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157.配信者、お別れのパーティー

「ご飯の準備ができたわよー!」


 どうやらコロッケが揚げ終わったようだ。


「パパー! みちぇ!」


 少し形の悪いコロッケを山のように積んだお皿をドリは満足気に運んでいた。


 少しスキップをして、飛んでるように見えるが大丈夫だろうか。


「足元に気をつけ――」

「あっ!?」


 ドリはあまりの嬉しさに段差に足を引っかけた。


 持っていた皿とコロッケが飛んでいく。


「私の出番ね」


 突然声が聞こえると目の前に何かが現れる。


 宙に舞っているコロッケが次々と皿に載っていく。


 まるで雑技団を見ているような気分だ。


「さすがSランク探索者ね」


 コロッケをキャッチしたのは、どこかに走って消えた聖奈だった。


 ちょうど良いタイミングで帰ってきたようだ。


 しかも、何事もなかったかのようにコロッケが山積みになっている。


「あなた、今までどこに行っていたのよ?」

「弱い自分に負けるわけにはいかない。煩悩を断つため、ダンジョンで魔物を討ち続けてきたの」


 さすがSランクの探索者は心も鍛えているようだ。


 ただ、あのタイミングで行ったのには理由があるのだろうか。


「どうせ可愛いドリちゃんを見て我慢できなかったのね」

「くっ……私の心がまだ弱いせいよ!」


 再び聖奈は胸を抑えて苦しみ出した。


 病院に通っていると言っていたが、やはりどこか悪いのだろう。


「ドリ、ちゃんと聖奈さんにお礼を言うんだよ」

「ネーネ! ありあと!」


 ドリはそのまま聖奈に抱きつくと、見上げてお礼を伝えていた。


 コロッケが落ちていたら、今日のパーティーのメインもなくなってしまう。


「くっ……これは神からのご褒美か。もうこの世でやり残したことはない」


 そのままふわっと倒れそうになる聖奈をすぐに支える。


 コロッケが載った皿をドリが持っているから問題はないだろう。


「聖奈さん、大丈夫ですか?」

「だいじょぶ?」


 俺とドリが顔を覗き込むと、段々と顔が赤く染まっていく。


「ああああ……」


「パパさん、ドリちゃん! そのまま聖奈を掴んでて! また走りだすかもしれないわ!」


 五味騒動が最近まであったのに、今度は聖奈が逃げ出してしまうようだ。


 聖奈はいつも急にいなくなる。


 これからパーティーを始めるのに、またいなくなったらいつ帰ってくるかわからない。


 俺とドリは貴婦人に言われた通りに抱きつく。


「うっ……」


 ただ、聖奈は逃げる様子もなくその場で力尽きていた。


 無事に捕獲?できたようだ。


「ポテト、コロッケを頼む」

『エー! ソイツジャガイモジャナイ!』

『ゴハンヌキダヨ?』

『エッ!?』


 嫌がるポテトを横目にチップスが手伝ってくれるようだ。


 ドリからコロッケを受け取ると、嬉しそうにチップスはテーブルまで運んでいく。


「足元気をつけてね」

『ウン!』


 尻尾をブンブン振りながら走るチップスはポテトと違い素直な良い子だな。


「じゃあ、聖奈さんを運ぶか」


「ふふふ、これぐらいご褒美がないとね。私は違うご褒美が欲しいわ」


 貴婦人からチラチラと視線を送ってくるが、今はそれどころではない。


 俺は聖奈を抱えて運ぶ。


 聖奈はさっきから茹でたタコのように真っ赤な顔をしている。


 ほぼ俺が抱きかかえている形だが、ドリも手伝いたいのか足を持っている。


『シカタナイナ……』


 手伝わないとご飯がないと思ったのだろう。


 ポテトは聖奈の腕を持ちだした。


 気づいた頃には聖奈が漁獲したマグロのような状態になっていた。


 顔が赤いのも恥ずかしいからだろう。


「下りますか?」

「このままでお願いします!」


 下りるか聞いてみたが、そのまま運ばれたいようだ。


 そんな聖奈を見て、みんなはクスクスと笑っていた。


「お前ら遊んでないで、早くこっちに来なさい」


 祖父に言われて俺達は急いで外に出る。


 すでにテーブルの上にはいくつも料理が並んでいた。


 こんなに大人数で食べるのもしばらくはないのだろう。


 それを思うと少し寂しくなる。


「じゃあ、直樹が乾杯の音頭を取ってくれ」


 急に言われても何も話すことはない。


 ただ、感謝の気持ちを伝えられたら良いかな。


 ドリの遊び相手だけではなく、振り返るとどこか俺も助けられていた部分もあったからな。


 助けられたこと……たぶんあったはず。


 貴婦人は毒を吐いてばかりだったし、侍はどこにいたのかわからず……あっ、凡人が犬小屋を作ってくれた。


 今回のパーティーはそれも含んでいるからな。


 犬小屋とはほど遠いけど気にしたらダメだ。


 個性は強いけど、それもみんなの良さだろう。


「良い人達にたくさん巡り会えてよかったです。こんな俺を支えてくれて……」


「おい、直樹! また泣いてるのか!?」


「泣いてねーよ!」


 俺の脇腹を春樹が突いてくる。


 目から溢れてくる涙をそっと拭いて一人ずつ顔を見る。


「ははは、やっぱりパパさん達は変わらないな」

「拙者も感動して泣いているでござる。いつもより存在感強くなって――」

「お前はいつもと変わらんぞ?」

「なっ……」


「ギュフフフフ、これこそ冥土の土産ってやつかしら」

「百合、バケツの準備はできているかしら!」

「もちろん後ろにたくさん置いてあるよ」


 みんなの笑顔を見ると、涙もどこかに忘れてしまう。


 やっぱり笑顔で過ごしたいからね。


「ありがとうござい――」

「あーん。あたしを忘れてないかしらー」


 遠くの方から先生の声が聞こえてきた。


 そういえば、先生もパーティーに来る予定だった。


 すぐに飲み物を渡して、気を入れ直す。


「乾――」

「きゃんぺーい!」


 ドリは我慢できなかったのだろう。


 大きな声で挨拶をするドリがそこにはいた。

 今まで応援ありがとうございます。

 この話はここで完結……ではありません!

 ひとまず区切りをつけたくてこの形にしました。

 

 コロナEXにて12/26に連載開始します。

 その他のサイトは2〜4週間後に連載されるらしいです。

 漫画家先生はじゃがいもパン先生です。

 すっばらしい表情の変化と世界観に自分が原作を書いたのを忘れるほどです!

 ぜひ、お楽しみ・:*+.\(( °ω° ))/.:+


 現在書籍化準備中のため、しばらくはこちらをお楽しみください。


♦︎書籍化準備作品

超リアルなVRMMOのNPCに転生して年中無休働いていたら、社畜NPCと呼ばれていました

https://ncode.syosetu.com/n1649iq/

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