
今すぐにその直売所を探しに行きます!
それにしても今日のドリちゃん、麦わら帽子姿が最高に可愛い!
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犬も歩けば電信柱に当たる 最近
↑聖女の力を見せる時だ!
それにしてもここはどこの直売所だ?
流石に住んでいるところがバレるか。
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パパを見守る人 最近
今日もパパさん頑張っていますね
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「すみません、お姉さんお花はいりませんか?」
「あら、どこから見ても私はおばさんよ!」
どうやら大袈裟に呼び込みしてはいけないようだ。とりあえずお姉さんと呼べば良いと、昔から習っているはずだが……。
「よかったらお花はいりませんか?」
「いりましぇんきゃ?」
「もう! 可愛いから買っちゃうわ!」
俺とドリが必死にお願いすると、女性は小さな花束を一つ購入してくれた。その場で祖母が小さくまとめて、持ち運びしやすいサイズで用意した。
「ありがとうございます!」
「ありあと!」
ドリと一緒に渡すと少し女性は照れていた。初めて売れた花束に俺達はお互いの顔を見る。
「へへへ!」
「にひひ!」
初めて自分達が作ったものが売れたことに、ついつい笑みが溢れる。
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貴腐人様 最近
パパさんの笑顔恐るべし!
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鉄壁の聖女 最近
ドリちゃん……あなたは女神様ですか!
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幼女を見守る人 最近
即死です
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パパを見守る人 最近
即死です
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オホモダチ 最近
これはオネエ仲間召喚案件よ!
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今の俺達は花束を売るしかない。まだまだたくさん余っている。
「お花はどうですか? お家に飾ってみてください」
「奥様のプレゼントにどうですか?」
直接声をかけていくと、少しずつ人が集まってきた。
「曾孫さん可愛いわね」
隣にいるドリの可愛さに老人達はメロメロになっている。祖父がドリを自慢するぐらいだ。
少しは売れ残ると思ったが、気づいた時にはお花を無事完売することができた。
「皆さん無事に売ることができました!」
「できましゅた!」
俺達はスマホの前で挨拶をする。そこでは一緒にお花がたくさん入っていた花瓶も見せる。もう中には水しか入っていない。
初めての直売所にしては良い結果だろう。今度は野菜の包装やパッケージをデザインして売ってみるのもいいな。
また、視聴者に得意な人がいないか相談してみよう。
俺達の畑の再建は視聴者あっての動画配信だ。
「では、今日の"畑の日記"の配信を終わります」
「おわりまふ!」
別れの挨拶をして動画配信を終えた。
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