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14.配信者、野菜と花束を配る ※一部貴腐人視点

「本当にここでできたトマトか?」 


 深紅の宝石のような輝きを放つトマトは、今にも中のゼリー部分が飛び出しそうなぐらい果肉が膨れ上がっている。みずみずしい姿に今すぐかぶりつきたくなる。


 畑の半分以上はそのまま荒れた状態だが、その中でトマトが異様に赤く輝いている。


「レタスも引き締まっているぞ!」


 結局手伝うことになった祖父は大きく成長したレタスを持ってきた。


 うん、明らかにレタスもぎっしりしている。一瞬白菜を持ってきたのかと思うほどだ。


 きゅうりはもう少しで収穫の時期を迎えるだろう。


 まだ畑を初めて一ヶ月も経っていないのに、収穫ができるとは思わなかった。


 これもドリのおまじないが効いているのだろうか。


「パパ!」


 満開に咲いた花をドリも集めてきた。もはやどっちが花なのかわからないほどだ。


 花束を作ることを説明すると、嬉しそうに花を摘んできた。せっかく咲いた花もすぐになくなり、花壇はまた土だけに戻ってしまった。


「またお花の種を買ってこないとね!」


 次は花畑を作って、たくさんの種類を植えるのも良いだろう。


 午前中に収穫を終えた俺達は、野菜と祖母が作ってくれた小さなブーケを車に詰めて、探索者ギルドに向かう。


 このワンボックスカーも元々は畑をやっていた時に祖父が乗っていた物だ。


 室内も汚れていてだいぶ古臭さを感じる。


 大きく揺れる振動も、ドリにはアトラクションに乗っている気分なんだろう。


 車を一時間ちょっと走らせて、探索者ギルドに到着した。


 今回はカートにたくさんの野菜と花束を運んでいく。ドリもお手伝いして、花束を持っているが、正直言うとドリの方が可憐で愛らしい。


 中に入るとなぜかギルド内は慌ただしくなっていた。


「その魔石はどこからですか?」


「こっちは関西支部からだ」


「こっちは四国支部からだぞ」


 ギルドの職員はバタバタしている。中にいる探索者達もいつもより人数が多くいるような気がする。


「直樹さーん!」


 昨日依頼を作成してくれた受付嬢が気づいて駆けつけてくれた。


「あのー、ご迷惑をおかけ――」


「宣伝してくれて助かります!」


「えっ?」


 どうやらあの依頼のおかげで、たくさん魔石がこのギルドに納品されたらしい。そのまま企業に卸すことで、利益の一部がこのギルドに入ってくる仕組みらしい。


 あまり仕事が回ってこないこのギルドで働く職員は、他のギルドに比べると給料が少ない。


「ひょっとしてしたら賞与が増えるかもしれないんですよ」


 迷惑をかけたと思っていたが、ギルドに良い効果を与えたのであれば、それで少しは気持ちが軽くなる。


「よかったら関わった探索者達に花束を配ってもらってもいいですか? あとは野菜も収穫したので、ギルド内で食べてください」


「これってトマトとレタスですよね?」


 トマトとレタスだけだが、異様に大きい野菜に探索者達も含めて目が惹きつけられている。


「初めて作った野菜なので、まだ売り物にできるレベルでもないですし……」


 野菜はできてもまだ販売方法を決めていない。


 そもそも包装方法や値段も考えていないため、自家販売や農産物直売所で直接売る形で始めていくことになるだろう。


「あのー、良ければそのお野菜頂いてもよろしいですか? できれば2つずつ欲しいわ」


 探索者の中では珍しく綺麗な身なりをした女性が声をかけてきた。


 よくテレビに出てくる美魔女とはこういう人のことを言うのだろう。


「貴婦人様がお野菜食べるんですか!?」


「あなたこの間から失礼よ! 貴()人でも野菜ぐらい食べるわよ」


 持ってきた袋にトマトとレタスを入れて女性に渡す。


「よかったらいつか感想が欲しいです」


「ありがとう。いつも応援しているわ」


 ん?


 応援してもらうほど、探索者ギルドで何かした記憶もない。


 その後もギルドの職員や探索者に野菜を配り家に帰ることにした。


 あっ、肝心な魔石をもらってくるのを忘れていた。





「鉄壁の聖女がこんなところで何をやっているのかしら?」


「貴婦人さーん!」


 ひっそりと壁に隠れていると思ったら、ずっと"畑の日記"を配信しているパパとドリアードを見ていたようだ。


 彼女は私と同じSランクで、探索者業界では有名な彼女はある二つ名を持っている。


 そんな彼女は二つ名とは異なり、思っているよりも引っ込み思案な性格をしている。


 普段の性格と戦っている時は別人のような姿から、今の二つ名がつけられた。私も初めて見た時は死ぬかと思ったわ。


「あなたの分ももらってきたわよ」


 袋に入っているトマトとレタスを彼女に渡すと嬉しそうに笑っていた。


 彼女はわざわざ魔石を直接渡すために、この街のギルドに来た変わり者だ。


 どうやらドリアードのドリを推しているらしい。


 私はどちらかといえばパパを推している。早く決まった男性パートナーと仲良くなって欲しいものだ。


「へへへ、ドリちゃんの作ったやつだ」


 正確にいえばドリアードではなく、テイマーのパパが作った野菜だ。


「それでこの野菜を見て気にならないかしら?」


「野菜ですか……? あっ、魔力が宿ってますね」


「きっと低ランクの探索者は気づかないだろうが、あなたはわかるようね」


 基本的に魔力が宿った食材はダンジョン内でしか手に入らない。


 ただ、ドロップ品でも珍しいため、以前魔力が宿った魔物肉が家一件買えるほどの値段で売れたぐらいだ。


 過去にダンジョンで栽培の実験をしたという報告があるがどれも失敗に終わっている。


 それだけ魔力を含んだ食材が手に入らないのが常識だ。


 そんな中、目の前にある野菜が魔力を宿している。


 私達Sランクの探索者でもこの事実に驚きを隠せない。


「食べたら怪我や病気が治る野菜。そんな野菜が作れると知られたら、あのパパ達の運命は変わってしまうわね」


 少ない魔力では変化に気づかないだろう。だが、食べ続ければ何かしらの変化はきっと起きるはず。


 魔石を使って魔法を操る魔法職である私も、体内に魔力を貯めることが出来れば戦い方はさらに変わるだろう。


「本当に魔力がどれくらいあるのか、友達の鑑定士に渡して調べてみる」


 彼女はそう言っているが、私の袋をチラチラと見ている。


 本当にあの人達のことが好きなんだろう。


「仕方ないから私の分のレタスはあげるわよ」


「へへへ、貴婦人さんありがとう」


 この素直さが彼女の魅力だ。その勢いでドリアードの元へ遊びに行ってしまえばいいのに。


「じゃあ、私は――」


「貴婦人さんこれお礼に受け取って!」


 私はAランクの魔石を二つ渡された。きっとドリアードのために準備したのだろう。


「魔法職の私が有意義に使ってあげるわよ」


 あの野菜がこの魔石以上の価値になることをあの場にいる人達は知らないだろう。

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畑で迷子の幼女を保護したらドリアードだった。2〜野菜づくりと動画配信でスローライフを目指します〜

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