141.配信者、子犬達と遊ぶ
「なぁ、そろそろ畑に行ってもいいよな?」
「メッ!」
相変わらず俺は家に監禁されていた。
ベッドの上からは解放されたが、家から出るのを禁じられている。
この間こっそりと外に出ようとしたら、ドリに引きずられて家に戻されたからな。
聖奈達は鬼ごっこで見慣れているのか、引きずられている俺を見て笑っていた。
「畑はわしらがやるでいいぞ?」
『イイゾ!』
玄関で落ち込んでいる俺を横目に祖父とポテトは畑に向かっていく。
俺が監禁されている間の畑は祖父とポテトを中心に探索者達が畑作業をしているらしい。
「今までアルバイトとして雇われている私達が何もしていないですからね」
「拙者は畑の中で隠れる術を編み出したでござる」
「侍は何をしなくても消えているぞ?」
「うっ……」
みんな俺達と同じようなツナギを着ている。
どうやら探索者達も楽しく畑作業をやっているようでよかった。
元々聖奈以外は短期アルバイトとして我が家に住んでいる。
少しぐらい手伝わないと家にいるのも申し訳ないと思っていたらしい。
俺も何もせずに家にいるため、体が鈍ってしかたない。
「皆さんにご迷惑をおかけしています」
「気にしなくていいですよ。私達にはやることがありますからね」
「推しに手を出したやつには地獄を――」
「パパさんはゆっくり休むでござる」
「それがいいですね」
聖奈と侍が貴婦人の口を押さえて、祖父とポテトを追いかけた。
今日は誰かが地獄に堕ちるのだろうか。
「体を動かしたいなら一緒に小屋を建てるか?」
「いやー、あそこまで出来たら俺は邪魔だと思いますよ」
いつのまにか庭にはポテト達の立派な新居が建てられている。
土地が余っているから特に気にはならないが、そのまま一軒家を小さくしたような建物ができていた。
小屋を建て始めてから数日しか経っていないはずだけどな……。
本当にあの人は凡人なんだろうか。
今もクマのシャンシャンを従えて、窓ガラスを運んでいる。
俺よりよっぽどテイマーっぽい。
内装工事も少しずつ進んで、もうそろそろ完成するのだろう。
やることがない俺はポテトの子ども達の元へ向かう。
「みんな元気かー」
扉を開けると子犬は楽しそうに戯れあっていた。
この間見た時よりもだいぶ大きくなっている。
だんしゃくなんて、チップスとそこまで大きさは変わらないぞ?
そんなだんしゃくの上で、きたひめとメークインが体を伸ばしていた。
――パシュ!
俺の存在に気づいたのか、伸びきっていたきたひめの体は音を立てて元に戻る。
あの体はどういう仕組みなんだろうか。
それに体が大きくなった影響か、ミニチュアダックスフンドに似た何かという感じだ。
一方、遊んでいたのがバレたくなかったのか、メークインは姿勢を正してポーズを決めている。
まるで俺は前からここで陽を浴びていたと言わんばかりの表情だ。
『フンッ!』
「今頃澄まし顔をしてもバレてるよ」
『ハァ!?』
ポテトの子どもの中では一番人間味のある姿をしているが、バレた時は普通の犬に戻るからな。
傍からどうやって見られているか気にしているのだろう。
まるで犬よりも人間の子どもに近いか。
「暇だから一緒に遊ばないか?」
『バゥ!』
言葉に反応して、足元で寝ていただんしゃくが目を覚ました。
「うぉ!?」
破裂音のような鳴き声をするため、こっちがびっくりしてしまう。
「よし、ボール遊びでもしようか!」
ボール遊びと言えば犬達は尻尾をブンブン振って食いつく……はずだよね?
とりあえずボールを投げて様子を見る。
「おーい、ボールが行ったぞー!」
声をかけてみるが反応がない。
なぜか三匹とも俺を見ては残念そうな顔をしていた。
表情豊かなのは良いが、俺の心はズタボロだぞ?
「どうせ俺と遊ぶのはつまらないんだろ?」
ポテトに懐かれていないのは気づいてる。
ただ、まさか子犬達にもここまで懐かれていないとはな。
投げたボールを片付けようと取りに行くと、メークインが俺の脚をツンツンとしていた。
「なんだ?」
メークインは手を出してボールを見ていた。
どうやらボールで遊びたいのだろう。
俺はボールを渡すと部屋の隅に向かって、円を描くように投げた。
「おー、メークインは力が強いんだな」
生まれてそんなに経っていないのに、力も強いのだろう。
そんなメークインの頭を撫でる。
『フンッ!』
だが、手を弾かれてしまった。
やっぱりまだ懐かれていない。
カラアゲの時ははじめからべったりだったが、中々犬と仲良くなるのは難しいようだ。
『バゥ!』
『ニョン!』
『オイ!』
そんなことを思っていると、三匹は吠えていた。
目を向けると部屋の隅に転がっているボールを見ている。
またボールを投げたいのだろうか。
ボールを取りに行き、今度はだんしゃくに渡す。
だんしゃくはボールを咥えると、またも部屋の隅に向かってボールを投げた。
『バゥ!』
『ニョン!』
『オイ!』
「ボールが欲しいのか?」
俺の言葉に三匹とも頷いている。
またボールを取りに行くと、三匹とも尻尾を振って喜んでいていた。
その姿を見て、少し距離が近くなったのを感じた。
ただ、ボール遊びといえば取りに行くのが楽しいはず。
我が家の子犬達は投げる方が楽しいらしい。
「よし、次はきたひめだな」
『ニョン!』
きたひめにボールを渡すと、長い体を使って器用に飛ばしていた。
みんな小さいのに器用な子だ。
その後も俺がボールを拾いに行っては、子犬達はボールを投げていた。
ボール遊びってこんな遊び方だっけ?
まぁ、みんなが尻尾を振って喜んでくれるなら気にしないでおこう。
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「ほんきゃってね! きゃわないこは……」
『カミツクゾ!』
ポテトがあなたのお尻を狙っているかもしれないですよ?