156.配信者、コロッケをつくる
茹でたじゃがいもを潰したら、あとはにんじんやピーマンなど我が家で作った野菜を細かく切っていく。
「この量をみじん切りするのか……」
探索者も含めると大人の人数も多いため、その分の量を作る必要がある。
みじん切りをするだけでも、中々大変なのが作業してなくても目に見えてわかる。
「フードプロセッサーを使うなら手動の方が良いよね」
「ああ、助かる」
桜は自宅から何かを取りに行っていたようだ。
「フードプロセッサーってあの便利なやつかしら?」
祖母は桜の持ってきたフードプロセッサーに興味津々のようだ。
あまり調理器具は機械に頼っていないから、新鮮に見えるのだろう。
「普通のフードプロセッサーだとペースト状になるから、手動式のやつを持ってきたよ」
野菜をみじん切りにする際に、フードプロセッサーだとペースト状になるかもしれない。
ペースト状だと、野菜の細胞が破壊されることで水分と風味が一気に引き出されるらしい。
さらにじゃがいもと混ざり合うため、全体に行き渡り野菜感が強く残る。
難しい料理のことは専門家に任せれば良いだろう。
「これを引っ張るのかしら?」
祖母はハンドル部分を持ち、勢いよく引っ張る。
――ブンブンブンブーン!
中の刃が回転して、野菜を小さく切り刻んでいく。
その姿に祖母は驚いていた。
「最近は便利なのね。私と同じぐらい速いわ」
「普通はフードプロセッサーの方が速いんだけどな……」
我が家にはフードプロセッサーがいらないほど、祖母の作業が速いからね。
きっと道具を使うのは子ども達が手伝う時に向いているのだろう。
じゃがいも潰しは俺と百合でやったが、ここはドリ達の出番だろう。
「ドリ――」
「やりゅ!」
扉からジーッと覗いていたドリが名前を呼んだ瞬間に走ってきた。
きっと出番を待っていたのだろう。
野菜を取り出すときは、刃を直接触る恐れがあるため、そこだけは大人が手伝う。
その他はほとんどドリ達にやってもらうことにした。
「野菜をこの中に入れて蓋を閉める」
「しめりゅ!」
「あとはハンドルを引っ張ると――」
「おおおおおお!」
『スゲェー!』
一度やり方を見せれば簡単にできるはずだ。
「回しすぎはダメだぞ!」
「うん!」
『ウン!』
ドリとポテトから元気な返事が聞こえてくる。
「子どもは元気が一番だな」
そんなドリとポテトを祖父は嬉しそうに見ていた。
野菜を入れると、元気いっぱいに引っ張っていく。
「ブンブンブン!」
『ハチガトブ!』
童謡〝ぶんぶんぶん〟を口ずさみながら、ハンドルを引っ張っていく。
「ブンブンブン!」
――パカッ!
『フタガトブ!?』
ただ、相変わらずドリの力が強いのか、蓋が外れて野菜が飛んでいく。
転がっていく野菜を寂しそうな顔でドリは見ていた。
「おちちゃった……」
せっかく作った野菜が食べられないのは悲しいからな。
それを見ていたポテトは急いで野菜をかき集める。
『ダイジョウブ!』
ポテトは野菜を拾い、そのままフードプロセッサーに戻そうとしていた。
『メッ!』
すぐにチップスがポテトを止めて、水で洗ってきた。
「さすがにチップスが綺麗に掃除していても、俺が寝転んでいたところだから捨てようか」
落ちたところはさっきまでチップスに転がされていたところだ。
さすがに髪の毛とかは付いていなくても、衛生的には良くない気がする。
それに野菜はいくらでもあるからな。
『ナオキガワルイ』
『メッ!』
相変わらずチップスはポテトには厳しいようだ。
「ないない……」
「落としたのは汚いからな」
落としてしまった野菜はゴミ箱に捨てて、もう一度やり直しだ。
「今度は一緒にやろうか」
それにポテトの言う通り、ドリに全てを任せていたのが悪い。
再び野菜を入れて、俺はドリの手を握りハンドルを一緒に引っ張る。
クルクルと回る刃に子犬達も興味津々に見ている。
「ブンブンブン!」
『フタガ――』
「飛ばない!」
今度はしっかり俺が蓋を押さえているから問題ない。
ただ、相変わらずドリの引っ張る力は強いな。
みんなで容器を固定して、野菜を刻んでいく。
野菜を細かく刻んだら、野菜とひき肉を炒めて、潰したじゃがいもと混ぜ合わせていく。
「よし、あとはみんなの出番だな」
あとは小判型に成形して、小麦粉、卵、パン粉の順番につけて揚げれば完成だ。
「それだと火が通りにくいよな?」
『ヤサイヤダ。ジャガイモスル』
ポテトは歪な丸型に成形して、じゃがいもに似せようとしていた。
そこまでして野菜を食べたくないのだろう。
「パン粉がつけにくいから、衣がしっかりしてなくて爆発するぞ?」
「ばくはちゅ!?」
『ババババクハツ!?』
ドリとポテトは爆発すると聞いて、たくさんの衣をつけていた。
さすがに爆発しても家は飛んでいかないよな?
念の為に俺も衣をたくさんつけておく。
「なんかパパ達ってそっくりだね?」
「俺と百合も似てるだろ?」
「似てないわよ!」
「そう? 私から見てもそっくりよ? コロッケを一つ一つ丁寧に作っているじゃない」
「そそそ、そんなことないもん!」
百合は小判型に成形したものを真ん中でギュッとして形を変えていた。
「私なパパのためにハートを作りたかったんだもん!」
「相変わらず意地っ張りなんだから……」
小判型の中心を押し込めばハート型になるもんね。
「それが百合のいいところだからな」
「春樹もパパさんと似ているわね」
春樹達家族も楽しそうにコロッケを作っていた。
そういえば、聖奈はいつになったら帰ってくるのだろうか。
ブンブンチョッパーで野菜をぶちまけたのは私です……。
ええ、今回書いていて思い出しました。
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コミカライズの方は順調に作業が進んでいるようです?