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143.配信者、初の散歩をする

「チップスと散歩するのははじめてだな」


『ウン!』


 チップスも散歩が楽しいのか、尻尾を振ってリードを引っ張ってくる。


 うん……認知症の祖父と違って、俺は迷子にはならないけどな。


 そもそもリードを手で引っ張っているが、犬の散歩はこれが正しいのだろうか。


 まるで俺が散歩されているようだ。


「そういえばチップスはずっと家事をしているのか?」


『ウン!』


 雑巾で床掃除とか、食器を拭いているところをよく見かける。


「あまり無理するのいけないからな」


『ワーン!』


 我が家の犬達は働き者だな。


 きっと祖母と一緒に家事をしていたら、忙しなく動いているだろう。


 せめてお掃除ロボットでも買ってあげた方が良いな。


「お手伝いありがとうございます」


 畑の横を通り過ぎると、誰かが畑作業を手伝っていた。


 忙しいのか手だけ上げて返事をしている。


 働いている姿を見ると、家の中でゴロゴロしているのが、申し訳なくなってしまう。


 そのまま畑を通り過ぎようとしたら、リードが引っ張られるような気がした。


 チップスが足を止めていた。


「どうしたんだ?」


『グルルルルル!』


 なぜかチップスは俺に威嚇している。


 チップスに何かした覚えもないし、ただ歩いていただけだ。


 何か悪いことでもしたのだろうか。


「嫌なことがあったのか?」


『ケッ、ペッ!』


 チップスは地面に唾を吐いていた。


 いつから我が家の犬はヤンキーになってしまったのか。


 育て方が悪かったのか?


 いや、こいつらは成犬になってから家に来たから、反抗期にしては遅すぎる。


『グルルルルル!』


 大きく唸るとそのまま大きく飛び上がった。


 チップスはそのまま俺を大きく超え、畑に向かっていく。


「おい、なんだこいつ! また犬か!」


 あれ?


 どうやら俺に怒っていたわけではないようだ。


 それにまた聞いた声がするぞ。


 たしか畑の方に向かって……。


「あれ? ここって畑を休ませるために何も植えていなかったはずだが……」


 よく見るとチップスは誰かに飛びかかろうとしていた。


「チップス待て!」


『クゥーン』


 言葉に反応して、チップスはおすわりをして待っていた。


 一瞬、チョーカーの効力で止まっているのかと思ったが苦しそうな表情はなかった。


 むしろ、何かが気になるのかチラチラと交互に俺と畑にいる人を見ていた。


「チップスがすみま――」


「やっぱりお前のところは駄犬ばかりだな!」


「なぜあなたがいるんですか?」


 畑にいたのは五味だった。


 なぜあの人がここにいるのだろうか。


「くっ……」


 頭を急に叩かれたような痛みと、全身に錘を背負ったように体が重くなる。


『ワォー!?』


 チップスはすぐに俺に寄り添って、顔をペロペロと舐めている。


 ポテトなら元気を出せと言わんばかりにお尻噛んでくるが、チップスはさすが母親だな。


「またそうやって――」

『グルルルルル!』


 今にも飛びかかりそうな状態で警戒して唸っている。


 まるで俺が守ろうとしているのだろうか。


 子どもが生まれたばかりで、警戒心が強いのか?


 むしろ守るのは飼い主の俺の方だ。


「チップス大丈夫だ」


 俺は立ち上がりチップスを隠すように五味の前に立つ。


 そもそもこの間倉庫にいたはずだが、なぜここにいるんだ。


 たしかあいつは――。


「俺の畑をまた(・・)荒らしに来たのか?」


 俺はあの時の記憶を思い出した。


 たしか畑に除草剤を撒いたり、さつまいもを売り物にできなくしたのは目の前にいる五味だと自白していた。


「ななな、君は相変わらず頭がおかしくなったのか?」


『バウバウバウバウバウ!』


 まるで俺の耳に入らないように、破裂音のような鳴き声で吠える。


 だんしゃくのあの鳴き声は母親譲りだったのか。


 だが、俺の耳にしっかり聞こえてる。


「頭がおかしいのはあなたの方です」


「何を言ってるんだ? 俺は畑を手伝って――」


「ここにはそもそも休ませている畑しかなかったです。それにここで作っていたさつまいもはそんなに蔓が綺麗じゃないです」


 自慢ではないが畑一年目の俺が作ったさつまいも畑は、こんなに綺麗にできていなかったはず。


「そんなはずはないだろ! よく見てみろ!」


 五味は蔓を引っ張って手に持ち、俺に近づいてきた。


 あの時も俺の知らない内容で書かれた紙の束を渡してきたな。


 ただ、どこから見ても俺が作ったさつまいもの蔓ではない。


 それに普通なら蔓の先にさつまいもが付いているはず。


 さつまいもがそこら辺に転がっているが、明らかに俺の作ったさつまいもではない。


「自分の育てたさつまいもぐらいわかります」


 俺の畑で採れたさつまいもはふっくらとした楕円形にまるまるとしたシルエットだったからな。


 目の前にあるのは、どこか細長くてしっとりとした甘みの強いさつまいもだろう。


「うるさいな!」


『ワオオオオオン!』


 五味が手を振り上げたタイミングで、チップスは大きく遠吠えを上げた。


 澄んだ青空に破裂音に近い音が響き渡る。


 まるで誰かに何かを伝えているような遠吠えは、空気を震わせるように伝わっていく。


「あら、こんなところで何してるのかしら?」


 ああ、一番に伝わったのは目がチカチカするほどのピンクのタンクトップと短パンを装っているあの人だった。

第二巻の追加情報は活動報告で確認してください!

今後の続刊のためにも、購入検討していただけると嬉しいです!

よろしくお願いいたします!


「ほんきゃってね! きゃわないこは……」

『カミツクゾ!』

 ポテトがあなたのお尻を狙っているかもしれないですよ?

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畑で迷子の幼女を保護したらドリアードだった。2〜野菜づくりと動画配信でスローライフを目指します〜

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