145.配信者、秘密を知る
「たしか探索者が一般人に手を出したらいけないはずじゃないか!」
探索者に囲まれていた五味は声をあげていた。
「あなたは推しの畑を奪った魔物だ!」
「いや、魔物じゃなくてゴミね!」
確かにあの人は漢字で書くと五味とも読めるが、正しくは五味のはず。
「あのー、あの人は――」
「ゴミでも可燃ゴミかしらね。私の患者をいじめる人は容赦しないわよ?」
ついにはゴミから可燃ゴミになってしまった。
それよりも俺はいつのまにか先生のクリニックの患者になったようだ。
たまにマッサージ機をやりに遊びに行っていたからかな。
「おーい、大丈夫か?」
「発作は出てないかね?」
遠くから春樹と祖父が走ってきた。
どうやら春樹も畑仕事を手伝っていたのか、ツナギを着ていた。
「俺は大丈――」
『シィー! ホッサノコトシラナイヨ!』
「はぁ!?」
祖父にポテトが注意していたが、あれだけ大きな声で話したらさすがに気づくだろう。
「やっぱりお前話せたのか!?」
『ハァ!?』
ポテトは驚いた顔をしていたが、すぐに俺から目を逸らして手を地面につけた。
『クゥ……クゥーン!』
いやいや、今頃甘えた犬を演じても無理だろう。
チップスもそんなポテトをバシバシと叩いていた。
「まぁ、世の中話す犬ぐらいいるよな」
『『ナイナイ!』』
なぜか我が家の犬達に全否定されてしまった。
そういえば、さっきからチップスも話していたな。
やっぱり似た者……いや、似た犬同士で夫婦になるのだろう。
そんなことを思っていると、春樹と祖父もすぐに到着した。
春樹は俺の肩を掴むとマジマジと顔を見つめてくる。
「やっぱりお前ってイケメンだよな」
「はぁー。心配かけやがって」
ただ、春樹はどこか嬉しそうだった。
そんなに俺って体調を崩しやすかったっけ?
いや、この間倒れたばかりだから、家から出してもらえなかったのか。
「この間倒れたばかりだったね」
「さすがにそれは覚えていたか。いつもは記憶をすぐに失うからな」
「そういえば、発作ってなんのことだ? 記憶がなくなるのと関係しているのか?」
「お前やっぱり聞いていたのか?」
みんなしてポテトをジーッと見つめていた。
居心地が悪かったのか、俺の後ろに隠れるとお尻を甘噛みしていた。
なぜ俺が噛まれないといけないのだろうか。
俺は記憶をよく失うと聞いている。
ただ、それがなんなのかはわからなかった。
きっと何か病気が関わっているとは思っていた。
それが今言っていた発作と関わっているのだろう。
「もう黙っているのも無理があるか。あとで先生のクリニックに行くぞ」
「認知症のワシが付いていってやるぞ?」
むしろ俺より祖父をクリニックに連れていくべきだと思う。
「じいちゃんって実は認知症じゃないよね? 普通は認知症って言わない――」
『ハハハ、ジイチャンハボケダ!』
「そうだぞ! いつも一緒にいるポテトが言うんだ!」
たしかにいつも一緒にいるポテトが言うんだから間違い無いだろう。
今朝もリードを持って祖父を散歩に連れてっているからな。
「おい、そんなところで話してないでこいつらを止めろよ!」
声がする方を見ると、貴婦人の毒沼に埋もれていく五味の姿があった。
上から聖奈と先生が落ちていくように押し込んでいた。
ポテトと祖父のことで、すっかり五味の存在を忘れていた。
いや、今の俺の中ではあいつのことは簡単に忘れてしまうだけの存在ってことだな。
散々あんなことをやられていたら、助ける気にもならない。
「犯罪者って俺達で捕まえても大丈夫なんですか? さすがに殺すのは……」
「ああ、それはもう許可をもらっているから大丈夫ですよ」
それは捕まえる方なのか、殺す方なのかどっちの許可なんだろう。
三人ともニヤニヤと笑っているから、どこか不気味で怖い。
「そろそろ彼女も来るでござる」
「うわぁ!?」
ずっといないと思っていた侍が突然姿を現した。
どうやらツナギを着た影響か、さらに目立たなくなっていたようだ。
――チリンチリン!
遠くから自転車のベルを鳴らしながら近づいてくる人がいた。
「皆さん手荒なマネはダメですよ」
来たのは元イーナカ探索者ギルドの受付嬢で、現在は家の近くにできた探索者ギルドのギルドマスターだった。
彼女は自転車を止めると、ゆっくりと近づき何かを唱えた。
すると一瞬にして貴婦人が出していた毒沼が消えた。
「もう乱暴ね!」
もちろん五味はその場で体が畑の中に埋まっている。
毒沼ってただの土からできているってことだろうか。
「私の力はこのためにあるようなものですからね」
彼女は何度もチラチラとこっちを見ているが、何をしたいのだろう。
「捕まえたなら早く取り締まりなさい」
「なぁ、聖女さん!?」
「あなたの仕事はその人を警察に身柄を渡すことでしょ?」
「私だって久しぶりに直樹さんを見たんですよ!」
間を反復横跳びをするように聖奈は視界を塞いでいた。
探索者の関係者同士って結構仲が良いのだろう。
「とりあえず、なおきゅんは今すぐにクリニックに来てもらってもいいかしら?」
「わかりました」
俺はそのまま先生と共にクリニックに向かうことにした。
「じゃあ、ワシらは畑作業に戻るとするか」
「それもそうね」
『ワン!』
急いで駆けつけた祖父や探索者は畑作業に向かっていく。
「おい、誰かなんとかしてくれよ!」
「そうですよ! このままじゃゴミを埋葬することになりますよ!」
「さぁ、なおきゅん行くわよ!」
俺は先生に手を掴まれるとクリニックにズルズルと引きずられていく。
ドリとチップスは俺のことが心配なのか、一緒に付いてくることにしたようだ。
しばらく畑に埋もれた五味と彼女の叫び声が響いていたが、俺にはどうすることもできない。
それにしてもまたあの人の名前を聞き忘れてしまった。
10/10に二巻が発売します。
今後の続刊のためにも、購入検討していただけると嬉しいです!
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「ほんきゃってね! きゃわないこは……」
『カミツクゾ!』
ポテトがあなたのお尻を狙っているかもしれないですよ?
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